ダンジョンからは逃げられない*5
侵入者達は、ぞろぞろとやってくる。そして彼らは、酸素たっぷり部屋のドアに手をかけ……。
「うわっ!?なんだ!?」
ぼうっ、と急激に燃え上がった炎に、一気に警戒が強まる。が、部屋のドアをすぐさま閉めても意味がない。彼らを襲うものは、彼らの背後からやってくるのだ!
ということで、納豆矢が、どすっ、と侵入者の1人に突き刺さった。が、他は全員、回避!うわー!ありえねえ!マジありえねえもうやだ!俺、ファンタジー嫌い!
が、酸素部屋の威力が思ってたより強かった。燃え上がった炎がバンバン燃え広がっていくんで、なんかこっちの方がすごい。
更に、『火が燃えるならまあ大丈夫やろ』とでも思ったのか、超高濃度酸素部屋に突っ込んじゃった人が何人か居て、彼らは即座にばたんきゅーした。そりゃそうだよ。俺達は空気のバランスによって生かされてる身だぞ。頭が高い!
……で、一方、納豆矢が刺さった1人については、『矢が刺さった分はすぐ治しますね!』ってことで、ポーションを使って傷を即座に治していたため、納豆パワーを確認することができず!
無念!俺は納豆の活躍を見てみたかったのに!
「ということで、今回の侵入者、物理ファンタジー力に大分振ってる気がする」
「ぶつりふぁんたじーりょく……?」
はい。ひとまず、酸素部屋With納豆矢をやってみて分かったことは、『あいつらの身体能力マジでどうなってんの』である。
納豆矢に気付いて即座に避けて、それで間に合っちゃうってどういうことなのよ。マジでなんでもありだなファンタジー!許さねえ!
……一方で、やっぱり酸素部屋の効果はデカかったね。一気に火が燃え上がった時、かなりのパニックが見えた。正直、納豆矢よりもランプの火から一気に燃え広がった火によって起こった火傷の方が被害がデカかった。マジかよ本当に分かんねえなファンタジー世界。
「……まあ、やっぱり目に見えないもので攻めるのがいいってかんじかな。逆に、目に見えるものはどんなものでも反応できちゃうってのも、逆手にとれるかも」
まあね、『反応できちゃう』ってのは、一長一短よ。あいつら、目に見えないものへの知識が無いから、そっちは警戒しようがないんだ。だから、『慎重にいかなきゃ』ってプレッシャーが掛かったら、余計に『見えるものに注目して、見えないものには不注意になっていく』ってかんじになるんだと思う。
それを利用して、奴らを動かす。それが、残り90名以上の侵入者を片付けるための大きなポイントになるだろう。
「じゃあとりあえずこっち追加して……反応しちゃったらまあ、こっちに行くだろうからこっちには二酸化炭素ぶち込んどくか……」
「やっぱり、にさんかたんそ、使うんだね……?」
「あ、うん。どう足掻いても1人2人はこれで落ちるだろうと思うし……」
……まあ、多少は卑怯な手も使いますよ。こちとらダンジョン防衛が掛かってるんでね……。
そうして侵入者達を見守っていたところ、侵入者達は酸素と納豆吹き矢の後処理を終えて、また進軍を始めるところだった。
ところでこいつらって、各地から集められた聖騎士とかなのかな。魔法使い職っぽい人も居るから、そっちは司祭とかそういうことなのかも。
まあいずれにせよ、教会と大聖堂の関係者であることは間違いない。いらっしゃいませ。ようこそ。そして死ね!
……ということで。
「はい、挨拶代わりの吹き矢よー」
早速、通路の端から吹き矢でご挨拶だ。吹き矢にはまた納豆塗ってある。よろしく納豆。
すると、最前列の連中は即座に気付いて盾を構えて吹き矢を回避。すげえなー、吹き矢を見てから防いでるぜこいつら。どういう反応速度してるんだマジで。
……で、吹き矢に夢中になってる連中の足元で、催涙剤をON。まあ、これは避けられねえだろ!
