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ちび神様の楽園ダンジョン  作者: もちもち物質
第一章:ダンジョンは村に進化した!
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ダンジョン改革計画*1

 ということで、俺とミシシアさんとエデレさんの3人で、会議続行である。よろしく。

「まず、このダンジョンにこれから人が来るかも、ってことは覚悟しておいた方がいいよね」

「だよな。ギルドにあのゴロツキ共を引き渡すってことは、ゴロツキ伝いにここの情報が洩れるってことだもんな」

 まず、そこは覚悟しないといけない。……これからこのダンジョンには、多くの人が来ることになるだろう。何せ……ここ、世界樹があるってもう、バレちまってるもんな。口封じに全員殺す、ってのもなあ、嫌だし……これはしょうがない。うん。

「彼らの目的は世界樹、ってことになると思う。世界樹が人の手の届くところにあるなんて、稀だし」

「そっかぁ……まあ、薬効もあって武具にも使える、って樹なら、当然人が寄ってくるよなあー……。噂を打ち消すような小細工しても、少なくともしばらくの間は世界樹の噂、広まったままだろうしなあ……」

 となると、厄介な連中もこれから来ちゃう可能性が高い、ってことか。うーん、参ったな、こりゃ。


「ところで、アスマ様。他のダンジョンだと、ダンジョンを守る魔物とか、居るけど。……えーと、アスマ様は、魔物は生み出せないの?」

「え?生み出せるの?」

「え?分からないの?」

「え?うん。わかんない」

 ……が、ミシシアさんが色々考えてくれても、当の俺本人が自分の能力に気づいてないからな。おかげで分解吸収再構築の縛りに気付かず、侵入者を迎え入れちまったわけだし……。


「うーん、そっか、アスマ様は生まれたての神様なんだもんね……。まだ色々手探りなんだね。ええと、他のダンジョンにはね、結構魔物が沢山居るんだ。そういう魔物を狩って生計を立ててる人も居るんだよ」

「冒険者、って、本来はそういうものよねえ……。あとは、ダンジョンに眠る宝物を狙うことも多い訳だけれど」

 ミシシアさんとエデレさんが他のダンジョンについて教えてくれるので、俺の中でちょっとだけイメージが固まってきた。成程ね、そういうかんじかあ。

 やっぱりダンジョンっていうと、『罠をかいくぐり、魔物を倒し、そしてお宝を手に入れる場所!』みたいなかんじで伝わってるんだなあ。

 だが。

「……でも、このダンジョンでスライム以外の魔物、見たこと無いよね」

「そう、ねえ……。この1か月くらいで、スライムは沢山見たけれど……」

「スライム、増えてはいるんだけどな。スライム以外は増えてないと思う」

 ……このダンジョン、決して、『血沸き肉躍る魔物との闘い』みたいなのにはなりそうにない。

 何せ、生息している魔物はスライムだけだから!


「スライムって戦えるのかね」

「う、うーん……どうかしら。この子達、戦うのは得意じゃないと思わない?それに……その、戦わせるの、ちょっとかわいそうじゃない?こういうこと言うの、あんまりよくないかもしれないけれど……」

 まあ、スライムは戦えないよな。戦えない。そりゃそうだ。

 だってエデレさんが既にそうだし、俺もそうだが……村の皆は、この1か月程度、ずっと畑として可愛がって育ててきたスライムに、すっかり愛着が湧いちまってるんだよ!

 かわいい!スライムのこの、もっちり気ままなかんじが、なんか、癒される!かわいい!こんなかわいいスライムを戦わせるなんてとんでもねえ!

 ……それに、まあ、可愛くなかったとしても、スライムを戦わせる気にはなれないよな。だってこいつら、『もっちりもっちり……』としか動かないし。戦力になりそうにねえ!

