沼のその先へ!*4
ということで。
『のうとせかいじゆえだまぜろ』
「え!?脳みそだけじゃなくて、世界樹の枝が要るの!?わかった!やってみる!」
『かえるのにせかいじゆいる』
「やっぱりぃ……?え、具体的にアレ、どうやったら帰れるの?あの割れ目通り抜けないとダメだよな?」
『あいまいにしかえせ』
「曖昧にぃ!?つまり抽出した魔力使うの!?」
『YES』
「どうやって!?あれテストしてみたら全然再現性の無い謎の結果しか出なくて、俺、どうしようもないんだけど!」
『いのれ』
「お祈り案件なのぉ!?N数増やして何とかするタイプの、ゴリ押し戦略で行くしかないのぉ!?」
『NO』
「え!?何!?単にN数増やせってんじゃなくて、なんか……え!?祈るとなんか起きるのぉ!?分かったやってみるね!お祈り!」
『あとぼでい』
「そうだ!ボディ!俺の19歳ボディ……よく考えたら下半身の設計図、ねえな……?」
『がんばれ』
「どう頑張るのぉ!?もう俺なんもわかんなぁい!」
……俺ともう1人の俺の問答は続いている。
ありがてえ。めっちゃ、ありがてえ……!ありがてえんだけど、もう1人の俺が通信料をケチろうと頑張ってくれているせいで、結構分かりにくい!
そして何より……話してる中で分かってきたんだけど、もう1人の俺も、全てを知ってるわけではないようである。そりゃそうだ。ダンジョンはアカシックレコードではない。
が、それはそれとして、あらゆる情報のたまり場ではあるので、色々知ってはいるようである。
……ということで、ダンジョンについて新たに分かったことがいくつかあった。
まず1つ目に、ダンジョンはそれぞれ独立した存在であるっぽい。
……えーと、つまるところ、パニス村ダンジョンとウパルパダンジョンは、繋がっていない。独立した存在であるので、内部に保有している情報や魔力の共有はできないようである。そして勿論、運用システムも違うっぽい、と。そこのところは『おれのことしかわからん』とのことだったが。
が、それぞれのダンジョンは、同じものから生まれる、らしい。
1人の親から複数の、それぞれ全く異なる子供が生まれるように。ダンジョンとは、その『親ダンジョン』から生まれた、多くの子供達なのだそうだ。
2つ目に、『じゃあその親ダンジョンって何よ?』という話だが……こちらについては、もう概念みたいなもんらしいので、それを消すのは難しいらしい。まあ、ファンタジーのことは俺も分からんのでしょうがない。
ただ、そこから『ダンジョンの主の腕輪の設計図』が各ダンジョンに配布されてるっぽい。そして、各ダンジョンはそれを見て、『成程じゃあ再構築でこれ作ろう』と作っているのだとか。
……で、それが中々に高コストなのだとか。まあそうだろうなあ。オリハルコンを再構築でコピーするってのは、そういうことなんだろうなあ……。
3つ目に、『ところでダンジョンって情報が好きなの?』については、概ね『なんか俺達の世界での情報というものがこの世界においては魔力に変換されるっぽい。で、ダンジョンは俺達の世界由来のものなので情報を魔力に変換して好き放題できておもろい』みたいなことが返ってきた。
……うん。
そう。『ダンジョンは俺達の世界由来のものなので』らしいのよ。
……ということで、聞いてみた。『そもそもダンジョンってどうやってできてんの?』と。
「成程ねー、ここは死後の世界ってワケね!それが例の割れ目を通して世界樹の『曖昧にする魔力』とうっかり出会っちまったせいで、俺達こと地球のゆかいな仲間達が好き勝手できるダンジョンを生成しちゃうってわけね!」
『YES』
……そう。
どうやらここは、扱いとしては……『死後の世界の1つ』である、らしい。どうも。どうも、そういうこと、らしいのだ……。
……つまり今、俺の世界って、死後の世界の一種と繋がっちゃってる訳なんだけど……えーと、まあ、ここでの『死後の世界』は、宗教上のアレではなく、死んだ人間の意識がコピーされてだか移動されてだかして宿ってしまう謎の世界ということなので、死後というよりは生命第二ステージみたいなかんじだから宗教戦争にはならないでくれると俺は信じている。
が、この世界の存在自体、なんかこう……科学と真っ向から衝突している気はするので……そういう意味で宗教戦争が加速する気はする!反科学のクソアホ共を助長させかねない!やっぱり駄目だ!俺、元の世界に帰ってこの争いを食い止めるべく、ファンタジーを科学の枠に嵌め込んじまわねえとだ!うわああああああ!
