沼のその先へ!*5
「イマイチよく分かんないんだけど、生物の脳みそを吸収するとその生物の人格がダンジョンに影響するってこと、だよなあ……?」
俺、相変わらずこの世界のファンタジーパワーはよく分からん。法則があることも多いけど、こういう風に全く分からんことがいきなりできちゃうから本当に分からん。こいつは研究のし甲斐があるじゃねえのよ……。
「多分、世界樹の枝がいい仕事してるんだと思う!今ある『ダンジョン』を曖昧にして、そこに『アスマ様』を溶け込ませてるんだよ!多分!」
「なにそれこわい」
なんか俺、ダンジョンに寄生してダンジョンを乗っ取る寄生虫みたいじゃん……。なんかやだぁ……。
……いや、まあ、とりあえずこれで1つ、ダンジョンがいいかんじにスライム製造機になったっぽいから……ええと、まあ、他のダンジョンもこういうかんじに頑張っていこうかな……。
「ということなんですよラペレシアナ様」
「成程な……分からんことが多い」
「いや、本当にそうなんですよラペレシアナ様……」
ということで、王都に行ってラペレシアナ様に報告アンド相談しに来た。
ほら、『ダンジョンに俺の脳と世界樹の枝を吸収させればよい』ってところまでは分かっても、それを実行するには人手が足りないからね。そこのところをラペレシアナ様にお願いして、人員を貸していただこうと思ったって訳よ。
「ひとまず、アスマ様の脳……とやらを各ダンジョンに置いてくればよい、ということか?そうすれば、ダンジョンの弱体化が可能である、と?」
「えーと、まあそういうことになります。多分、脳は分かりやすく情報量多いんで、どんなダンジョンでも吸収してくれると思うんですよね」
ただダンジョンに色々置いてきてもそれを吸収してくれるかどうかはダンジョン次第な訳だけども、一応、『ダンジョンは吸収して魔力が多く手に入りそうなものを大喜びで吸収する。というかそのためにダンジョンはダンジョンやってる』みたいなところは分かってるので、多分、いけると思う。脳が脳である故に。
「……逆に、魔物が居なくなるとなると、魔物狩りで生計を立てていた者達が立ち行かなくなるが」
「あ、それは大丈夫です。その時はそこの担当になった俺が上手くやると思いますよ」
「『そこの担当になった俺』とは……奇怪なことだ。実に興味深くもある。ふむ」
いや、まあ、『魔物狩りで生計を立てている人達はどうなるの?』という問題はあるんだけど、まあ……もう1人の俺も、スライムを自由に出せるけど、スライムしか出せない、ってわけじゃない、らしいので……うまいことやってくれるんじゃねえかな、と思う。思いたい。
「あっ、でも、オウラ様のところは、金鉱石の作り方が変わる恐れがありますので当面やめておいた方がいいかもしれません」
逆に、オウラ様のところだけはダンジョンの主が『錬金術』で金鉱石を作っているっぽいところから、もう1人の俺を派遣するのはやめておいた方がいい気がする。多分あそこは、ダンジョン自体よりもダンジョンの主の方が自我が強いのでああなっている……。
「まあ、そういうことなら是非協力させていただこう。ダンジョンの弱体化は国の安定のためにも最優先事項だからな」
「ありがとうございます!」
まあ、そういうことで無事、協力は得られた。ありがてえ!
「では第三騎士団を動かすことになるだろうが……パニス村を中継地点とさせていただこう。その、脳とやらはパニス村で生産できるのか?」
「あ、はい。しっかり缶に詰めた状態でお渡しできます!」
「そ、そうか……」
……ラペレシアナ様に微妙な顔をさせてしまった!すみません!でも俺の脳みそがこの国の安寧の為に必要っぽいので、ほんと勘弁してください!俺だって脳みそを渡したくて脳みそを渡すわけじゃないんですよ!ほんとですよ!信じてください!
