そして、神になる*2
ダンジョンってもんは『親ダンジョンという概念的存在があって、その子ダンジョンが各地のダンジョンとしてそれぞれダンジョンの主と一緒に上手いことやってる』ってことらしい。それはもう1人の俺から聞いた。
で、それぞれの子ダンジョン同士は独立した存在らしい、ってところまでは分かってるんだよ。だから魔力とか保有元素の共有ができるわけではないぞ、と。
……が、親ダンジョンから子ダンジョンへ、『ダンジョンの主の腕輪』が配布されていることもまた、聞いてるんだよな。つまり、子ダンジョンと親ダンジョンは、やり取りができる……っぽい。
で、それってもしかして……一方通行じゃなくて、双方通行なんじゃねえか……?
つまり、子ダンジョンは親ダンジョンへ情報伝達ができて……そして、親ダンジョンはそれをまた別の子ダンジョンへ伝達することができるのでは……?
……『魔力は伝達できないけれど、情報ならば伝達できる』としたら?
ということで、ウパルパダンジョンの俺君に聞いてみた。
「ねえねえ俺君。もしかして、今、他のダンジョンと間接的にやり取りできてたりすんの?」
すると、回答は『YES』である。
……うん。
「あの、もしかして、『親ダンジョン』自体に、俺の意識が混ざってる、みたいなことって……ある?」
これも回答は、『YES』であった。
なぁるほどね!
「俺がダンジョンだ。それもダンジョンの親だ。やべえ」
「やばいねえ、アスマ様ぁ」
もう開き直って、俺はミュー乳とアイスで乾杯している。かんぱーい。もうどうにでもなーれ!
「……まあ、丁度いいんじゃないか?」
が、同じくアイス食ってるリーザスさんは、苦笑しながらなんか落ちついている。これが大人の余裕って奴か!
「この国は神を失ったばかりだからな」
「え?あ、そっか。教会も大聖堂も潰しちゃった直後だもんね!」
……そして、なんか急に、雑なことを言い始めた。これは大人の余裕って奴ではないと思う。
「元々『パニス村にはダンジョンのちび神様がおられる』って言われてたもん。それがちょっと大きくなるだけだって!大丈夫だよアスマ様!」
「そうだな。パニス村のダンジョンの神の力が各地に広まっていった、ということでもあるし、丁度いいんじゃないか?」
「え?何?神?なんかどんどんと神への道が舗装されていくのはなんで?」
なんか……そう言われても困るんだけどなあ。いや、宗教?そんなに宗教にしたいの?
「あ!アレだよアスマ様!アスマ様の世界に戻ってからもこっちで活動しやすくするために、『こっちの世界で神として崇め奉られています!』って言えたらいいんじゃない!?」
ミシシアさんが目をキラキラさせているが、そんな『学生時代に私はサークル活動に打ち込みました!』みたいなノリで『私は異世界で神になりました!』って言うわけにはいかんのよ。むしろ研究の妨げになるとして排除されかねん!
「まあ、神と宗教は置いておくとしても、これでダンジョンとダンジョンの情報伝達ができるようになると便利なんじゃないか?」
……が、リーザスさんの言う事には、一理ある。
「遠く離れた場所にも、ダンジョン伝いに、連絡ができるとなると……」
「……革命だね。これはラペレシアナ様にもお伝えしなきゃいけない案件だね」
「少なくとも、オウラ様のところとパニス村の2点が繋がるだけでもかなりの大事だ。これはすぐ殿下にお伝えしなければ!」
リーザスさんの興奮ぶりも仕方なし。情報伝達ってのは、いついかなる状況いついかなるご時世においても大事なことなのだ。情報が早く飛ぶかどうかであらゆる勝敗が決したりするのだ。
「となるとやっぱり、アスマ様が神様っていうことは言っちゃっていいんじゃない?そうしたら、各地のダンジョンの征服が進むよ」
「おおお、各ダンジョンに俺の脳缶を吸収させるためのジハードが始まってしまう……」
「ああ、それを教義に組み込むのはどうだ?ほら、丁度失業してあぶれた聖騎士が大量に居るわけだし……」
ああ……あああ……なんか、なんか、俺を神とする道が、どんどん舗装されていく!あああああ!ああああああ!
でもこれは一旦ラペレシアナ様でしょ、ということで、パニス村へ帰る。
そして、『どうも、俺の脳みそを各地のダンジョンに吸収させていくと、親ダンジョンの方も支配していけるっぽいんですよね』みたいな話と、『つまり親ダンジョンを中心とした各ダンジョンを繋ぐネットワークが構築されます』っていう話をした。
そして、その結果。
「成程な。ならば、国を挙げて『旧教会の過ちによってダンジョンを汚され、神はお怒りである。鎮めるために各地のダンジョンに捧げものをせよ。さすれば国はより強固に守られ、パニス村のように発展を遂げ、人々の幸福が約束されるであろう』と発布しよう」
「ぎええ!やっぱり神!」
はい。俺は神になりました。おめでとう!ありがとう!ちくしょう!
