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ちび神様の楽園ダンジョン  作者: もちもち物質
第三章:ダンジョンは世界を飛び越えた!
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そして、神になる*5

 ……ということで、俺は忙しかった。あれからというもの、俺は怒涛の日々を送るハメになった。まあそれはそう!


 結論から言えば『何とかなった』んだけど……俺、大学1年生で、まだ所属の研究室が決まってなかったから、それがよくもあり、悪くもあった。俺の所属を巡って、いろんな人がバトルしちゃった。

 おかげでそれが怒涛の日々に拍車をかけちまい、更にちょっと口外できないところとの打ち合わせに巻き込まれるとか、なんか色々あり……。

 それらが、日々、ミッチミチに……ミッチミチに詰め込まれており……俺のライフはもうゼロよ!

 ……で、まあ、本当に色々、俺が引っ張り出されて『向こうの世界』について説明する頃になってくると、いよいよ『こいつはマジで他所に持ち出せない話ですね』ってことになり……そして、『既に色々知っている』者として、俺はそれなりの地位を上手いこと築くことができた、と思われる。

 少なくとも、『とりあえず俺も混ざっておきますね』って方々でやったおかげで、顔は売れた。後は愛嬌と実績と発狂でなんとかする。キエエエエエ!


 あと、俺がもちこんじゃったスライムについては、まあ、許された。

 ……許された!よかった!尚、許されはしたが、『他の国から生物持ち込む時はちゃんと検査してね』と当たり前のことを言われてしまい非常に申し訳なく思いました。科学の徒として猛省しております。本当に申し訳ございませんでした。

 で、スライムは『とりあえず消毒するね』ということで次亜塩素酸に漬けられ、エタノールにも浸けられ、更に『これに浸けても大丈夫……?』と塩素消毒液にも浸けられ、そして『これも……?』と希塩酸とかにまで浸けられ、そして無事であった。だが流石にスライムはちょっと拗ねた。ごめん。ごめんて……。

 が、そんなスライムも、『じゃあ折角なのでスライム君にはこちらをプレゼント』とプレゼントされた発泡入浴剤を大層気に入ったようで、今はご機嫌である。

 ……家の風呂に、パパ上と一緒に入っている。そのせいか、スライムとパパ上はなんかお肌の調子がよろしいようである。よかったね。


 で、そんなスライムの楽しいお風呂ライフはさておき……『異世界』については最初っから緘口令が敷かれた。

 そりゃそうだ。そんなもんが実在していて、しかも『死後の世界』の1つであると言えるかもしれない、なんてことが知れたら世界中大混乱の上、宗教を理由としたテロおよび確信犯的集団自殺までもが勃発しかねん。

 尚、この件についてマスコミには『そーれとってこーい』とばかりに適当なカモフラ用のネタが放り投げられ、無事、マスコミは踊らされている。今、『皇居地下に50年間隠されていた大木のメンテナンスを兼ねたお披露目!』とかふざけたことやってる。或いは『今、カイワレ大根が熱い!』とかやってる。

 が、一方で、どうしても『皇居に生えちゃったクソデカトゥリー』の実在自体は知れ渡っちまうし、そもそも普通に『世界よ、これが本当の東京スカイツリーだ』と言わんばかりにでかでかと存在してて東京どころか一都六県大体どこからでも見えるもんだから、まあ、隠しようが無くてだな……。




「そうして調査隊が結成されたのであった」

「飛鳥馬くーん、虚空に向かって話しかけないでー」

 はい。俺、今、皇居に居ます。うおおおおお……!

 ……アレだ。えーと、ジャングルの奥地とかでフィールドワークやりたい研究者に雇われる地元ガイドみたいな立場になることができた。仕方ねえ。現状、俺が世界で一番『インペリアルクソデカトゥリー』に詳しい人間だからな!

 まあ、いずれファンタジー学を研究していきたいと考えている俺からしてみたら、これが最初の研究だな。……そして!今この瞬間だけでは、俺が世界一のファンタジー学の専門家!俺がナンバーワン!まあ競技人口1名だからってだけだけども!