ラペレシアナ様には申し訳ないが、各地のダンジョンの無力化というか弱体化というか俺化についてはお任せすることにした。なので俺の仕事は、パニス村で俺の脳と世界樹の枝を詰めた缶を作ることぐらいである。
あ、流石にもう電極刺したりアクリル素材で作ったりライトアップしたりスモーク焚いたりはしてない。ラペレシアナ様にお見苦しいものを見せるわけにはいかないからな……。ちゃんと不透明素材で作ってあってグロさ低減!
「ラペレ達が皆、パニス村を拠点にすることになるんだねえ」
「嬉しいねえ、ミシシアさん」
「嬉しいよねえ、アスマ様!あとリーザスさんも嬉しいでしょ!」
「ああ、そうだな。かつての仲間達が来てくれるのは嬉しい」
そしてもう1つ大事な仕事は、パニス村の整備だな。これから、ラペレシアナ様達は各地のダンジョンを巡るわけだが……どのみち、パニス村ダンジョンから俺の脳みそを持っていかなきゃいけないので、これからますます頻繁にパニス村にお越しになる訳だ!
ラペレシアナ様は『温泉に食事に、贅沢ができるな』とお喜びであったので、その期待に応えない訳にはいかんのだ!
ということで、打たせ湯と岩盤浴とジャグジー風呂作った。いや、こういうのもなんかいいかな、と思って……。折角だし、温泉リゾートとしての方向に突き進もうと思って……。
「あの、泡がでてくるの、すごいねえ……」
「滝つぼにも似た感覚だったな……」
尚、ジャグジー風呂はミシシアさんにもリーザスさんにもそこそこ人気であった。あと、エデレさんが『肩こりにいいわねえ』とお喜びだったので、俺としてもいい仕事をしたと思っているぜ!
「……あと、入浴剤、どうだった?」
そしてもう1つ、風呂アップデートによる大きな変化があってだな……。
今までも、ハーブや薬草を利用して薬湯にしていたわけだし、ポーションぶち込んで傷が治る温泉にしちゃってたわけなんだが、今回、そこに更に踏み込んだ。
「えーとね、冒険者の人達が『小さい皺が消えた!』って大騒ぎしてたよ!」
「男湯では『力が湧き出てくる』と評判だったぞ。筋力の向上につながってるとかなんとか、もう噂になっているみたいだな」
……今回、風呂に添加した魔力は、例の世界樹由来の……『曖昧にする魔力』を用いて作った魔力分子だ。
世界樹の治癒用魔力の一部にも、この『曖昧にする魔力』の分子構造が含まれることが分かった訳だが、なら、別のものとくっつけたらいいかんじのブツができるんじゃないか?と思って……もう1人の俺が言っていたことを、実験してみたんだよね。
ほら、もう1人の俺、言ってたじゃん。『いのれ』って。
……マジで祈ると何か変わるんじゃねえの?と思って、俺、実験してみたのよ。
さて。
例の『曖昧にする魔力』だが、奴の問題点は『本当に色々曖昧!何が起こるか分からない!再現性も無い!詰んだ!』っていうところである。再現性が無いのはマジで致命的よ。どうしてくれるんだあのタコ。
まあタコはさておき、そこでもう1人の俺の言っていた『いのれ』だ。
……元の世界に俺が戻るため、例の割れ目に『曖昧にする魔力』を使う、ということらしかった。
が、それをやったところで、結果がランダムだと本当にどうしようもない。なので、せめてもうちょい、例の『曖昧にする魔力』の実験を重ねてから臨みたい、と思ったわけでね……その、やってみた。
対象は水。1つ目は『お湯になれ!』と祈りながら魔力添加。2つ目は『消えろ!』と祈りながら魔力添加。3つ目は『ファミチキください!』と祈りながら魔力添加。
……結果、1つ目は『炎の魔力』と呼ばれる魔力構造が発生して、ぬくぬくになった。
2つ目は、消えた。多分、消滅する魔力とかができたとか、存在する魔力に曖昧魔力がくっついて存在が曖昧になって霧散したとかそういうことだろ。多分。
そして3つ目は……ファミチキ味の水になった。調べてみたら、『味を曖昧にする魔力』みたいなのが発生していた。こんなんあるのかよ……。
尚、その水を『今はコーラの気分です!』と思いながら飲んでみたところ、コーラ味になった。ミシシアさんに飲ませてみたら、『わー、美味しいお茶……え?これ、お茶……?』って言ってた。どうもミシシアさんはお茶の気分だったらしい。すげえなこの魔力。いみわからん。
……というように、どうやらこの『曖昧にする魔力』は……その、人間の意思に応じて、反応が変化するっぽい。
いや、そんなことある……?ちょっと思っただけでそれが実現しちゃうとか、どんなファンタジーよ。いや、これファンタジーなんだけどさ。
でもなんか納得できねえ!科学の徒としては、納得できねえ!納得できないぜできないぜ!俺は納得できないぜ!うおおおおおお!
