そして、神になる*1
そうして俺は、忙しく過ごした。
まず、エデレさん。エデレさんに『大きくなっちゃいました』と報告に行った。
……するとエデレさん、『まあ!アスマ様は本当はこれくらい大きかったのね!』と言いながら今まで通りのノリでむぎゅうと抱きしめてくれましたもので、俺は大変驚きました。
いや、19歳よ?俺、19歳男児よ?大丈夫なんですか!?と思ったんだが、エデレさん曰く、『元々、小さい子の中身じゃないのはなんとなく分かってたもの。それに、今だって年下の可愛い男の子だわ』とのことである。
エデレさん……器がでけえよエデレさん……。俺、俺、ちょっと感激してますよエデレさん……。
が、まあ、流石に小学生ボディじゃなくなったので、あんまりむぎゅむぎゅやられているとね、ちょっとこう、よろしくない光景になっちゃいそうなので、そこのところは遠慮しておきますよエデレさん。
……代わりにこれからは温泉で温まったスライムに埋もれますねエデレさん!
続いて、パニス村の皆にも報告。というか、まあ、エデレさんに報告した時には数名の冒険者達が傍にいたもんだから、自動的に『アスマ様がデカくなった!』『アスマ様がデカくなったぞ!』って噂が広まって、そして、最終的には村中の皆がぞろぞろとダンジョン前受付に集まって『アスマ様が巨木の大きさになったと聞きました』ってやってる状態になってた。
噂って、本当に尾ひれが付くんですね。俺はまた大変驚きました。
が、まあ、噂と比べて非常に貧相な俺ボディをここで見てもらって、『流石に巨木はないけど19歳ボディに戻れたよ!』と報告を済ませることはできたので、まあ、噂のセンセーショナルなかんじも悪くは無かった、のかもしれん。
尚、冒険者達、村人達からは『かわいくなくなっちゃった!』『もどして!もどして!』といった悲痛な声から、『やだ、中々の男前じゃあないか!』『そのかっこなら酒飲めそうだな!一緒に飲むか!』といった温かい声まで色々頂きました。
……そして村のおばあちゃんに『大きくなったねえ』と頭を撫でられた。うん。まあ、はい。大きくなりました。大きくなるのはまあ、喜ばしいこと、だよな。うん。
で、俺にとって一番良かったのは、聖女サティがちっちゃくなくなっちゃった俺を見て、ちゃんと納得してくれたっぽいことである。
『こういう訳で、俺、元々この大きさなんですよね』という話をしてみたところ、『……おにいさんだった!』とちょっとショックを受けていた。まあね。10歳以上年齢差があったら、流石に恋愛とかの対象にはならなくなるよなあ。
……が、その内、『私もがんばっておおきくなる!』というような意気込みを見せてくれた。そうだね。まあ、よく寝てよく食べてよく遊んで、すくすく健康に成長してください。その間に俺もよく寝てよく食べてよく遊んですくすくしとくからさ……。
で、同時にラペレシアナ様達への報告も概ね済んでしまった。そりゃそうだ。王立第三騎士団もパニス村に駐屯してるわけで、ラペレシアナ様は全体の指揮執ってるんだからパニス村に居る。なので『アスマ様が巨木の大きさになったと……?』と駆けつけて下さったのだ。すみません。2mにも満たない身長で本当にすみません。
が、こちらも『ほう。子供らしからぬ聡明さの御仁だとは思っていたが、この姿が本来のものであるならば納得がいく』とアッサリ納得してくださった。なんか皆の反応ってホントまちまちだなあ。
ラペレシアナ様からは『改めてよろしく頼む』と握手を求められたので、握手握手。……19歳ボディになって改めてラペレシアナ様と握手すると、この人、この大きさの手でよくあんなに剣振り回したり戦車乗り回したりしてるよなあ、と感服させられるぜ。
ということで、パニス村内ではそんなかんじに報告会が終わり、そして、『ということで俺、ちょっと元の世界に帰ります』という話もした。一緒に『でもちょいちょい戻ってくる予定です』とも。
……これについては色々と不安の声が上がっていたが、『まあ、万一戻ってこられなくても何とかなる程度には色々準備してから帰るから』と説明して納得してもらった。こればっかりはね。まあ、すぐに不安を解消するって訳にはいかないんだろうけどね。まあ、徐々に慣れてもらうしかねえな。
で、そうやって色々と『何を準備していったらいいかね』っていう話をあちこちとして、俺が元の世界に帰るまでに色々と済ませておくべきことを洗い出したら……宴が開かれた。