 ということでテンション爆上げしながら皇居のお庭へGO。

 ……皇居って、広いんだね。そしてその一角に、問題のクソデカトゥリーが生えてるわけだ。

「あー……極めて世界樹っぽい」

「世界樹、というのは、『異世界』とこちらの境目を曖昧にする性質がある樹だったね?」

「あ、はい。そうです。そいつが色々と『曖昧』にすることで、人間の肉体年齢を一気に10歳ぐらい増やしたり、エルフの肉体年齢を一気に100歳ぐらい増やしたりできるんですよ」

「聞けば聞くほど分からないねー」

 ここに集まる偉い人達……『~学の権威』みたいな人達は、実に楽しそうに『この木何の木気になる木!』とやっている。俺も混ざりてえ。でも畏れ多すぎる!

「えーと、この木の樹脂が問題なんですよね。それが『曖昧にする魔力』なので、それを抽出してぶっ掛けた物質は『祈った通りに』変化します」

「こわいねえ……」

「こわいんですよぉ……」

 そうなんですよぉ。祈っただけでなんか変化しちゃうとか、もう、世界の法則が乱れちゃうんですよぉ……。

「じゃあ、それが実際に起こるかどうかを確認してみようか。えーと……この木って傷つけても大丈夫なものなの?」

「あー、あっちでは、枝1本から樹脂の成分を抽出分析して、それを複製して使ってたんで……えーと、素直に樹液を採取しようとすると、めっちゃ時間がかかるみたいです。でも多分、いけます!」

「白樺みたいなかんじでいいのかな?」

「あー、エルフのおっちゃんに聞いたかんじでは、樹に傷付けて、そこから滴ってくるのを綿でキャッチして、それを絞って採取、みたいなかんじでした」

 まあ、この中では俺が一番こういうファンタジーに慣れてるので、俺がやることに。よっこいしょ。




 ……そうして、なんとか数時間かけて10ml程度の樹液が採取できた。遅い……。これ、再構築で大量生産できたのは本当にズルだったんだなあ……。

 が、それでもとりあえず手に入ったことは手に入ったからな。この樹液の量だと、『曖昧にする魔力』の含有量はどんなもんかな、と考えて……1㎝立方のアルミブロックに樹液をぶっ掛けることにした。

 そして。

「では早速!皆様ご唱和ください!ぷにぷにになれ!」

「えっ!?ぷにぷにになれ!?」

「ぷにぷにになれ!?」

 ……戸惑う偉い人達を総動員して全員で『ぷにぷにになれ!』をやりつつ、見守ったところ……。

「……おお?」

 樹液を纏ったアルミブロックは、依然としてそこに輝いており……。

「……ならないな!?」

 つついてみても!まったく!ぷにぷにではない!なんでェ!?




「……あの、本当に、本当になるんですよ?ぷにぷにに……祈った通りに、なんか、なったんですよ……?」

 これはまずい。主に俺の立場がまずい。『飛鳥馬卓弥君は単に幻覚を見ていただけだから……』とか言われて終わりかねねえ!そして実際、俺は自他共に認める変なやつ!気が狂っていてもおかしくない言動ばっかりしてきたので幻覚説にめっちゃ拍車が掛かっちまうぜ!

「おお……?これ、本来ならぷにぷにになるところだったの?」

「そうなんですよぉ!ホントに!スライムみたいになってたんですけどぉ!」

 が、ここに居る人達、もしかしたら全員変な人達なのかもしれない。『興味深いねえ』『再現性が無いってことなのかねえ』とぞろぞろ覗き込みに来てくれる。おおお……。

「考察は何かある?」

「……多分、空気中に漂う魔力が足りない、とかそういうかんじかと……。向こうとこっちとでは、環境が大きく異なると考えられます。向こうで『魔力』と呼ばれていたものがこの世界には本来存在しない、とか……」

 ……まあ、多分、こんなところだとは思うんだよな。この世界で魔法がバンバン使えるわけねえしな……。

 あれ?ということはもしかして、俺、もっかい向こうに行くの、難しい……?いや、世界樹の樹液被って穴にダイビングすればいける……よね……?


