防衛*3
さて。
窒素部屋にご招待した7人の内2人は、咄嗟に口元を覆って窒素から逃れようとしていたんだが……そんな彼らの頭上から檻が落ちてきて、彼らは見事、囚われの人々になってしまった。
窒素から逃れたものの檻からは逃れられなかった2人も、やがて迫りくる窒素によって窒息し……そしてそのまま、気絶した。
「よし、気絶した!すぐ換気換気!」
なので俺は、大急ぎで酸素を再構築。ぶわーっ、と空気が入れ替わって、ひとまず、気絶している人達を助けておく。これでよし。
これで現時点で、泥濘で転んだ3人と、窒素で窒息した7人。この合計10人を檻に入れることに成功している。
……で、穴の底の窒素被害者達が全員気絶しちゃって、穴の上に居た連中も別ルート目指して離れて行っちゃったので、俺は無事、窒素被害者達の周りでも分解吸収再構築ができるようになった。
そう。
分解吸収再構築ができない条件は、『敵対する相手が、俺や俺が分解吸収再構築しようとしているものや空間に手出しできる状況になっていること』なんだよな。
ということはどういうことか、というと……当然、『敵対する相手が何も認識できておらず、何にも手出しできる可能性が無い』って状況になってれば、すぐとなりで分解吸収再構築することも可能ってことなんだよな。
「まずは装備を分解……宝石も全部回収!」
ということで早速、装備類を一式分解吸収した。おっ、中々いい元素使ってんじゃん!なんと!銀と金が手に入ったぜ!
そう。この白っぽい金属鎧、金や銀の模様が入ってて中々に豪華なのだが、そうなると当然、金元素と銀元素が手に入るのだ!ありがとう!
お礼ついでに、俺は慈悲深い神なので、パンツは分解せずにいてやることにした。慈悲深い。我ながらとても慈悲深い。
「続いて、枷を再構築!」
が、無手でもパンイチでも、ファンタジー力溢れる聖騎士達である。何をしでかすか分からないので、ちゃんと枷を付けておくことにした。
「で、移送用にダンジョンを再構築していって……」
そして、彼らが収容されている檻の底に車輪をつけたり、洞窟内の床にレールっぽく溝を切ったりして……。
「搬出!」
搬出する!檻ごと搬出する!聖騎士達は出荷よー。
「えっ、アスマ様!?もう搬出するの!?」
「うん!7人捕まえた!パンイチにしといた!」
「ぱんいちとは一体……?」
一応、現状報告は必要だろうということで、ミシシアさんとリーザスさんには特大独り言を聞いてもらった。はい、出荷よー。
……そうして出荷された聖騎士達は、洞窟の入り口近くまで運ばれた。ついでに、ぴょこ、と洞窟入り口の上に『出荷したよ』の合図である旗を掲げて、入り口の岩戸を分解。すると、『なんだなんだ、岩戸が消えたぞー』『不思議だぞー』と大根役者をやってくれている冒険者達が寄ってきて、檻を確認してくれた。
そのまま、檻の中のパンイチ聖騎士達の檻は冒険者の手で運ばれていき、後から届けた檻の鍵によって移動式の檻は開けられ、そして、無事、村の牢屋にパンイチ騎士達がぶち込まれる運びとなった。
……実にスムーズだった。残り10人も是非この調子でいきたい。
さて。
そうして意識を戻して……残り10人の聖騎士達はというと。
「くそ、なんて迷路だ……」
「同じところで迷い続けているかのような錯覚に陥るな……」
「階段を下り続けているから、降りてはいるんだろうが……」
……同じところをぐるぐる回っていた。
いや、えーと、本当に同じところをぐるぐる回っていた。『同じところで迷い続けているような錯覚』じゃなくて、マジで、同じところで迷い続けている。
そりゃそうだな。分からないくらいの勾配で上り続ける通路の先に下り階段があって、元の位置に戻ってくる、っていう仕組みだからね、これ……。
……体力を消耗してくれる分にはありがたい。こいつら、落とし穴に落ちた7人よりも瞬発力とファンタジー力が高い連中なんだろうし。そんな連中に真っ向から罠を使ったって、中々上手く引っかかってくれる気がしない。
なら、体力を消耗してもらうべきだ。……ということで、彼らが同じ道をぐるぐるし続けるのを、しばらく見守ることにした。
そうして小一時間。
『やっぱり同じところを回り続けているぞ!』と気づいた聖騎士が居たため、彼らはまた別の道を進み始めた。
だが。
「くそ!また行き止まりか!」
「忌々しい迷路だな!」
……当ダンジョンは、魔物が出ない代わりに毒と罠、そして迷路で侵入者を防いでいるダンジョンなので、まあ、当然、こういうことになる。
「うわっ!毒矢だ!毒矢だぞ!」
「どこから出てきた!?」
更に、聖騎士達が足を引っかけたワイヤーによって毒矢トラップが作動したり、毒針の落とし穴がコンニチハしていたりしながら、迷路はどんどん彼らの体力を消耗していく。
……多分だけど、こいつら、ダンジョンっていうより魔物に強い連中なんじゃないかなあ。
身のこなしはちゃんとしてるし、ファンタジー力も高い。床が突然消えたって状況でも落とし穴回避できるくらいのファンタジー力がある訳だからな。
でも……迷路とか、罠とか、そういうのには、あんまり強くないんだろうな、これ。
……人間の強さって単純なもんじゃないんだよなあ、ということは、考えさせられるな。
戦うのが得意であることが生き残ることに直結するわけじゃないし、体力があればダンジョン踏破できるってわけじゃないし。
まあ……今回の聖騎士に限らず、色々な挑戦者が来るんだろうから、今後も色々考えて研鑽していきたいね。
さて。
そうして聖騎士達は、順調に罠に引っかかり、毒を受けては解毒剤を使う、という循環を繰り返していた。
毒はポーションで消せても、失った体力は中々戻ってこない。元々が迷路で迷い続けていることもあって、彼らの体力はどんどん消えていく。それにそもそも、彼ら、雨で濡れてそのままだからな。体力はどんどん消えているところだろう。
「くそ……冒険者が最奥まで到達したと聞いていたが……単純なダンジョンではなかったのか?」
「このダンジョン、何かがおかしいぞ……。我々が村に到着した途端に大雨が降り出したこともそうだ。何か、よからぬ魔法を使う者が居たのでは……」
そうして体力が減って気が弱ってきた彼らは、一旦休憩することにしたらしい。まあ、賢明だな。
だが、俺は休憩を許さない。許さんぞ。当然だ。徹底的に追い込む!