「まあ、納得できなくても利用はする。便利すぎる」
「アスマ様ってそういうところ、いいよねえ」
……まあ、俺は科学の徒としてはかなり適当な奴なのでね……。この信じがたいファンタジー力も、とりあえず利用しちゃうってわけよ。
つまるところ、俺は例の曖昧魔力を、『なんかいいかんじになれーッ!』と祈りながら温泉に添加した。その結果、『なんかいいかんじになる魔力』みたいなものが発生し、『なんかいいかんじになる湯』が完成した。
……いや、これも研究進んでないから、実際のところ『願いをちょっと叶える魔力』なのか、『健康がちょっと増進する魔力』なのかは分からん。俺にはなんも分からん。なんなんだファンタジーってのは。ゆるさん。ゆるさんぞ……。
「これ、きっとラペレも喜んでくれるね!」
「まあ、ラペレシアナ様がお喜びになるなら俺はファンタジーをちょっと許そうと思うよ……」
……まあね。ラペレシアナ様に限らず、入浴客が『お肌の調子が滅茶苦茶いい!』とか、『巻き爪治った!』とか、『ちょっと視力良くなった気がする!』とか、『うおおおおおお!なんだこの未だかつてない手触りのスライムは!』とかやってるのを見ると、よかったなあ、って思うよ。
なので、うん……ファンタジーと科学が共生できる新時代を、この俺が切り開いていく所存だよ……。巻き込まれた感が強いけどね……。でもこれが運命だったと思って諦めるぜ……。
……で、だ。
「さーて問題のボディ換装問題が発生しましたよ、っと……」
俺は、目下の悩みの1つに再直面するわけだ。
「消えた下半身をどうするか……。そして、新しくボディを造ったとして、そこにどうやって俺の意識が乗り込むのか……。それが問題です……」
「大変だねえ、アスマ様……」
……ボディ面については、2つの問題がある。
1つは、俺のボディの設計図自体が欠落しちゃってる、ってことだ。
何せ、ダンジョンで分解吸収された俺のボディは、既に下半身無しの状態だったからな。設計図も無い、って訳だ。困った困った。
で、もう1つは……できたボディに、今の俺を搭載することって可能なの?っていう問題だ。
これについては……もしかしたら、ファンタジーパワーに頼ることになる、のか……?もしかして、世界樹由来の例のアイツ……『曖昧にする魔力』で解決すべきところだったり、しちゃうのか……!?
ということで色々と思い悩むことはあるが、まずは行動行動。手と頭を動かしている内に見えてくる道もあるからね。
ということで、俺は下半身の設計図を書き始めた。
「折角だし、下半身の機能向上させるか……。50m走を3秒で走れるくらいに……あと、膝からミサイル撃てるように……逆関節も浪漫だよな。あと折角だし足の裏からジェット噴射して空飛べるように……いや、そうなったら上半身も併せて改造して軽量化を……」
「……あの、わざと大変にしてない?アスマ様……」
いいの!身体改造は男の子の夢なの!夢見てなきゃやってらんないの!んもう!




