沼のその先へ!*1
ということで、俺は考えた。
考えてる間にも行列は進み、その内、俺とリーザスさんは一緒に入浴することになっていた。
まあ、お湯に浸かりながら、尚も考えた。考えた。考えて……。
「もしかしてダンジョンがダンジョンパワーを使う時にも、『見られていると物を生み出せない』みたいなのがあるのか!?」
そう、結論づけた!
多分、ダンジョンの意思表示がこういう曖昧なかんじなのは!そういう風に、制約があるからじゃねえかなあ!?
「ということで作りました、ダンジョン交信用の箱とスライム用温泉です」
「おおー」
はい。パニス村の裏山に温泉とでけえ箱作りました。これがダンジョンとの交信を図るためのアイテムだぜ!
「箱には蓋が付いてて、中が見えないようになっている。そして、蓋を閉めた状態で、ダンジョンと質疑応答のやり取りをして、で、ダンジョンからのお返事は、スライムという形でこの箱の中に出してもらう!」
「おおー!……えっ、それ、大丈夫なの……?」
「分からん!わからんが、とりあえずスライムになる材料である水は入れといた!魔力は……あ、ミシシアさん。なんか面白い話して」
「面白い話!?えーと、えーと……エルフが『起きたらケーキ食べよう!』って思って昼寝して、起きたらケーキがかびてた」
「駄目だ……エルフ式のジョークはなんかよく分からん……!」
ミシシアさんのエルフ式ジョークになんかズレを感じたが、まあ、今ので多少の魔力は得られたはずである。ということでこれはこれでヨシ。
「はい。じゃあダンジョンさんに質問です!まず、あのスライムはダンジョンさんの意思ですか!?そうだったら箱の中にスライムを1匹、そうじゃなかったらやっぱり箱の中にスライムを2匹、出してください!」
……で、早速始めてみる。
上手くいけば、これでダンジョンに意思があることを、はっきりと確認できるんだが……。
……そして、3分後。
「……スライムが一匹!FOOOOOO!」
箱の中を確認した俺、大歓喜。
遂に!遂に、ダンジョンとの交信ができたぜ!FOOOOOOO!
いや、まだ浮かれてはいけない。俺は早速、ダンジョン交信用BOXを2つ増やして合計3つにした。
そして、『右から順に!1+1は!?9÷3は!?そして、ルート16は!?』とやったところ、右からスライム2匹、スライム3匹、そしてスライム4匹、というBOXを確認することができた。おおお、こりゃ交信できてるんじゃねえかな!?
いや、いやいや、まだ慌ててはいけない。俺は慌てず、更にBOXを2つ増やして合計5つにした。
そして、『赤かったらスライム1つ、赤くなかったらスライム2つでお願いします!右の箱から順に!りんご!ひまわり!ずんだもん!シャア専用ザク!スターリン!』ってやって、右から12211の回答を得られたので、『こりゃ偶然じゃなくてちゃんと交信できてるな!』と結論付けた。
……いや、いやいやいや、交信できたとして、それが『俺』であるかどうかは分からない!
ということで、俺は再び、質問をすることとして……。
「好きな御三家は!?」
「アスマ様、御三家って何?」
ミシシアさんの疑問はちょっと置いておかせてもらって、緊張しつつ、待つ。
……相手がどういう答え方をしてくるか、ってところも含めて、相手が本当に『俺』なのかを見極めるつもりで。
そして、3分ほど待ったところで……。
「ワァオー」
「スライムが!ちっちゃいスライムがミッチミチだよアスマ様ぁ!」
箱の中に、どう見てもミッチミチすぎる程度にスライムが詰まり詰まっていた!なんか、1つ1つは小さいサイズなんだけれど、それがミッチミチなんで、クソデカスライムが1匹入ってるのと同じぐらいにミッチミチになってる!
「よし!数を数えるぞ!」
「数えるのぉ!?これ、数えなきゃダメなのぉ!?」
ミシシアさんが『うそー!』と言っているが、数える。数えないと、俺の意思が分からん!
ということで、数えた。
「えーと、1、53、102、18、33、53……成程な」
そして俺は理解した。成程、これは確かに、『俺』の意思だ、と……!