……とやると、まあ、現場はパニックに陥った。
案の定、催涙剤は、避けられなかったのである。そりゃそうだ。こっちにも即座に反応されても困る。折角囮の納豆矢を用意したんだからさ。
というか、催涙剤っていうもの自体がかなり特殊なもんだから、そこに戸惑ってたのかもしれないね。
まあ、100人近くも居ると、『これはまずい』ってなった時の対応もそれなりになる。即ち……催涙剤をもろに浴びて使い物にならなくなった兵を切り捨てて、残りの無事な奴だけ助かろうとし始めた。
催涙剤&納豆矢ルームのドアが閉められて、中には催涙剤で前が見えていない奴らだけが残された。その数10名程度!
まあ、見えてないなら吹き矢が当たる。しっかり納豆矢をどすどす撃ち込ませてもらって、失血とかで意識を失っていったところで、彼らの周りに檻を再構築して回収。装備もしっかり回収してからポーションで適当に延命処置して、こいつらは出荷よー。
さて。
こうして残り80人強となった侵入者達だが、彼らの内の半分程度は、催涙剤の影響を多少なりとも受けている。
まずはその回復を待ってからの進軍、ということになったらしい。まあ、賢明。
……だが!それをのんびりと許す俺ではない!俺ではないのだ!
ということで、休憩中の彼らの頭上から、シュウ酸カルシウム結晶を大量に落とす。えーと、シュウ酸カルシウムっていうのは細い針みたいな結晶で、皮膚に刺さるとめっちゃ痒くなるやつ。あと、刺さりすぎるとめっちゃ痛くなるやつ。山芋の中に入っていることはあまりにも有名。
結晶が鎧の間から入っちゃったり、服の上から刺さったりしている彼らがまた大混乱の様相になっているのを『よしよし』と見守りつつ、俺は次の手を打つ。
それはすなわち、落とし穴発動!
……当然、ファンタジーパワーで大ジャンプして避ける奴も居たが、落ちる奴も居る!特に、『かゆい!なんかよく分からんがかゆい!』とやってた連中なら猶更なのだ!
こうして、20人程度は落とし穴に落とすことができたので、分断できた奴からどんどん片付けていこうね!
……それからもひたすら、侵入者を片付け続けた。
まずは落とし穴に落とした20人程度。こいつらは落とした先でそのまま二酸化炭素ルームにダイブしてもらった。二酸化炭素対策はしてるんだろうなあ、と思っていたので、じゃあどういう対策をしているんだろうね?という確認のためである。
……その結果、どうも、防御壁っぽい魔法を自分の周囲に展開して、その防御壁の中に普通の空気を残してあるからしばらく意識を保てるらしい、ということが分かった。成程ね、こういうことができるんだったら、シアン化水素をぶち込んだとしてもしばらくは大丈夫っぽいな。
が、当然ながら、ずっとそういう風に防御壁を展開し続けていることはできないらしい。そりゃそうだ。ずっと無敵状態で居られたらダンジョンとしては商売あがったりである。
まあ、そういうわけで、二酸化炭素ルームでは根競べ、ってことになった。相手の防御壁に罅が入るのが先か、部屋を脱出されるのが先か、っていう。
……これはね、かなり、相手も頑張ってたよ。でもね、俺が唯一の脱出路であるハシゴの上から、滝のように注水しちゃったから……。
滝登りしてくれる侵入者はいなかった。というか多分、催涙剤の影響を受けつつシュウ酸カルシウム結晶のかゆさも受けつつ防御壁を展開しながらファンタジー滝登りできる人、っていうのが、流石にいなかった。いや、居たら困る。怖すぎるだろそんなん居たらバケモンだよぉ……。
ということでここで20人程度は見事に討ち取ったり。彼らも意識が落ちたところで回収してパンイチにして出荷よー。
続いて、落とし穴にも落ちなかった60人程度。こいつらが次に突っ込むことになったのは……迷路である。
迷路。そう。迷路。只々、迷路なだけ。
……彼らには、とりあえず疲弊してもらおうかな、ということである。その間に20人の処理してたからね。俺は1人しかいないので、こういう風に敵を分断しちゃった時は、片方には『ちょっと待っててねー』ってやるしかないのである。
が、これはぼちぼち有効であったっぽい。何せ、迷路にはところどころ、シュウ酸カルシウムが落ちてくる通路とか、特に意味も無く通路が温泉に沈んでいる個所とか、槍が一定間隔で出たり引っ込んだりしてる箇所とかあったからね。
あ、この槍が一定間隔で出たり引っ込んだりしてるところは実は蒸気機関なのである。ダンジョンパワーでお湯沸かして、その蒸気でタービン回して、その回転を伝えて槍が出たり引っ込んだりするようにした。作るのちょっと楽しかった!