「死のイルカが近づいています。筋肉の波動を信じなさい」
「どうしたのアスマ様」
「神のお告げっぽいものを出してみた」
「それ、絶対に何かおかしい、っていうことくらいは私にも分かるんだからね!」
うん。そうだね。俺が神っていうのは絶対におかしいって俺にも分かるんだからね!
……いや、まあ、おかしいんだけどさ。でも実際、『こういう宗教だから!神がお怒りだから!』ってやっちまうのは……正直、かなり、『アリ』なんだよな、っていうことに気づいてしまった。
そうだよ。ダンジョンの悪用を防ぎたいんだったら、『宗教によって禁止されています』っていう風にしちまうのはかなり有効なんだよな。特にこの世界、今まで『祝福』によって統治されていた部分が少なからずあって、それによって芽生えて根付いてしまっている信仰がある訳だから……。
少なくとも、『そこらへんの無辜の民がダンジョンの奥にまで入り込んで事故でダンジョンの主になってしまいました』はこれで結構防げると思う。そして、明らかに悪いことしようとする意図がある人については国でマークしやすいと思う。
そうかぁ……結局、こっちの世界側でダンジョン周りをどうこうするにあたって、一番いい方法は『ダンジョンの神』を奉ることだったんだね……。
ラペレシアナ様は『ここにきてようやく、神というものに意義を感じることができた』と笑いながら王城へ戻って行かれた。いつもの如く、デカいバイクで颯爽と。なんでも、王様達に報告するんだってさ。そしてさっさと発布を進めるらしいよ。すごいね。
また、この話をパニス村内で漏らしたら、『俺達のちび神様が随分と大きくなっちまって……』とよく分からないことを言われてしまった。そう言われても。別に俺が大きくなったわけではない。なんか、概念的にデカくなっちまっただけなのである。
なので、これはいいんだろうか、と悩んでいたところ……。
「あっ!アスマ様!丁度よかったわ!ちょっとこれを見てくれるかしら!」
エデレさんが、いつにも増して元気いっぱい、やってきた。そして、見せられたものは看板である。こう、温泉とかによく立ってるかんじの、『~の湯』とか書いてあったり、その温泉の効能とか逸話とか書いてあるかんじの……。
「えーと何々……『ここパニス村は、旧教会(邪教)がこの国を滅ぼそうとしていた時、最後まで神の力が残されていたありがたい土地です。神はパニス村を発展させることで人々の力を一つにまとめ上げ、やがてその力でこの国全体を旧教会の手から取り戻されました』とな。ほー……」
なんか、寺院とかにありそうな看板に見えてきた。あるよね、こういう、逸話とか神話とか書いてあるタイプの……。
「……ほー……?」
が、よく考えなくてもこれ、嘘八百である。いや、そもそもの神話ってものは創作か否か、って話になっちまうからあんまり深く考えるとアレだが、これは紛れもなく嘘八百である!
「こういう神話を作りましょう、ということで、ラペレシアナ様と相談して決めたのだけれど、どうかしら。アスマ様の意見も聞きたくて」
「お、おおお……こういうことになったんですね……」
成程ね。『こういう神話を作りましょう』か……。すげえな……。もう、ラペレシアナ様もエデレさんも、宗教とダンジョンをガッツリ利用して統治する気満々だ。
「ふふ、こうして『神の力ゆかりの地』になれば、パニス村はいよいよ、繁栄してしまうわねえ……」
「そ、そっか。それなら、よかったですね。うん……いいと思いますよエデレさん……」
当事者および神である俺としてはなんか滅茶苦茶に複雑な気分だが……いや、でも、エデレさんが幸せそうだし、ラペレシアナ様がこうすべしと決めたことなら、それでいいと思うよ。うん……。
「あのね、アスマ様。最初にパニス村があった土地、覚えてるかしら。あのあたり、塩を撒かれてしまったけれど……」
ちょっとウニウニしていたら、ふと、エデレさんがそう、尋ねてきた。
「あ、はい。覚えてますとも。だって、エデレさん達がダンジョンの近くに引っ越してきたきっかけだったんで」
そう。そういえば以前は、このダンジョンの周りは村はおろか、人間1人だって住んでいない状態だったのである。それが、エデレさんにちょっかいかけてたアホが塩撒いたりなんだりしたところから、この新・パニス村がダンジョン敷地内で始まった訳だね。
「ラペレシアナ様が、あそこも元通り、人が暮らせる土地にしよう、と約束してくださったの。何でもない、貧しい土地でしかないけれど……思い出のある土地だから、嬉しくて」
「よかったですねえ……」
……そうだね。俺は、『パニス村』っていうものが発展して、人々に忘れられることのないようになるといいなあ、と思ってたけどさ。でも、エデレさんにとっては、元の土地も旦那さんとの思い出がある土地だったんだろうし。
そっちも整備されて、また元通りになるっていうんなら……それは嬉しいよなあ。
「あの、アスマ様。本当に……本当に、ありがとう」
エデレさんは、ちょっぴり潤んだ目で笑うと、俺の手を握った。もう、俺の身長はエデレさんより高いので、エデレさんにこうして見上げられてるとなんか、新鮮なかんじである。
「ここに来てくれた神様があなたで、本当に、よかった」
……そして、そんなことを言われちまったら、もうね……もう、『神ってのはどうなんでしょうか』とは、言えねえのよ……。
「……俺も、来たところがここで良かったと思ってますよ!」
「本当?なら、よかった!……それで、これからもよろしくね、アスマ様」
もうしょうがねえ!守るしかねえ、この笑顔!