……というところで、『ねる』と返事があったので見てみたら、魔力が大分減っていた。ということは『ねる』は、『そろそろ魔力切れになるからお喋りは中断ね』っていう意味なんだろう。なんと気遣いのできる俺。ありがとう俺。
「そして生まれし大量のスライム……」
俺ともう1人の俺のお喋りの結果は、こうしてスライムの数に現れる。今も新設温泉から溢れ返ったスライムがもっちりもっちりと這いまわっているところである。ちょっとこわい。
「……またドナドナしに行くかぁ」
まあ、あのスライムは王都にドナドナさせてもらうとして……えーと、少しずつ、もう1人の俺と相談したことを実行していこうじゃないの。
「ということで、まずは俺の脳を複製します」
「いいの!?」
「正直、よくはない!」
……まずはここからである。丁度、王都にスライムをドナドナしなきゃいけない用事があるので丁度いいね。オウラ様の金鉱ダンジョンで、複製した『俺の脳』を吸収してもらう手筈。
「まあ、脳だけ。脳だけ作るかんじでいこうと思う。生きてる俺が生まれてしまうと、滅茶苦茶厄介なことになりそうなので……」
あと生命倫理的に、なんかよくない。なんかよくないので、でもまあ……自分の脳を目撃することになる!これもなんか駄目な気がしてきたなあ!でもしょうがねえ!俺達にはこれしかねえんだ!
「ええいままよ!出てこい俺の脳!」
ということで、やる気と勢いに任せて俺の脳みそ再構築。このダンジョンに残っている、最も古い記録を参照すればすぐにデータが手に入るからね。それを元に、コピーするかんじで再構築すればイッパツって訳よ!
……ということで。
「ワァオー」
べちょっ、と、俺の脳が生成された。
……うん。
「一旦吸収」
「えっ!?出したのに!?」
「うん……」
なんか……なんか、心の健康によろしくない気配がしたから一旦ナイナイしました!なんか!なんか俺、駄目かもしれない!駄目かもしれない!うわああああああ!
「分析してみたところ、『俺自身の脳みそを目撃するということよりも、脳というものをきちんと管理せず床の上とかにべちょっと放置している状態が俺の心に悪い』っていうことが分かったので、見た目をそれらしく整えました」
「これでいいの!?」
俺は科学の徒なので、なんか……なんか、生理食塩水とかホルマリンとかに浸かっているわけでもなく、脳みそがそこらへんにべちょっと置いてある状態に忌避感を覚えていたっぽい。我ながら単純である。いや、単純か?逆に一周回って複雑で濃厚で滋味深い味わいとか無いか?
「まあ、脳みそはこうあるべきだよな」
「えーと、アスマ様の世界では、脳みそはこういう風に容器に入れるんだね?で、えーと、なんで線が繋いであるの……?」
「雰囲気って大事だから!」
……ということで、俺の脳は今、円筒形の透明アクリルケースの中、ポリビニルアルコール液にいいかんじに浮かんでいる。あと、特に意味も無く電極とか刺してある。いや、ほら、雰囲気って大事じゃん……?
ちなみになんでポリビニルアルコールなのよっていうと、脳みそが沈まず浮かないいいかんじの粘性の液体がそれだった。もうね、どうせ脳みそを分解吸収すれば、脳みその状態はそんなに重要じゃないんだろうからね!雰囲気重視で行くしかねえよな!