「アスマ様。この数字には何か意味が?」
「ああ。俺達科学の徒には、よく使う暗号の方法があってね……!」
リーザスさんには分からんだろう。ミシシアさんにも分からないに決まっている。
そう。恐らく、この世界においては俺だけが知っている情報だ。それによって解読できる内容、ダンジョン、つまり『俺』の意思は……。
「周期表に対応させると、それぞれの数字が示す元素は、H、I、No、Ar、As、I……つまり答えは!『ヒノアラシ』!はい正解!俺、ヒノアラシ大好き!あの丸っこい曲線のフォルム!進化後のもっちりしたお腹!最高!」
「よく分かんないけど、アスマ様が変な人で、このダンジョンもアスマ様だから変なダンジョン、ってことでいいの?」
「いい!」
俺が『ダンジョン、俺だった!』と踊る横で、ミシシアさんとリーザスさんが何とも言えない顔をしていたが、俺はダンジョンと手を取り合って踊りたい気分だぜ!
まあ、ダンジョンに手は無いので、生まれてしまった260匹と一緒に飛び跳ねて喜ぶことにした。そうしたらその内、『まあいいか!』とミシシアさんも踊り始め、リーザスさんも、ちょっと控えめに踊り始めてくれた。
……よい仲間に恵まれた!
はい。
ということで、このダンジョンは俺です。間違いなく、俺です。
というか、俺じゃなかったとしても、俺の記憶を確実に吸収していることは間違いない。で、『ダンジョンが枯れた』状態で吸収したものが俺なんだろうから、ベースになってるものは間違いなく、俺。俺です。このダンジョンは俺です!
「俺ぇ……会いたかったぜ……」
ということで、ダンジョンの石壁にすりすりやってみてるんだが、まあ、ダンジョンとダンジョンの壁は多分別なんだろうしな。いや、それ言い始めるとダンジョンの実体って何よってなっちゃうからあんまり考えないことにしよう。ヨシ。
「じゃあ、これでようやく聞けるなあ。えーとね……」
で、そんな俺が居る訳なので、俺は早速、聞いてみる。
「ダンジョンを恒久的に機能停止することってできる?」
「アスマ様ぁ、それ、『はい』と『いいえ』だけで応えるの、難しいんじゃないかなあ」
「それもそうだね。じゃあ交信用に箱用意しといたから。これの上の段が子音、下の段が母音で、ひらがな50音で交信しようぜ!なあもう一人の俺!」
「アスマ様の世界ではこうしたやり取りが一般的なのか?いや、一般的ではないんだろうな……」
まあ、もう一人の俺が返答しやすいように環境整備してあげないとね、ということで、たっぷりと箱を作る。ここにスライムを湧かせて返事をお願いします。
長くかかるだろうから、ちょっとのんびり待つとして、その間は出てきちゃった大量のスライム達と戯れていることにする。
……うん。
「ミシシアさん……リーザスさん……俺、気づいちゃったんだけど」
「うん」
「どうしたんだ、アスマ様」
俺、スライムをもにもにやりながら、悟った。
「このやり取り方法、スライムがめっちゃ増えるな?」
「ふえちゃった」
「増えちゃったねえ、アスマ様ぁ……」
「収拾がつかないな……」
そうして現場はスライムだらけになってしまった。いやあ、見渡す限りスライム。ああもっちりもっちりもっちりもっちりあああああ……。
「だが、ダンジョンの意思は確認できた」
この、『スライム大増殖!』というやべえ事態は置いておくとして……ひとまず、もう1人の俺からの返事は来た。
『われめをとじろ』。
……それが、もう1人の俺からのメッセージである。つまるところ、『ダンジョンを機能停止させるにはどうすればいい?』への返答が、『割れ目を閉じろ』だった。
「成程ね……つまり、やっぱり俺の世界と繋がっちゃってるのが問題って訳か……」
なんとなく分かっていたような、分かっていなかったような、そんなかんじだが、ひとまずダンジョンの機能停止には『割れ目を閉じる』が効果的、と。成程ね。
……多分、全てのダンジョンの最奥に割れ目があるんだろうなあ。見つかってないダンジョンについては、多分、探索が足りてねえ。地中とかに割れ目が埋もれてるんじゃないかな、と思う。
が、それら全てを1つ1つ虱潰しに探してなんか処理するのも大変っていうかぁ……ちょっと、途方に暮れちゃうぜ。
「えー、具体的に、どうしたら割れ目って閉じられるかな……。俺さん、分かります?」
ということで、もうちょっとお知恵拝借できねえかなあ、と聞いてみる。すると、魔力がちょっともこもこ動く気配があったので、また返答待ち。
……そして。
「えーと……『おれふやせ』かな。うん……」
なんか……なんか、また困るかんじのものが出てきちゃった!
何!?増やすって、何を!?ダンジョンを、ってこと!?それとも俺のクローンが増えるってこと!?どういうこと!俺わかんない!俺の言うことなのに俺が分かんないのなんでェ!?うわあああああ!




