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ちび神様の楽園ダンジョン  作者: もちもち物質
第三章:ダンジョンは世界を飛び越えた!
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ダンジョンからは逃げられない*4

 ……ということで、聖女サティは冒険者達に『じゃあそこのちっちゃい子はこっちで一緒に遊ぼうぜぇえええ!』『何して遊ぶ?村人ごっこする?』『おかしあるよ!おいしいよ!』『ナイフもあるぜ!舐めるか!?最近は納豆ってのを塗ってるぜ!』……と、楽しく連れていかれた。大丈夫だろうか。俺はとても心配になってきたぜ!

 エデレさんは他の村人や冒険者達への連絡を行ってくれて、そしてミシシアさんとリーザスさんと俺は……ダンジョン内部へ進んでいく。

「アスマ様!今回の作戦はどんなかんじ?」

「まあ、今までの集大成ってかんじ!」

「集大成、か。少し楽しみだな」

 俺の仮の住まいからクローゼットの中を通って、世界樹が生えているダンジョン最深部へ。

 世界樹に『やあ』と挨拶すると、世界樹は前に見た時よりもまた一回り大きくなった姿で俺達を出迎えてくれた。

 ……さて。

 俺は、世界樹の脇にある俺の家(一番最初に作ったやつだなあ!)をちょっと改装して、ここを臨時の会議室とする。テーブルといいかんじの椅子を出して、全員着席して……と。

「じゃあ早速、トラップを考えていこうか!」




 作戦会議には地図が必要である。なんとなくそういうもんである。

 ということで、座り心地のいいふかふか椅子の上に座った俺は、いいかんじの円卓の上にダンジョン地図を出した。

 ……まあ、地図にするのに不向きなかんじではある。何せ、明確にフロア分けできないような構造してるからね、うちのダンジョン。それがうちの売りでもあるし……。

 なので、地図はセクションごとのもの、ということになる。『セクションAとBがこういう風に繋がっている』っていう図になるかな。まあ、こういうのだけでもあるだけでそこそこ分かりやすいし、作戦も立てやすいというものである。

「ああ……今回の侵入者は、まずはダンジョン入り口付近の通路に繋がる部分へ通されるのか。迷路を挟むが」

「そういうことになるね。まあ、その道中にちょっとばかり罠を仕掛けておくけど、ここは小手調べかな。迷路を抜けて、簡単な罠を避ける、ってだけだ。『ああ、精々こんなもんか』ってなめてかかってもらうための通路でもある、ってことで」

 まず、今回の侵入者達のために新設した通路だが……まあ、本来のダンジョン入り口と同じ高さにしてある。で、ぐるっと一周、城壁の内側に沿うように通路があるようにしておいて、『ああ、自分達が通路を掘り抜いたのは仕組まれたことではなく必然だったか』と思ってもらえるように一工夫。

 安心してもらったところで、続く迷路に挑んで頂く。普通に迷路なので、普通にめんどくさいと思う。まあ、これは時間稼ぎ用である。今現在、侵入者はここの迷路で引っかかってるところ。頑張って引っかかっていてくれたまえ。

 ここでは体力と気力を消耗してくれればそれでいいし、『噂通り、パニス村は簡単な罠と複雑な迷路によって構成されるダンジョンであるらしい』と誤認して貰えればとてもいい。

 まあ、そこのところは相手に期待!


「あっ。アスマ様、その先の道はまた変えたんだね!」

「そりゃあね」

 続いて、本来のダンジョン入り口付近にまで到着して貰ったら、そこからは平常通りの運行でいく。要は、『よく道が変わるダンジョン』だ。

「で、小さな部屋があるけれど……これは?」

「うん。それはね、酸素トラップです」

 ……うん。

 まあ、うちのダンジョン名物、『無色透明な気体で満たされた部屋』も出すよ。当然、出すよ!