「だよねえ……。うん。私も、スライムに戦わせるのは無理だと思うな……」

 ということで、満場一致でスライムに戦わせる案は棄却。よかったな、スライム達。これからもお前らには畑を頼むぞ。




「で、アスマ様。他の魔物って出せないの?」

「うん……ちょっと頑張ってみたけど、無理っぽい」

 俺の中の感覚を研ぎ澄まし、いろいろ試行錯誤してみたんだが……どうも、魔物を作る、みたいなことはできそうにない。

「多分、魔物ってダンジョンの中で自然発生するんじゃねえかなあ……」

「ああ……そうだよね。ダンジョンって、魔力が濃い訳だし……魔物が湧き出ることは十分にありそう。そっか、それで、ダンジョンの魔物は自分達を生み出す魔力の源を守るために、ダンジョンを守ろうとするのかぁ……」

 あ、やっぱりそういうかんじなんだな。魔力が多いと、魔物が湧くことがある、と……。で、魔物は魔力を必要とするから、魔力を生み出すダンジョンと共存関係になりがち、と……。

「……でも、その魔力が全部、スライムになってそうよね……?」

「うん……そうだよね。或いは、作物に魔力が行っちゃってる……?確かに、薬草とか、ものすごく効果が高いし……世界樹も、思ってたより大分、育っちゃったし……」

 あ、そういうのもあるんだな?成程ね、作物に魔力が行くこともある、と。

 ……うん。

「……ね、ねえ、アスマ様ぁ。そこのところ……魔力がどこに流れるかの配分とか、調整とかって……」

「できないね……」

 何だ?ってことは、アレか?もしかして、ダンジョンの主が誰かによって、出てくる魔物が変わるとか、そういうのあるのか?俺が俺だから、スライムしか生まれてこないと?

 ……ありそうで嫌だなぁー。でもしょうがないな。俺は俺だし。スライムはスライムだし。うん……。

 でも、まあ、これはこれでいいのかもな。少なくとも、作物やスライムに魔力が行っちゃってる、ってことなら、そのおかげでパニス村の人達が飢えずに暮らせるわけなんだしさ。

 うん、まあ、そのせいでダダ下がりな防衛力には一旦目を瞑るものとして……。




「となると、罠を仕掛けておくしかないかなぁ……。他のダンジョンには、結構色々あるんだよ?」

「だろうね」

 俺もダンジョン側だからな。色々罠を用意しとかなきゃ!ってなる他のダンジョンの気持ちは滅茶苦茶よく分かるぜ!

「まあ、一応、洞窟の中はとんでもない迷路になってるんだ。案内無しに進んだら、丸一日かかるくらいの、とんでもないかんじに」

「わ、わあ……」

 あの迷路っぷりには自信がある。それは本当に。

「で、最深部には檻が降ってくる罠がある。一応は」

「うん。それは見た。そっか……アスマ様はやっぱり優しい神様なんだね。あんまり人を傷つけない罠を用意してるんだ」

 ま、まあ、そう……かもしれない。

 ……うん。『優しい』ってよりは、『甘い』んだろうけど。でも、ゴロツキ連中の処理についてもそうだけど、『殺す』とかじゃなくて、『ギルドに引き渡す』って方が正しいと、俺は思うから……。

 いや、でもそのせいでパニス村の人達が苦しむようなことになっちゃいかんのだが……。


 ……と、考えていたところ。

「そう、ねえ……一応、私達はダンジョンの入り口前に住まわせていただくことになるんでしょうし、そこに検問所みたいなものを設けて、村全体で運営することはできると思うけれど……」

 エデレさんが、そんなことを言い出した。

 ……うん。

「あの、さ。エデレさん、ミシシアさん。あの、そちらが考えてる『ダンジョンの入り口』って、どこ?」

 俺、何かとんでもない勘違いをしてるんじゃないか、という気がして、聞いてみる。

 ……すると。

「え?あの、ダンジョンの前の……ええと、洞窟の前の、少し開けた土地のことを言っていたのだけれど……違ったかしら?」

「あっ、もしかしてダンジョンって、洞窟の途中からなの?」

 そんな答えが返ってきて、俺はようやく、自分の勘違いに気づいた。同時に、エデレさんとミシシアさんも気づいたことだろう。

「……洞窟周辺の森一帯も、一応、ダンジョンなの」

 そう。

 どうやら、実際のダンジョンの範囲と、人々が考えるダンジョンの範囲。

 ここに、でっけえ齟齬がありそうである。




 ……ということで。

「ちょ、ちょっと待ってね。整理するね。えーと、つまり、アスマ様のダンジョンって、あの洞窟の外も含まれてて、今、村の皆が居るあたりとか、冒険者崩れ達を入れてある檻とか、そういうのも一応、『ダンジョン内』ってことになるの?」

