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ちび神様の楽園ダンジョン  作者: もちもち物質
第一章:ダンジョンは村に進化した!
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挑戦者*4

 俺のダンジョンパワーが発動できなくなる条件について検証していって、幾つか『発動しない』状態を作り出すことができた。

 1回目は、最初の。リーザスさんによって地面に組み伏せられた時だ。あの時はもう、ダンジョンパワーは全く使えなかった。

 で、2回目は、リーザスさんに『殺す気で俺の腕掴んで』とお願いした時だ。リーザスさんの多大なる心労と引き換えに叶ったこの検証では、やはりダンジョンパワーが全く使えない、という結果となった。

 ……で、3回目。同じことをミシシアさんにお願いしてみたところ、組み伏せてもらった時にはダンジョンパワーは全く使えなかった。

 が、4回目。今度は『殺す気で腕を掴んで!』とまたミシシアさんにお願いしてみたところ……リーザスさんの時とは違って、触れられる直前までは、使いにくいながらもダンジョンパワーが使えた。

 えーと、この4回目が曲者なんだよな。どうやらこの『ダンジョンパワー使えなくなる問題』は、0か1かで決まっておらず、バリエーションでグラデーションな風に結果が決まる……っぽいことが判明した訳だ。


 ……で、ここまで来ればやっぱり、『敵意』が鍵になってるっぽいことは分かった。

 ので、リーザスさんに剣を突き付けてもらったところ、ダンジョンパワーはやっぱり全く使えなくなった。これが5回目。

 で、続いてミシシアさんに剣……ではなく、引き絞った弓を俺の目の前で構えてもらったところ、ダンジョンパワーはやっぱり全く使えなかった。これで6回目。

 ……それから、リーザスさんに少し離れたところで剣を持ってもらったら特に変化が無くて、でも、『頑張って俺のこと殺そうとして!』とお願いしたところ、ダンジョンパワーが大分使いにくくなった。これが7回目。

 そして今、ミシシアさんに『じゃあ離れたところから矢を射る構えで俺を狙って!』とお願いしてみて……『ダンジョンパワーがなんか発動しにくい』というところまで分かった。これで8回目。


「リーザスさんが50m先で剣を構えている分には、ダンジョンパワーが微妙に使いにくいがまあ割と普通に使えるぐらいだなあ」

「俺がアスマ様を認識しているからか?」

「ああー……アスマ様を認識していない状態で50m先で剣を構えている分には関係が無い、っていうのはあり得るよねえ……」

 と、まあ、こういう訳で9つ目の検証も終えて、俺達は相談。

 ……一応ここまでで、『俺にチェックメイトが掛かってる状態』で、俺はダンジョンパワーを使えなくなるっぽいことが判明した訳だ。

 多分これで合ってる。『敵意のある相手』っていうのの判定は、結局のところ、俺に危機が迫っているかどうか、ってことになるんだろうな。

 ……で、それにしたって、『俺の危機』ってのがどういう風に判定されてるのか、ってのについては……これもどうやら、『魔力』の云々であるらしい。




 多分、俺がダンジョンパワーを使う時にも魔力を組み合わせて色々やってる。つまり俺は、ダンジョンの主になって、魔力を操ってダンジョンパワーにすることができるようになった、って訳だよな。

 で、俺に攻撃が向いている状態って、つまり、俺を殺そうとする誰かの魔力がそこに干渉しちゃってる、ってことらしいんだ。

 ……仕組みは分からん。全く、分からん。だがミシシアさんがそう言ってた。この世界って、魔法と魔法が真っ向からぶつかり合う位置にあると、互いに干渉しちゃって、弱い方が魔法にならなくなることがあるらしいんだ。

 ミシシアさんは『だから私も許可が無いと樹を植える魔法が使えないし』と言っていた。リーザスさんも、『仲間と共に戦う時には、仲が悪いと戦闘力の低下に繋がるよな』と頷いていた。そういうもんらしい。どういうもんなんだよ!やっぱりなんか納得いかねえよ!ファンタジーは俺には難しすぎる!


 まあ、俺の納得はさておき……リーザスさんにもうちょい詳しく聞いてみたら、『剣を振るだけでも、そこに魔力が乗ることがある。俺は基本的には魔力を乗せるようにしているよ。その方が威力が上がるからな』とのことだった。

 ……ファンタジーのことは俺にはよく分からんが、まあ、この世界では体を動かすにも、魔力が動くってことなんだろう。多分。で、それが物理法則を無視して、攻撃力アップとかに繋がっている、と……。

 で、その力の向く先が、俺だった場合。その場合……俺に魔力の干渉があるらしいんだよな。

 で、俺のダンジョンパワー、滅茶苦茶干渉に弱い代物らしく……ちょっと調子が悪くなっただけで全然使えなくなっちゃう、という、およそリアルタイムの戦闘には不向きすぎる能力らしいのである!