ということで、彼らが休憩している場所についてだが。
下り坂と下り坂に挟まれた通路に居る。通路脇に丁度いいかんじに10人くらい人間が入れるような窪みが用意してあるんで、そこに入って休憩するようだ。
……ということで。
二酸化炭素をファーッと注入した。
二酸化炭素は空気より重い。とはいっても微々たるもんだが。
それでも、静かにファーッと注入された二酸化炭素は、下り坂を通ってそのままふわふわと、下り坂の底……聖騎士達が居る場所へと向かっていき、そして、徐々に徐々に、音も無く溜まっていく。
そして当然……二酸化炭素濃度が上がっていくと、色々と症状が出てくるわけだ。
「はあ、疲れたな……」
「魔物も出ず、罠ばかりで、そして何より、迷路が長い……。全く、どうなっているんだ、このダンジョンは!」
まず、聖騎士達は、疲労感や苛立ちを露わにし始めた。どちらも酸素が足りないと起こりやすい症状だよな。
「ふわ……ああ、くそ、眠いな……」
「朝も早かったからな……」
更に、欠伸も出てきた。酸素が足りない時にはこういう風に欠伸が出る。
「少し仮眠を摂るか……」
「なら、見張りを立てて順番に休もう」
そうして、聖騎士達はいよいよ、昼寝を始めることになった。マントを床に広げて、その上にごろんと横たわり、鎧のまま眠り始める。……あれでよく眠れるなあ。
見張りになった3人は、眠そうにしながらも頑張って窪みの外、通路の両側を警戒している。とはいえ、無色透明な二酸化炭素を見ることはできないって訳だ。
だから、見張りがしっかり警戒していたにもかかわらず……彼らは確実に、意識を削られていく。
ふっ、と、ランプの灯が消えた。いよいよ、酸素が足りなくなったんだろう。
床に置いてあったランプの灯が消えれば、見張り3人も当然、気づく。
「な、なんだ!?敵襲か!?」
「油が切れたか?くそ、なんだって、こんな時に……おい、起きろ。火が消えた」
見張り達は暗い中、手探りで仲間達を起こそうとする。
だが。
「……おい、おい!しっかりしろ!おい!」
一生懸命揺さぶり起こそうとしても、仲間の聖騎士達は朦朧とした状態である。まあね、酸欠になってるからね。意識、落ちてるよね。
「くそ、何なんだ、一体!」
さて。そろそろ丁度いいかな、ということで、俺は窪みの入り口に鉄格子を落とすため、鎖をまた1本、分解して消し……。
「おい!すぐに出ろ!」
……こいつらのような勘のいい聖騎士は嫌いだよ。
なんと、驚くべきことに……見張りの3人と、寝ていたはずなのに咄嗟に飛び起きて、なんとか動いたらしい2人。合計5人は、捕まえ損なった!いや、どうなってんだよこいつらのファンタジー力!
妙なところで勘がいいし、妙に物理法則無視してファンタジーするし!その割に、二酸化炭素で半分はやられるし!
なんか……バランス悪いなあ!
「くそ、鉄格子が……!どうなっているんだ!おい!しっかりしろ!」
「意識が朦朧としてくる……ここに居ては危険だ!」
「だ、だが、中にまだ5人も」
「まずは私達自身の安全を確保するしかないだろう!」
閉じ込められずになんとか逃げた聖騎士達は、そんな話をしながらも、慌てて坂道の上まで駆け出した。その間にも俺は、空気をまた、ファーッ、と入れて、換気しておいてやっている。まあ、トリックが暴かれるとは思っていないが、証拠隠滅しておくに越したことは無いし。このままほっとくと、閉じ込めた聖騎士達、マジで死ぬし。
こうして、窪みの鉄格子の中で気絶している奴らも武装解除のパンイチにして、また出荷できるように調整。
調整しつつ……さて。
「あと5人かぁ。同じ手に引っかかってくれるとは思えないしなあ」
多分、もう『目に見えない毒』みたいなものは警戒されると思うんだよな。
となったら……見えても回避できない奴でいくか!