「さんそ……?」

「うん。えーとね、今までこういう時に使ってたのは、二酸化炭素なんだけど……多分、それは対策されてると思うんだよね。侵入者の様子を見る限り」

 今回、二酸化炭素や窒素を使わないのは、非常に簡単な理由。『対策されているから』だ。

 多分、前に聖騎士達が来た時の情報がいくらか漏れてるんじゃねえかな。まあ、聖騎士から漏れてなかったとしても、あれ以来、二酸化炭素トラップはそこそこ使ってるし、どこから話が漏れててもおかしくはないんだよね。

「火を灯したランプを差し入れて、ランプの火が消えたら退避。そういう風に動いてるっぽいんだ」

 そうして今、侵入して来ている連中……多分、教会と大聖堂の関係者なんだろうなあ、という奴らは、灯したランプの光を掲げつつ進んでくるのだ。

 まあ……冒険者達も、早々に気づいたからね。『火が消えたらすぐ退避しないと意識を奪われる』ってことには。

 ……その直後に俺が酸素とポーションぶち込んで、更にクソデカスライムが救助してるから奪われるのが意識だけで済んでるんだけどね。これ、そのまま普通にほっといたら普通に命が奪われるんだけどね!

「更に、何か装備を更新してるっぽい。あとね、多分、対抗する魔法も用意してるんじゃねえかな、と思われる」

 そして、侵入者はなんかこう……魔法の杖みたいなのを持っていたり、新しい装備を身に纏っていたりするので、まあ、毒ガス対策してあるんだろうな、という印象である。何せここ、ファンタジー世界だからね。ファンタジーな対ガス装備とかあっても不思議じゃねえんだよな……。

「えっ、じゃあ、さんそ?でいっぱいの部屋を作っておいても意味が無いんじゃない?もう対策されてるんだよね?」

「あ、えーとね……対策されてるのは、二酸化炭素。で、今回いっぱいにしてるのは、酸素」

 ミシシアさんの疑問にお答えすると、ミシシアさんはやっぱり首を傾げている。うん、まあ、そうか。ええとね……。

「酸素はね……めっちゃ燃えるんだわ」

「……どういうこと?」

「こういうこと」

 ……ということで、俺は酸素100%の瓶を再構築で生み出し、その入り口に火を灯した蝋燭を近づけてみた。

 その瞬間、蝋燭バーニングファイア。

「……どういうこと!?」

「いや、だから、酸素がいっぱいあるとめっちゃ燃えちゃうんだよね、っていうだけなんだけどね……」

 ミシシアさんにはイマイチ分かりにくかったらしいのだが、酸素ってこういうものなのだ。俺達が酸素をありがたがっていられるのは、酸素の濃度が空気中でそんなに高くないからなのだ。酸素はある程度、濃度が低くされてないと激ヤバ物質なのだ……。


「まあ、そういう訳で、連中が頼りにしているランプの火が、連中の想定していない挙動をするわけだ。そこを一気に突く」

 さて、ここまでは序の口だ。奴らは『ランプの火がめっちゃバーニングファイア』ってなったら、真っ先にガソリン着火の様子を思い出すだろう。奴らはパニス村に魔物を嗾けてるんだから、さっきまで堀が燃え盛ってた様子を見ていたはず。なら、そっちを警戒するだろう。

 ついでに、間違いなくそこでパニックが起こる。制御できないパニックが、隊列を崩しにかかるだろう。となると……そこが、俺のチャンス!

「魔物を送り込むのか?それとも、俺とミシシアさんの出番か?」

 リーザスさんが実に勇ましいことを言ってくれるのだが……ええと、俺、チャンスでも、流石にちょっと慎重にいきたいタイプでしてぇ……。

「いや……圧縮空気で吹き矢を飛ばそうと思っててぇ……」

 ……まあ、絵面は地味なことになると思うよ。壁から『シュッ!』ってなんか飛んでって侵入者に刺さる、ってだけだからね……。


「吹き矢……?吹き矢でいいの?毒矢にするっていうこと?」

 まあ、パニス村ダンジョンでは既に、毒矢は運用されている。この村、薬草の類と一緒に毒草の類も生えてたからな。そこら辺を使って生まれた毒は、ダンジョンのあちこちで元々大活躍してた、って訳だ。だからこそ、ダンジョン前受付売店で毒消しがめっちゃ売れてたわけだし。

「毒矢は多分、対策されてると思うんだよね。多分、『毒』自体を対策されてると思う」

 そういう実績がある安心と信頼の毒なので、多分、対策されてると思うんだよな。教会とか大聖堂とかって、そういうのの回復、多分得意だろうし。対策だって、できちゃうんだろうし。

 ということで。

「だから、違う奴にしようと思って……」

 俺は、考えたんだ。

『毒』というイメージからちょっと外れるかんじの……奴らの対策から微妙に外れてくれるかんじの……そういうものを!

 つまり!