「そうだよな。逆に、俺を認識していない攻撃に対しては、ダンジョンパワーが使えるかもしれない……」

「あの、でもね、それを実験で確かめるのは難しいと思うよ、アスマ様ぁ。かくれんぼでもして実験してみる?」

「もし魔力の干渉によってダンジョンの力を使えないのだとしたら、広範囲に及ぶ魔法が使われた場合、それでもアスマ様は影響を受けるんじゃないか……?」

 成程ね。ということは、全体魔法攻撃みたいなのが来たら、その時は俺が認識されていなくてもダメってことか。

 となると、敵意が向いてるってよりは、俺に危害が加わる可能性がある状態自体が駄目、っていう風に考えておいた方がいいのかもな……。

 まあ、ただでさえ強すぎる能力って言えばそうだもんな。これくらいの制約は仕方が無いか。

 ダンジョンってのは多分、侵入者を待ち構えてなんとかするのが正しい戦い方なんだろうし……。

 ……ミシシアさんのように弓でバンバン戦ったり、リーザスさんみたいに剣を使ったりするのに憧れないでもないが、まあ、しょうがないな。適材適所。




 だが俺の検証は終わらねえ。

「あれっ、もしかしてこれって、俺自身に魔力および敵意が向いてる時だけじゃなくて、分解したいダンジョンの壁そのものに人の意識が向いてる時とかにも使えなかったりする!?ああーッ!駄目だ!もうちょっと検証しときたい!ごめん!付き合って!」

「いいよー。えーと、アスマ様への意識が向いていない状態での実験だったら……じゃあ私とリーザスさんでダンジョンの中ウロウロしながら壁を見つめたり唐突に弓を構えたりしておくから、その間にアスマ様、うまく実験してくれる?」

「うん!ありがとう!流石ミシシアさん!話が早い!」

 ……まあ、まだまだ細部までは分かり切らないものの、色々と確かめられる部分も見えてきた。とりあえずこれで、多少はダンジョンパワーの仕様を知っていかないとな。

「訓練次第でどうにかなったりしねえかなあ」

「なるんじゃないか?実際に戦場で戦う者は、魔力の干渉に徐々に慣れていくものだぞ」

 そういうことなら、気長にやるしかないかなあ。

 小学生ボディで前線に出る勇気は無いが、まあ、折を見て少しずつ、訓練していくってことで……。




 ……そうして、ミシシアさんとリーザスさんを付き合わせて進めた検証によって、俺のダンジョンパワーの制約が概ね、分かった。これで全部じゃないかもしれないが。


 まず、『俺が敵に触れられている時には発動できない』。

 これはもう、本当にそう。ただし、相手の意識が俺に向いていない時……例えば、敵意が何もないリーザスさんが俺を抱っこしながらもう片方の手で剣の素振りしてる時なんかには、普通に使える。

 が、その剣でミシシアさんに斬りかかり始めると、俺はダンジョンパワーを使えなくなる。つまるところ、『リーザスさんからミシシアさんへの攻撃』に魔力が乗ってしまい、それが俺のダンジョンパワーと干渉するから、ってことらしい。


 次に、『触れられてはいないが、敵の意識が俺に向いている時、特に攻撃が向いている時には発動できない』。

 ……これはミシシアさんの弓矢がいい例だな。矢だから、俺に直接突き付けられてるわけじゃない。間には空間がそれなりにある訳だ。

 だが、それでも矢を向けられていると、俺はダンジョンパワーを使えなくなる。

 ……そして、ミシシアさんと俺との距離が長くなればなるほど、ダンジョンパワーは使えるようになっていく。まあ、それでも微妙に使いにくさみたいなものは残るんだが。


 そして、『相手が俺のことを認識していない状態でも、俺が分解吸収再構築しようとしているものに触れていたり、意識を向けていたりすると、それにダンジョンパワーを作用させることができない』。

 これは壁とか石とかだな。えーと、俺の隣に座ったミシシアさんが、目の前に落ちてる石ころをじっと見つめている時、俺はその石ころを分解吸収できない。

 それから、リーザスさんが立っている近辺の地面は分解吸収できないし、近くの天井とか壁も分解吸収できない。

 あと、再構築もリーザスさんに直接影響があるような形ではできなかった。つまり、リーザスさんを貫く位置に槍を生み出す、みたいなのは無理っぽいね。

 尤も、訓練次第では『味方相手にならこれができる』ってことになるらしい……ので、ここは要検討だ。


 まあ、そんなかんじで……『ダンジョンパワーは他の魔力の干渉に滅茶苦茶弱いっぽい』ことや、『この世界では物理的な攻撃にも魔力が乗ってるらしい』こと、『訓練次第ではそこらへんもどうにかできるかもしれない』ということなんかも分かった。