そう。宴である。『宴だ!アスマ様が元のお姿に戻れたお祝いだ!』『でも残念会だ!俺達のかわいいちびっこが可愛くなくなっちまったことを悲しもう!』ということらしいよ。俺、ちょっと複雑な気持ち……。
そういえば味覚って変わったりしてるんかな、と思って色々食ってみたんだが、あんまり変化なし。いや、ほら、『大人になったら美味しいと思うようになった食品』みたいなの、よく聞くじゃん。それがあるかなー、って思ったんだけど、特に無いね。なんだろうね、脳自体は変わってないからってことかね……。
まあ、色んな人達に『なんでおっきくなっちゃったの!?』と残念がられたり、『アスマ様、大きくなったねえ。えらいねえ』とよく分からない褒め方をされたり、『これはこれで可愛い気がしてきた』とよく分からない悟り方をされたりしながら過ごしたので、中々楽しかった。
飲んで食って温泉入って、『なんか身長が高くなると、色々と新鮮だなあ』という気持ちにさせられつつ楽しく過ごし、そして寝る時には湯上りスライムと湯上りミューミャを大量に連れていく。
ぬくぬくぷにぷにのスライムに埋もれて、ぬくぬくふわふわのミューミャをのっけて眠るのだ。小学生ボディじゃなくなっちゃった分、ちょっとスライムとミューミャの個数が必要になっちゃうんだけど……まあ、これはこれで、いいかんじ……。
そうしてぐっすり眠って起きた俺は、思い出した。
『パニス村が大丈夫でも、ウパルパとか駄目なのでは!?』と。
……そう!俺が元の世界に帰っちゃうと、彼らのところが結構不安定だぞ!?と!
なのでそっちに向かって、今度はそっちの調整もしていくことになる。まあ、ウパルパダンジョン他、俺達が手を入れたダンジョンについては既にダンジョンの主達と顔見知りになってるし、そういうところは大体、ラペレシアナ様達とも顔見知りになってるから、そっちで今後も面倒見てもらえるとは思うんだけどね。
まあ、折角だし見てくるかぁ、と思ってウパルパダンジョンに向かってみたところ……。
「人が居る……」
「酒盛りしているなあ……」
「まあ、人が来るようになっちゃったら、そりゃ、こうなるよねえ……」
……ウパルパダンジョンには、人が集まっていた!
「あのーすみません。皆さんこちらへは何をしに?」
「ん?」
早速、そこらへんの冒険者っぽい人に話を聞いてみることに。どういうかんじでここに来たのかな、っと。
「知らんのか?ここは美味い酒が出る珍しいダンジョンだってことで、ちょっと前から話題になってるんだよ!」
「ほぇーしらんかった」
雑に嘘を吐きながら様子を見るが、まあ、この場に居る人、全員酔っ払いである。だから何から何まで全部雑でも多分大丈夫だね。
「そっちの酒はなぁ!あんちゃんにはちょっと強すぎるかもしれねえなあ!こっちの酒は甘くて弱めだから、まずはそっちから試してみろ!な!」
「ああー貴重なご意見ありがとうございます」
酔っ払い冒険者達は、実に楽しそうに酒飲んでにこにこしている。
……が、これ、飲み放題になってると飲みすぎて死ぬ奴とか出てこない?大丈夫?と思って、ちょっとソワソワ見ていると……。
「あっ。おい、お前。そろそろ飲みすぎだぞ!また例の奴が来る!」
なんか、酔っ払い達が騒ぎ始めた。なんだなんだ、と思ってみていると、酔っ払い達の中にひときわ酔っ払って前後不覚になっている、明らかに飲みすぎの酔っ払いの姿が見受けられた。あー、駄目だありゃ。酒に飲まれてら。
で、そんな前後不覚酔っ払いの周りで、他の酔っ払い達が『大変だ』『奴が来る』とあわあわしている。……すると。
……のっし、のっし、と、足音が聞こえてくる。おや、これは……?
俺達が足音の方を注視していると……うぱっ、として、るぱっ、とした、例のドラゴンがやってきていた。相変わらず、なんか緊張感の無い顔してるなあ……。
……そして、そのやわやわドラゴンは前後不覚の酔っ払いに口を向けると……ぴゅう!と、水を噴き出した。
びしゃびしゃびしゃ、と、前後不覚の酔っ払いに水がぶっかけられる。冷水だ。冷水である。酔っ払いは目覚めた。
が、目が覚めたからってすぐに酔いが収まる訳でもないんで、『え?あれ!?なにこれ!?』みたいになってるだけである。そしてその間にも、やわやわドラゴンの水鉄砲攻撃が続いている!