「ということでこちらをオウラ様のダンジョンで試していただこうと思う」
「えっ、いいの?オウラ様のダンジョンって、魔物狩りで生計立ててる人、居ない?」
「ダンジョンの変化によって金鉱石を産出できなくなる可能性もあるんだったな……?」
「……やっぱりウパルパあたりで試した方がいいかなあ」
えーと……うん。やっぱりウパルパダンジョンでやろう。それがいい。どういう変化が起こるか分からない訳だし、王都の人々の生活に直結しちゃってるもので一回目の実験をやるのは流石にね……。
ということでやってきましたウパルパダンジョン。今日もなんとなく酔っぱらったドラゴンとかが、元気に、うぱっ、として、るぱっ、とした顔でお出迎えしてくれた。いいのかお前。その、妙に懐っこいドラゴンってのは、いいのか。
「えーと、ウパルパは……あっ!居た!」
「今日も酒飲んでやがる……」
……そしてウパルパ本人は、今日も元気に呑兵衛である。幸せそうな、うぱっ!としたお顔なので俺達はもう何も言えねえ。
「こんにちはウパルパ。突然で悪いがお土産だぞ。ほら。この脳缶と世界樹の枝を分解吸収してくれたまえ。そしてこっちは報酬の甘酒。アルコール度数1%未満だから、いっぱい飲むならお茶かこっちにしなさい」
見つけたウパルパに、早速俺の脳缶と世界樹の枝、あと『俺の脳みそ、おいしくないだろうしお口直しに……』ということで持ってきた甘酒の瓶詰めを渡す。で、甘酒をちょこっと小さな杯に注いで、『ほら、こういうやつ』と飲ませてやる。
……するとウパルパは甘酒を飲んで、大層お気に召したらしい。これを美味しいものだと理解したのか、うぱっ!と、元気に分解吸収してくれました。ありがとうなウパルパ。
「さぁて、ここからどういう変化が起きるのか……」
「ウパルパ自体には何も変化が見られないな……」
「もしダンジョンが結構作り変わってるんだとしたら、それに気づかないウパルパは……なんか、暢気、だよねえ……?」
俺達は好き勝手言いつつ、ウパルパとダンジョンを見守る。ウパルパ自身は早速甘酒を生成して、なんとも上機嫌に一杯やってるところである。まあ、ワインだブランデーだってやってるよりは、甘酒だジャスミンティーだってやっててくれた方が、俺としては安心だね……。
……と、しばらくウパルパのお食事シーンを眺めていたところ。
「ん?スライムが出てきたな……」
もそもそもそ、とスライムが数匹、ダンジョンの奥から湧き出てきた。おお、いらっしゃいいらっしゃい。
……が、このスライムが新たなるダンジョンによって生み出されたものなのかどうか、確認する術が無い。多分、生み出すダンジョン側に変化があっても、生み出されるスライム側には変化が無いか、或いはスライム達は自分の変化を認識できてないんだろうからな……。
さーてどうしたもんかな、と思っていたところ……ウパルパが、甘酒の池から口を離して、『ぷぁー』と鳴いた。
おお、飲み終わったか、と思いつつウパルパを見守っていると、ウパルパは元気に歩き出す。……飲酒しにいくんじゃないだろうな!?ということで、俺達もウパルパを追跡。ブランデーの池には行かせねえぞウパルパ!せめてワインの池にしなさい!
が、ウパルパはブランデーの池もワインの池も日本酒の池もウイスキーの池も、全てスルー。逆に俺達が心配になっていると……ウパルパは、ダンジョンの奥まった一室に、俺達を連れてきてくれた。
「ワァオー」
……するとそこには、3つの温泉にもっちりと浸かるスライム達の姿があったのだった!
「えー、スライムの数は、17、5、4……。Cl、B、Be……じゃねえな。えーと、スライムの数、入れ替わっちゃった?ってこともなさそうだな、このへべれけ具合だと……」
……哀れスライム達は、へべれけである。何せ、ここの温泉3つ、どうも酒と酒と酒らしいから……。正直、俺、気化した分だけでアル中になりそうだぜ!
多分、ウォッカとかそういうのに浸かってたんであろうスライム達は、すっかり酔っぱらっててれてれなので、多分、池と池の間で移動しちゃって数が分からなくなっちゃった、ってことは無い、と思う。
……となると。
「えーと……あ、もしかしてこれアルファベットか。となると、えーと、ABCDEFG……ああ成程ね」
指折り数えてアルファベット順を確認していけば、成程、スライムを生み出したダンジョンの意思が分かるってもんである。
「Q.E.D。証明完了、ってことね」
……どうやら、本当に俺の脳は、ダンジョンにこういう影響を与えるらしいのだ。