 向こうに戻る方法はさておき、そうそう落ち込んでらんねえので、考える。考えて、失敗してもへこたれない。

 考察して、原因が何かを探って、次のトライに臨む。それは当然のことなので、俺もそんなにへこたれてられないし、周りも『まあこうなるのね。ほーん』ぐらいで次に行ける。そう。『次』に。

「少なくとも、この木は既に今までの常識を覆していますので。この木には何らかの『魔法』が働いた……いえ、働いて『いる』としか考えられません。そうじゃなきゃ、樹高が『ハイペリオン』を優に越えた樹木が生きているのはあまりにもおかしい」

 俺としては、既にこのクソデカトゥリーがファンタジーの証明ってことでいいと思うんだよね。

 樹木ってのは、樹高にどうしても限界がある。それは、水を吸い上げる能力がどうやっても追い付かないからだ。その結果、世界最高の樹高を誇る木『ハイペリオン』も、115mという高さで止まっちゃってるわけである。

「樹のてっぺん近くはもう死んでるかもねえ」

「あ、もう死んでる樹だとしたら危なすぎますね……。これ、倒れそうとなったら、周囲一帯が避難勧告ですか?」

「だろうなあ……いやー、参った。こんなのはじめてだよ僕」

「俺もです!というかこの世界の全員にとって、はじめてです!」

 このクソデカトゥリー、先っぽが折れただけでもとんでもねえことである。何せ場所が皇居だしな……。降ってくるんじゃねえぞ!マジで!不敬であるぞ!不敬であるぞ!

「となると……うーん……やっぱり縮んでもらいたいところですけども……」

 そもそもこのクソデカトゥリーはなんだってこんなにでっかくなっちまったのか。まじめにやってきたから?何を?侵略?勘弁して頂きたいもんである。

 ……うーん。


 そもそも、こっちの世界に世界樹が生える、ってこと自体、不思議な気はするんだよな……。でも、『向こうとこっち』が繋がったんだから、そりゃ、こっち側にも『曖昧にするやつ』はあって然るべき、なような気がしないでもない。

 そう。どうも、向こうの世界では『死んだ奴がダンジョンの主として召喚されてるのでは?』という説があったわけである。そこらへん、あんま詳しく聞いてこなかったけど、もう1人の俺がそういうこと言ってた。

 ということは、まあ、こっちで死んだ人を『曖昧に』して、それを向こうの世界に送り込むための装置はこっちでも必要だったはずで……。

 ……そして、何もかもを曖昧にできるのならば、『過去と現在と未来』も、曖昧にできる、というわけで……『今』この樹が生えてきたとしても、おかしくないんだよな。『今のこっち』から、『過去の向こう』にダンジョンの主が送り込まれてるかもしれないんだし。そのあたりも全部曖昧だとして……。

 もしやこの樹、『ダンジョンの親』が関係しているのではないだろうか。

 ……そして、そいつがこのようにして生えている?何故?うーん……?




 そうして俺がめっちゃ考えていたところ。

「飛鳥馬君」

 一番俺に話しかけてくる教授……この人も大分偉い人なんだけど、その人が、ちょっとそわそわしつつ、話しかけてきた。

「樹液を掛けて祈るとなんらかの変化が起こる、ということなら……樹液が接触している物体は全て、祈れば変化する可能性があるということだろうか?」

「え?え、ええ、多分……」

 そのあたりについては俺も分からん。何せ、『曖昧』なのだ。全部曖昧なんだから、条件だって曖昧なのである。

 だが。

「……この樹に対して、『縮んでください』とお願いするとそうなるのかな?」

 ……そう囁いてきて目をきらきらさせている教授のアイデアは……こう、実にファンタジックで……それ故に、試す価値がある!

「……やってみましょうかぁ!」

 そう!これはとりあえず一回ファンタジー事象を起こして、ファンタジーの実在を証明する実験!それと同時に、木を縮めて事故防止するために必要な作業!

 ご安全に!ご健康に!そして世界樹よ、頼むから縮んでくれ!




 そうして祈った。俺達は祈った。俺の頭の中で冒険者が『縮んでね!すぐでいいよ!』と叫んでいる。いやほんと頼みますよ。縮んでくださいよ世界樹の旦那ァ……。

 俺がめっちゃ祈る間、他の人達も一緒に祈っていた。いや、本当に祈っていたかは分からないけども、少なくともポーズだけは祈ってくれた。真面目だなあこの人達……。

 ……で。

「……ん?なんかわさわさしてますね」

 俺達が見上げる先……頭上にわんさかと広がるクソデカトゥリーの枝葉が、ふり、ふり、もそ、もそ……と揺れ始める。おお……これは、これはもしかして……?