「……あれは一体なんです?」
「あー……なんかな、このダンジョン、入口に酒の池があって、ちょっと奥には休める場所もあって最高なんだけどよぉ……飲みすぎたり、休みすぎて住み着こうとしてたりすると、こういう風にドラゴンが来ちまうんだよ」
「ドラゴンは酔っ払いに水ぶっかけて、ダンジョンから放り出してまた帰っていくだけなんだけどな?まあ……うっかりこっちから攻撃しない限りは大丈夫なんだろうけど、ドラゴン、だからなあ……」
……成程。ウパルパはちゃんと、ダンジョン経営できているらしい。いや、もしかしたら吸収された俺の脳がウパルパのコンサルやってるのかもしれないが。むしろ、そっちの方が可能性としては高そうだが……。
まあ、こういうかんじに上手くやれてるんだったら問題無いか。一応、ウパルパの顔だけ見たら帰ろっかな……。
ということで、俺達はウパルパの顔を見にダンジョンの奥へ。ウパルパは元気に変わりなく、うぱっ、として、るぱっ、としていた。平和の象徴みてえな顔である。いいねいいね、全然緊張感が無くて……。
「おう、ウパルパお前なんか美味そうなもん食ってるね。どしたんそれ」
が、そんなウパルパ、全く緊張感の無いお顔で、なんかを美味そうにうぱうぱるぱるぱ、食べてるところであった。ウパルパの貴重なお食事シーン。いや、マジで貴重なのよ。こいつ、普段飲酒ばっかしてるから。
「……ん?これは……も、もしや……」
ウパルパが食べてるものをよくよく見てみると……白っぽい。クリーム色、と言ってもよい。
そして、冷たい。成程ね、酔い覚ましに丁度いい温度かもね。
「……アイスクリーム!?ねえお前これアイスクリーム食ってる!?ねえ!?」
いやいやいや!これはちょっと看過できねえよ!このアイス、どこから来た!?お前、どうしてこれを食ってる!?
「えーと、パニス村で食べたことがあったものを再現してる、ってことかなあ……」
「いや、俺はこんなもんウパルパに食わせてない!」
「そもそもパニス村でこのような冷たい菓子は見たことが無いからな……」
そうなんだよ。そうなんだよなあ、アイス!よくよく考えたら、もっと早くパニス村で発売しておくべきだった!温泉の後にアイス、っていうのは定番だったのに!何故思いつかなかったんだ!
いや、それは置いておくとして、アイスだよアイス。その、パニス村にすら無いアイスがウパルパダンジョンに出現していることがあまりにも不審なんだよ!
「おいウパルパ!このアイスはどこから来た!言え!」
「ぷぇー」
「わがんない!」
ウパルパに聞きたいんだが、ウパルパは『ぷぁ』とかしか言ってくれない!コミュニケーション力がもっと欲しい!
ウパルパが喋ってくれないので俺に聞くしかねえ。ということで、ウパルパに『ちょっと奥の部屋借りるね』『ぷぁ』というやり取りをして許可を貰ったことにした後、奥の部屋へ。この間、スライムがへべれけになっていた例の部屋である。
が、この部屋、酒の池が3つあるだけなので、平仮名でやり取りするには時間がかかるんだよなあ……。
なら、YESとNOだけでなんとかなる質問を3つさせてもらう、ってことでなんとか絞るか。それで絞り切れんかったら諦めよっと。
「えーと、じゃあウパルパダンジョンの俺君に質問なんだけど、YESはスライム1個、NOはスライム2個、それ以外はスライム3個でご返答ください」
ということで、このダンジョンに吸収されていいかんじにマッチングしたのであろう俺の脳みそに聞いてみることにする。よろしく、俺君。
「……1つ目。『ウパルパが今食ってるアイスは、このダンジョンで生成されたものであるか?』。2つ目は『アイスクリームのレシピは、このダンジョンで考案されたものであるか?』で、えーと、3つ目は、そうだなー……」
何聞いたらいいかな、とちょっと考えて……よし、これでいこう。
「3つ目。『俺君ってスライム以外の物も作れるの?』」
でちょっと待ってから奥の部屋をもう一回確認するとそこにへべれけスライムが生成されているのでカウント。えーと……。
「……1つ目は、YESだな。ってことは、アイスはこのダンジョンで生成されている……」
まず、1つ目の質問はYESだ。成程ね。ウパルパが知らないはずのものがここで生成されている……。
「2つ目は……ん?スライム3つ?YESともNOとも言えない、ってことか……?んー……?え、どういうこと……?じゃあレシピを冒険者が持ってきたとか……?いや、アイスの……?」
で、続いて、こっちは何とも言えない、らしい。いや、困ったな。早速分かんねえ。
「3つ目……あ、これもスライム3つのYESNOだ」
うわー、こうなっちまうと全然分かんねえぞこれ。やっぱりYESとNOで質問するのって難しすぎるわぁ……
まあ、分からないなら分からないなりに考えるのが俺よ。ということで考える。『考える人』のポーズで考える。考えてる間にウパルパからアイスの差し入れがあった。ありがとうウパルパ。うーん、アイスだ。おいしい。でもこわい!いいや!このアイスの怖さについては考えない!俺は考えない人!