「うん。そうだよ」

「それで、アスマ様はそれらも含めて、『ダンジョン内』のことは、その場に居なくても分かる……っていうことなのかしら?」

「うん。大雑把には。細かい把握はやっぱり、実際に見て触った方がいいんだけど」

 俺はミシシアさんとエデレさんに『実はダンジョンってこういうもんなんですよ』という話をした。2人とも、えらく驚いていた。

 そっかー、成程ね。どうやら人々の間では、『ダンジョンの範囲』みたいなのって、あんまり知られてないらしい。だから皆、『洞窟』がダンジョンだってことには気づけても、洞窟の周りの森までダンジョンだ、とは思わないって訳か。

 ……まあ、俺としては、洞窟前の広場でパニス村の人々が活動していたことによって、何故か、ちょっと魔力を貰っちゃってるので……なんか騙してたみたいで申し訳ないな。どうもありがとうございます。

「なら、本当に検問所は作るべきだと思うわ。それこそ、本当のダンジョンの入り口を『村の門』ってことにして、そこに誰かが来たら、ダンジョンの中に入る前にアスマ様が気づいて先に対処できるものね」

 うわー、それはありがたい。

 まだ検証が必要だが、多分、今のところは……『ダンジョンに敵対する者がダンジョン内に居ると、分解吸収再構築ができなくなる』ってかんじだと思うんだよな。

 だから、ダンジョン手前で時間稼ぎして貰えたら、ものすごくありがたい。その間に必要な準備を整えられる!


「ついでに、洞窟の入り口にも検問所っていうか、ダンジョンに入る人を規制するための場所を作っておいた方がいいよね!他のダンジョンでも、ギルドが管理してるところなんかはそうなってるところ、多いし!」

「あ、そうなの?」

「うん。ほら、ギルドとしては、自分達が管理してるダンジョンの中で見つかる宝物とか、ダンジョン内の魔物の毛皮とか、その場で買い取りたいじゃない?だから、冒険者の安否確認も兼ねて、入場手続きと退場手続き、ついでに買い取りなんかも行ってるんだよ」

 へー。他のダンジョンも人間の暮らしに溶け込んでるのがあるんだなあ。……いや、溶け込んでるのか、溶け込まされちゃったのかは分からんが……。


「あ、じゃあいっそ、ダンジョンにどんどん人を呼び込んで、本格的にパニス村の収入源にしてもらうことってできないかなぁ」

「えっ……あ、アスマ様?そんなことして、いいのかしら?」

「うん。最奥にさえ入られなければ大丈夫なんだから、今までの方針通り、最奥一歩手前に罠と防衛力を集中させるだけにして、その手前までは人に入ってもらってもいいと思うんだ。むしろ人通りが多い方が、変な奴を弾く作用をもたらすだろうし」

 というか、他のダンジョンはそうしてるんじゃねえかな。

 どうも……ダンジョンってのは、人が入って活動してると、魔力を得られる、らしいので。

 だから他のダンジョンって多分、『健全に多くの人が出入りして、それでいて最深部には到達せず、でも満足して帰っていく』っていう循環を作ってるんだと思うんだよな。多分。だからお宝とかあるんだろ?

 ……でも、まあ、不思議なんだよなー。分解吸収してても、なんかやたらと魔力を生むものあるし。どういう基準で魔力が生まれてるのか、いずれ細かく検証してみたいね。


 ま、それはさておき……。

「つまり、ダンジョンに人を呼び込んで、安全に返すために、複雑な迷路と『お宝』……特に、『偽の世界樹』を用意しておけばいいんじゃねえかな」




 ……ということで。

 俺はミシシアさんとエデレさんに諸々相談して、ダンジョン改修案を固めた。

「ああ、とっても助かるけれど……本当にいいの?アスマ様のダンジョンをお金儲けに利用させてもらうなんて……」

「いいの。俺としても、皆がここに居てくれると嬉しいし。お互い、協力関係になれればいいよな」

「アスマ様、ありがとう!流石私達の、優しいちび神様!」

 エデレさんはちょっと遠慮がちだったが、ミシシアさんは早速乗ってくれた。ついでにぎゅっとやられた。もう慣れてきました。

「本当にありがとう、アスマ様。村で手伝えることは、いくらでも手伝うわ。何かあったら何でも言ってね」

「うん。ありがとう、エデレさん!」

 まあ、俺はこのスタイルで行くことにしよう。

 パニス村の人達と共存関係を保ちながら、守ってもらって、俺も皆を守る。そんな風にして、なんとかやっていこうと思うよ。

「ギルドにあいつら引き渡したら、ここにダンジョンがあるって情報は漏れちゃうわけだし……そうしたら、いよいよ人が来そうだし、村で入場規制をしながら入場料とって資金源にするのはアリかも」