 あーよかった。とりあえずここらへんが分かってるだけでも大分違うよな。協力してくれた2人に感謝だぜ。




 さて。

 こうして分解吸収再構築の制約が分かってきたところで……俺にはやらねばならないことがある。

「えーと、道を変えとかないとな。一回、踏破者が出たことだし……」

 そう。ダンジョンの改装工事である。


「うちは迷路が肝のダンジョンだからな。道を変えておかなきゃ……」

「大変だねえ……」

「しかも冒険者達が居ない隙を見計らってやらなきゃ……」

「制約があると中々大変だな……」

 ということで俺は、ダンジョンの道をあちこち変えることにした。

 分岐の位置を変えたり、繋ぐ先を変えたり、あちこち塞いだり、迂回路作ったり……。

 まあ、ある程度離れたところからでもダンジョンの中のものを分解吸収再構築できるってことが分かったんで、それを使ってガンガン改装していく。

 でもやっぱり、細かい部分はやっぱり実際に見て触りながらやった方がいいなー。これも訓練次第なのかね。




 ダンジョンの改装工事が終わって、翌日の夕方。

 冒険者需要を見込んで新設された『ダンジョン前食堂』は多くの冒険者達で賑わい、そして、彼らがしきりに情報交換し合っていた。

「コツコツ作ってた地図が役に立たなくなっちまった!」

「ダンジョンの道が変わる例は聞いたことがあるが、こんなに早く変わっちまうとはなあ……」

「魔物が出ないダンジョンってのは楽でいいが、その分、迷路がこうも手強いとは……」

 ……まあ、つまるところ、彼らは『ダンジョンの構造が変わってるんだけど!』という情報を持ち寄っているようだった。

 それぞれが作っていた地図を突き合わせて確認したり、新しい道の情報を出し合ったり。冒険者達ってのは案外、助け合いもやってるんだなあ。

 まあ、こうやって『時々道が変わる迷路ダンジョン』として名が知れてくれれば、戦うのはそんなに得意じゃないけれど小金を稼ぎたい、って人達が集まって、村の経済を回してくれることだろう。

 よしよし、このまま調子よく頼むぜ!




 ……という風に、ダンジョンを運営して、3週間。

 最近あったかい日が続いてるなあ、と思ったら、夏だったらしい。俺、この世界の夏、大好き!これくらいの気温でいて!『あったかいね。日向に居ると流石に汗ばむね』ぐらいでいて!ありがとう!

 で、そんな夏の日差しに負けないくらい、パニス村も活気づいている。


 あれからもう1組、ダンジョン踏破者が出た。彼らも宝玉樹の花や実や葉を持ち帰って、ほくほくしている様子だった。

 なんでも、『宝玉樹の実』はその繊細な細工の美しさと透明な水晶の希少さによって、最高級の香水瓶扱いされているらしい。最初の踏破者達が持ち帰ったそれは、どこだかのお姫様か誰かに献上されたとかなんとか、噂で聞いた。

『宝玉樹の花』は、それはそれで出来の良い水晶細工な訳で、価値が高いと評価されているんだとか。『宝玉樹の葉』については、美しく、魔力が高く、そして大きな宝石……ということでやっぱり高値がついたとか何とか。

 ま、そういう訳なんで、3組目の踏破者にならんとする冒険者パーティが沢山やってきて、このパニス村は活気づいているというわけだ。

 ついでに、いい加減『世界樹』の噂は消えてくれたらしい。まあ、『世界樹』には負けるにしても、唯一無二のみょうちきりんな樹が生えてる訳だから、話題性としてはそっちでも十分だったんだろう。

 ほとんどの冒険者達にとっては、金目の物が世界樹なのか宝玉樹なのか、その差はどうでもいいわけだ。そういうことで、パニス村には『世界樹があるんですよね!?』って来る人は居なくなった。噂を逆手に取った俺達の勝利である。やったぜ。




 ただ……そうして人が増えて、ちょっと気になる奴も出てきた。

「……アスマ様。ちょっと道、曲がろうか」

「え?うん」

 ある日。俺がミシシアさんと一緒にダンジョン前の通りを歩いていたら、ミシシアさんがそれとなく、俺を横に引っ張って行って、特に意味もなく、道を曲がった。目的地である食堂からは遠ざかっていく。

「ミシシアさん、何かあった?」

「うん。もうちょっとね」

 ……そして、若干緊張気味のミシシアさんがそう言いながらスタスタと、何事もないかのように歩いて……数十歩歩いたところで。

「もう、大丈夫かな……」

 ちら、とミシシアさんは振り返って、ふう、と息を吐いた。なんだなんだ。

「ごめんね、アスマ様。えーとね、ちょっと、あんまり顔を合わせたくないし、アスマ様を会わせたくもない人が居て……」

「へ?」

 ミシシアさんの言葉に首を傾げていると、ミシシアさんはなんとも歯切れ悪く、言った。

「……その、教会の人が、来てたの」

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― 新着の感想 ―
ダンジョンパワーの疑問が解決しちゃ…なるほど
冒険者がふー、どっこいしょって岩に腰掛けようとするタイミングではどうなりますか? 岩は消せますか? アスマ様〜、ぜひ検証を〜。
身の危険を感じたらアウトってことですか。魔力は多いし高いはずだけど、それでも干渉されるっていわゆる魔法抵抗がほぼゼロなんかねぇ 体を鍛えて、例えばゴロツキ10人なら身の危険を感じずまとめて倒せる達人ク…
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