「……3つ目については、なんかこう、『スライム以外のモンスターは作れるけど、アイスを作ったわけじゃない』ってことっぽい気がするなー。あくまでも、アイスを再構築したのはウパルパ……?」
俺の隣で、ウパルパが『ぷぁー』と鳴いている。うん、分からん。
「ってことは……えーと、ウパルパがアイスの実物をどっかで食ったことがある、ってのが妥当か……?いや、でも、知らないものを生成することはできねえし、となると、ウパルパは、アイスを何かで知った……?」
しかし、ウパルパが食べずに知る、というのは結構厳しい。こいつが文字を読めるとは思えんし、冒険者達がアイスについて話していた、とかも結構厳しい気がするし……。
そもそもアイスって、氷菓なわけで、冷凍設備がちゃんと無いと生み出すことが難しいんだと思うんだけど……それがこの世界に既に広く普及してる、ってのは、かなり、怪しくないか?となると、この世界の人間、そもそも、アイスを知らなくないか……?
……あっ。
「……あ、俺君。もしかして、『俺君の記憶をウパルパが参照できるようになってる』とか?」
どきどきしながら返答を待っていたところ、へべれけスライムが1匹、新たに生成された。
つまり、『YES』ってことだ!やっぱりウパルパは!俺の記憶を参照できるようになっているっていうことだ!
「そうかぁ、ウパルパ、お前、俺の世界の人間の色々を知っちゃったんだな……」
アイス食いながらウパルパの頭をもちもち撫でると、ウパルパは『ぷぅ』と気の抜ける声を出してくれた。うーん、緊張感が無い。
「だからお前はアイスも食うし酒も飲むウパルパに……」
ウパルパは頭を撫でられるのが嫌だったのか、もそもそ、と這ってどっか行ってしまった。
「……ん?ウパルパお前、それ何してんの?」
で、どっかいったウパルパは、なんかそこに白い液体を生成して、それを飲み始めた。こいつ飲んで食って飲んでるのか……。太るぞ。
「……牛乳?え、お前、牛乳も飲むの?まあ、いいけど……。というか、まあ、酒よりはそっちの方がいいと思うけど……」
ウーパールーパーが牛乳を飲んで大丈夫な生き物かどうかはもう気にしねえ。そんなん気にしてたらこいつが飲酒ウパルパしてるのが説明できねえ。
あ、というかよくよく考えたら、牛乳というかミュー乳もパニス村温泉で売り出していい品物なんだよな……。温泉の後のアイスは美味いが、温泉の後の牛乳も美味いので。
じゃあ俺も折角だし頂くかな、と、持ってきてた携帯用カップで牛乳池から牛乳を掬っていただきます。
「おお、非常にミルキーで濃厚な……ん?」
……が、なんか……なんか、違和感がある。いや、その、食あたりとかそっちの方の嫌な違和感じゃなくて、こう、もっと、リッチでミルキーで濃厚な違和感というか……。
「これ……牛乳じゃなくて、ミュー乳じゃね?」
「……なんで、『この世界に来た瞬間の俺の脳』が吸収されただけのダンジョンで、ミュー乳を生産できるようになってるんだ……?」
……ウパルパに聞いてみても、ウパルパは『ぷぇー』としか言わん!ああんもう!