ってことで俺は神!俺は神になりました!はい!よろしく!
「ということでもう1人の俺。なんか神ってことになったっぽいよ。がんばろうね」
『ぬ』
「複雑な気持ちなのは分かるけど、お前がダンジョンの親側にまで侵食できちゃったのがまずったところだと思うから、もう諦めて頑張ろうね」
『あい』
「よし」
……もう1人の俺とも話しました。はい。まあ、お互い上手いことやっていこうね……。俺、もうこの世界のこと、大分好きになっちゃってるからね……。守りたい、この世界。
「ってことで、他のダンジョンのことはもう1人の俺と他の俺君達がやってくれそうだし、俺はぼちぼち、元の世界に帰ってみるわ。なんか気を付けた方がいいことある?」
『せかいじゆもつてけ』
「うん。それは持ってく。樹脂瓶詰めガッツリ持ってく。他なんかあるかな」
『せいかぶつ』
「あー、確かに手っ取り早くこの世界が物理法則無視してるんですよって分かるブツがあるといいよね。えーとじゃあ、とりあえずポーション……いや、製薬関係から命を狙われる気がしてきた。いやいや、でも話題性は抜群だし、外傷にしか効きませんってことならまあいける……?」
いやー、製薬関係はな……下手なモン持って帰ると、本当に今まで先人達が注ぎ込んできた努力と時間が全て消えかねない。俺としても、研究者達を泣かせるようなことはしたくない……。
が、だからといってここらへんほっとくと、中くらいの国とかがポーションの特許を横から取り始めるだろうし、そうでなくてもどうせ日本産ポーションのパチモン作って『旦本ポーション』とか名前付けて売り始めるんだよなあー、マジでクソ。他人の努力と資金と時間によって生まれたものを横から掻っ攫うことをよしとしている奴らは全員死ね。幇助している奴らもまとめて全員死ね。
なので俺としては、さっさと国内からポーションの論文発表したいんだけど……。そう考えると生協前に割れ目があって異世界研究が捗りまくる我が大学、めっちゃ有利なのでは……?この有利、下手にもだもだやってる内に掻っ攫われたらたまんねえから、やっぱり俺がダンジョン研究の第一人者として頑張りたいね……。
そのためにはファンタジーパワーに再現性をちゃんと見出して、特許取れるように色々整えないといけないね……。
『すらいむ』
俺が色々と『この技術、どう守り育てるか……』を考えていたところ、もう1人の俺がまたアイデアをくれた。
……うん。
「……解剖されちゃったらかわいそうじゃない?」
そりゃあね、スライム連れて帰ったら、そりゃーもう、めっちゃ『異世界は本当にあるんですね!』の証明になるけどさ。でもさ。スライム……解剖されたらかわいそうだし……。
『になるやつ』
「あー!分かった分かったはいはいはい、ぶっかけると装備が逃げるやつね!おっけー!アレ持って帰ろ!」
が、もう1人の俺、ナイスアイデアである。確かにアレ持って帰れば当然のように異世界だわ。あんなん現代科学で説明できねえもん……。
「……ところで、この世界のファンタジーパワーって向こうの世界に持ち帰っても発動すんのかね」
『さあ』
「あー、まあ、そこはもう1人の俺にも分からんか。そうだよなー。まあ、やってみないことには、か……」
……色々と不安はあるんだけどね。でもまあ……後は実行あるのみ、だな。
「……まあ、試してみるからさ。こっちのことはその間、よろしく頼むぜ」
『そつちもたのむ』
「おう。任せろ!」
さーて……どうか、上手くいきますように。
……くれぐれも、向こうの世界に戻った瞬間に俺が死ぬとか、そういうことになりませんように!これはマジで割と切実に!怖い!怖いよぉー!