 成程なあ。まあ、パニス村の利益になるなら、ダンジョンを利用してもらって構わない。その分、守ってもらうことになるだろうし……。

「じゃあ、アスマ様がダンジョンの神様だ、ってのは内緒だね!」

「そうね。村の皆にもしっかり通達しておかなきゃ……」

 ……うん。お世話になります!これからよろしく!




「……で、防衛案、どうするかなあ」

 さて。

 そうして俺達はまた、ここに戻ってくることになる。

 ダンジョンを村の資源にしてもらって共存関係を築くことと、ダンジョンに人を招き入れていく方針はいいとして……結局のところ、『それで、最深部までうっかり来ちまった人の対応、どうする?』ってなる訳だ。


 魔物は生み出せそうにない。ミシシアさん1人だと、ちょっと心もとない。流石に交代要員くらいは、欲しい。

 ……という具合に考えていくと、せめてもう1人くらいは、戦える誰かを雇っておきたいんだが……。

「そうねえ……ギルドに依頼して、冒険者を雇うことはできるわよ。でも、大抵は日雇いになっちゃうし、長期契約となると、請けてくれる人がいるかどうか……」

「あー、傭兵ってことかー……」

 うん、まあ、理屈は分かる。即戦力を求めるならば、傭兵を雇う、みたいなかんじになるわけだ。

 だが、ダンジョンの最奥に入ってきちゃいそうな人だけを排除してもらう仕事、となると、このダンジョンの根幹に近い部分に携わることになる訳だ。

 ならばやっぱり、できる限り信頼のおける、口の堅い人を雇いたいんだよな。となると日雇いはちょっと厳しいし、でも長期契約を請けてもらうのは難しい、となると、うーん……。

「戦が終わって職にあぶれた傭兵は多いから、誰か上手いこと見つかるといいんだけどねー……でも、いい人はもう職を見つけちゃってるだろうし、職にあぶれちゃうような人は、大抵は冒険者崩れになっちゃうような人なわけで……」

 ミシシアさんの言葉に俺は深く納得する。まあそりゃそうだよね、と。

 冒険者崩れ、というと、今、檻に入ってるような人が各地に沢山居るんだろうなあ。そして、ああいう連中を雇うのは、流石にどうかしてると思うし……。


 ……ほんとに?

 いや、俺、1人知ってるぞ。腕はともかく、少なくとも、心根の方はまともそうな冒険者崩れ。

 ……うん。『腕』は、ともかく、になるけど……。




「あのー、ミシシアさん……」

「うん、どしたの?」

 俺は、思いついちまったことをミシシアさんに確認してみる。

「世界樹が生えて、ダンジョンの魔力が増えたわけだろ?ダンジョン産の薬草、また効力が増してるよね?」

「え、うん。そう思うよ。だから次にポーションを作ったら、もっとすごいのができるかも!」

 ミシシアさんが嬉しそうに答えてくれるのを聞いて、よし、よし……と思いつつ……。

「……新しいポーションでさ、その、昔の大怪我、みたいなの、治せたりしないかな。例えば、欠損しちゃった片腕とか……」

 ……流石にちょっと厳しいかな、これは。いや、でもここは、科学を無視するファンタジー力に期待!

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― 新着の感想 ―
この世界の習俗がよくわからないからアレなんだけど。人を集めるだけなら、美味しい料理とゆったりお風呂をウリにするのでもイケる気が……
どこかからドラゴンの骨とか皮とかを買ってきて、遺伝情報から再構成してダンジョン最奥の最終関門として配置、更に侵入者にそいつが負けそうな場合、そこの部屋ごと完全に潰すようなトラップでも作れば、万一の防衛…
そうですよね、スライムを戦わせるだなんて出来ないですよね。 こんなに可愛いもちもちした物質か怪我しちゃったら… もちもち…物質…… もしやこのスライム達は作者の化身?
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