今までファンタジーなもんばっかり作ってたからね!こういう、スチームパンクなものを作ると楽しくなってきちゃうのである!……ところで、魔法で色々やってるのは、マジックパンク、とでも言えばいいんだろうか。だとしたら略称はマジパン?マジパンか?マジパンでいいのか?マジで?
まあ、マジパンはさておき、俺が作るの楽しくてもね、そこを通る側からしてみると単に怖いだけの通路だからね。頑張って、『どうやってこのめっちゃすごいスピードで出たり引っ込んだりしまくっている槍を止めるか』みたいなかんじに会議してて、俺はちょっと申し訳なくなっちまったぜ……。
結局、彼らの中のファンタジー力高めな人が、槍ごと床を全部凍り付かせて槍を止めて渡ることにしたらしい。ファンタジーってマジでずるいな。なんでもありかよ。
……で、そんなんしてたら、せっかく作った蒸気機関が壊れちゃった。タービンの回転を伝える部分のジョイントがバキン!といっちゃったんだよね……。
まあしょうがねえな、ってことで、ダンジョン湯沸かし器は別の方で使うことにして……さて。そろそろこっちも対処しなきゃね、ということで、槍ごと凍り付いた床を進んでいく彼らにプレゼントだ。
……液体窒素!既に床が凍ってて通路がひんやりしてるから、いきなり更に冷えても気づかないでしょう!
でもこいつら、気化したら窒素だからよろしくな!
……ということで、60人ちょい居た侵入者達が、55人くらいになった。
逆に言うと、液体窒素ぶち込んだのに、それくらいしか減らなかった!やっぱりこいつらバケモンだよぉ!
「アスマ様、調子はどう?」
「まだ半分やれてない!やった奴らは出荷した!」
ミシシアさんが心配してくれるんだが、俺はひたすら頑張って、『火炎放射器はまずいか?』とか『ガソリンを地下空間で使うの怖いしなあ……』とか考えつつ、ああでもない、こうでもない、とやっているところである。
「そ、そっか……。頑張ってね、アスマ様!」
「うん!がんばる!」
返事をしつつ、俺は侵入者55名に向けて次の手を打つべく考えて……。
……ふと、思いついてしまった。
『敵兵に与えるものは、致命傷よりも重軽傷ぐらいの方がよい。何故かというと、兵が1人死んだら1人分兵力が減るだけだが、兵が1人負傷したらそれを助けるために1人くらいは戦線離脱しなければならないので、2人分の兵力を削れる』。
その法則で行くと……うん。
「ところで、出荷した奴を出したら奴らはどういう反応をするだろうか」
出荷したけれど回収よー。自主回収につき送料はこちら負担で。キャスター付きの檻に入れたやつらを、ぞろぞろぞろ……と運んでいく。
そして。
「温泉に浸けておこう……」
「えっ!?アスマ様、またなんか変なことしてる!?」
「うん」
……出荷した奴らの数名を、温泉に浸けておくことにした。
そして、その温泉上空には、しっかり檻を吊るしておくことにした。
壁にもしっかりトラップを設置。エアーを通せるパイプも準備。
更に、その温泉……スライムを忍ばせておくことにした!
で、そのスライムには身体能力向上ポーションを与えてある。