 ……そして。

「縮んだ!やった!これで事故らない!」

 世界樹は無事、100mぐらいにまで縮んでくれたのであった!

 ありがとう世界樹!本当にありがとう世界樹!




 さて。

 クソデカトゥリーが縮んでくれてやったね!というところで……俺は、さっき考えていたことをもう一度考えることになる。

『ダンジョンの親』がこの世界樹なんじゃないか、という考えだが……よくよく考えるとコレはおかしい。そう。世界樹って、別にダンジョンそのものではないからね。

 が、世界樹の『曖昧にする力』が、ダンジョン生成やらなにやらに使われているっぽいことは間違いない。よって、このクソデカ世界樹もきっと何か、そこら辺に関わってるんだろうとは思われる。

 思われる、んだけども……。


 と、俺が考えていたところ。

「飛鳥馬君!なんか光ってるけどアレは何!?」

「えっ何それ俺も知りませんよ」

 ……世界樹の根本が、光りはじめた。

 そして。




「……穴が!」

「穴が開いてる!」

「飛鳥馬君!これは一体!?」

「俺も知りませんって!なにこれこわいこわいこわい」

 ……世界樹の根本に、穴が開いていたのである!


 ……更に。

 教授の1人が、勇猛果敢に穴の傍へ向かっていき、そこで耳をそばだてて……。

「……ふむ。ふむふむふむ。何か聞こえてくる」

「えっ!?何て!?」

 俺達が固唾を呑んで見守る中……その教授は、重々しく言った。

「少ししか聞き取れなかったが……『アスマ様のー、在りし場所にー、我らー、温泉好きの癒しがあーるー……』だそうだ」

 ……メロディまでしっかり再現していただいたが。そして何より、ハッキリと歌詞を歌いあげて頂いたが。

 俺、その歌、知らないんですよォ!ほんとですって!いや本当にこんな、こんなのね、俺は知らないんですけども……。

「おお、続きだ……『アスマ様のー、在りし場所にー、我らー、スライム好きの救いもあーるー……』」

 ……非常に、シュールな光景である。

 なんとか学の権威のおっちゃんが、真剣な顔で謎の歌を歌っている。そしてその歌では俺の名前が出てきており、なんか讃えられており……そして。

「『わーれらが神、アスマ様よー、よろこーびはいつも君と共にー……』」

 ここは、皇居である……!

 ……気まずすぎる!


「『ぼーん踊りの、輪をー作りー、我らーアスマ様を讃える者ら……』」

 相変わらず聞き耳教授さんが真剣に謎の讃美歌みたいなのを歌ってくれるのを聞きつつ、俺は『もうコレ止めた方がいいよねえ!?』と思っていた。

 というか、『止めたい!これ、止めたい!』と、割と真剣に、切実に祈っていた。

 ……そして多分、それが奇跡を起こしてしまったのである!




 ぴかっ、と光が一閃したかと思うと、ぬっ、とインペリアルクソデカトゥリーの根っこが伸びてきた。

 この速度、見たことないんだけど!?アッ!?もしかして全体が縮んだから、根っこ一本あたりの魔力量は増えてて俊敏に動けるとかそういうのある!?

 ……そして俺へ伸びてきた根っこは、俺をしゅるんと掴んで、そしてそのまま穴の方へと連れて行く!

「あっ飛鳥馬君が攫われるぞ!」

「あっ駄目だ全然追いつけないやあ……」

 で、俺は教授陣からさっさと見捨てられた!大正解!こういう時、下手に助けようとして二次遭難みたいになるのが一番ヤバいからァ!

「無事に帰ってきてねー!」

「サンプル持って帰ってくるんだぞー!」

 ……ということで、俺はなんかあんまりな見送りを受けつつ、穴の中へと連れて行かれるのであった……。


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― 新着の感想 ―
ほのぼの教授陣
えらい教授とかなのにノリがアスマ様と変わらない人たちであった
樹脂をぶっ掛けると祈った通りに物質が変わるというとファンタジー!!って感じがするけど、祈りって映像や文字の集合や感情をひっくるめたものってもので、映像や文字は目から入力された光の情報を脳内で電気信号に…
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