「納豆を、塗り付けてあります……!」

「……納豆って何!?」

「発酵させた、おいしい豆……!」

「おいしいの!?」

 ……俺は、毒矢ならぬ納豆矢を生み出すことにしたのであった!


 告白します。

 俺は、枯草菌をパニス村産ツル豆に付着させて、納豆を作りました!

 だってぇ!食べたかったんだもん!食べたかったんだもん!日本人だもん!納豆と味噌汁、食べたくなっちゃったんだもん!

 そしたら、まあ、できちゃったからさ、納豆……。だったら、使わないわけにはいかないじゃん、納豆……。

「な、なんで発酵させたおいしい豆を矢尻に……!?」

「えーとね……こいつは切り傷に付着すると、血が止まらなくなるというやべえ奴なんです」

「アスマ様はそんなものを食べるのか!?」

「はい」

 ……納豆の血液サラサラ効果は、ナットウキナーゼによるものとされている。そしてナットウキナーゼというものは、血液の凝固を妨げる効果があるので……えーと、つまり、傷口に納豆を塗り込むと、血が止まらなくなります。

 ちなみに、ナットウキナーゼが血液サラサラ効果を齎すと言われてはいるが、ナットウキナーゼって分子でけえから腸壁を通過できるわけがなくて、そんな奴がなんで血液に作用してるのかは分かっていない。マジで謎。納豆って、マジでミステリー。




「……と、とりあえず、火で驚かせた直後に納豆矢?とやらをぶつけるんだな……?」

「うん。とりあえず、そこまでで相手の戦力をぼちぼち削ると同時に、相手の戦力と対策がどんなもんかを確認したい」

「え?これ、小手調べなの?」

「うん」

 さて。とりあえず酸素部屋と納豆矢を揃えたところで、俺は俺の見通しをミシシアさんとリーザスさんに伝えておくことにする。

「多分、全滅はしてくれないと思うんだ。物理的な攻撃の対策にはあんまり重きを置いていないように見えるから、吹き矢は刺さってくれると思うんだけど……それでも、隊列の最前列ぐらいまでしか刺さらないだろうしなあ……。これで致命傷を与えよう、ってことは考えてないよ」

 これで全滅してくれりゃいいんだけど、多分、そういうことにはならないと思うんだよね。

 というかね、俺達の予想を遥かに上回るようなことをやってくれちまうと思うんだわ。で、それってファンタジーパワー由来なわけで、それ故に、俺には予測がつかない部分がかなり多い。

 だからこそ、ここで小手調べだ。酸素部屋と納豆矢で、相手がどのくらい、どういう動き方をできるのか調べたい。

「ここで調べた情報を元にして、出たとこ勝負だ。相手が来てから、他のトラップを整えていくことになると思う」

 ……ちょっと緊張するけどね。大丈夫なのか、とか、それで間に合うのか、とか、色々思うことはあるけど。でもそれが最適解だと思うんだよな。下手に最初から正解を作って用意して待ってたら、咄嗟に対応できない気がするんで……。

 いや、勿論、いくつかはトラップ、用意してあるんだけどさ……。いつもの気体弄る系は使い回していくし、納豆吹き矢もあちこちで使ってみたいし、あと、この間パニス村の新商品開発してた時にできちゃった副産物も……。


 ……と、俺が深刻な顔をしていたところ。

「……ちょっと待ってくれ、アスマ様。その、隊列の最前列、というと……そもそも、相手は何人くらいなんだ?」

 リーザスさんが、そんなことを聞いてきて……そこで俺はようやく、『あっ!そういえば、ダンジョンの視界って俺だけのものだ!この2人はまだ、今回の侵入者を見てないんだった!』と気づいたのだった!




 ということで。

「えーとね。ざっと見たかんじ、100人くらい……?」

「え……?」

 ……伝えてみたところ、やっぱり、2人とも唖然としてしまった。

 うん。穴掘ってやってきた連中。総勢、100人程度なんだよね。

 よく集めてきたよなー。まあ、全員袋のネズミではあるんだけどね。

 ……あるんだけど……その100人がどう暴れるか分かんねえから、結構怖いんだよなあ!うわあああああ!でも頑張るしかねえ!うおおわああああああ!


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― 新着の感想 ―
開き直った時と、とっ散らかってる時のアスマ様ほんと好き
納豆がファンタジー食材として扱われがちだけど…大豆は好きだよ。日本人だもん。枝豆醤油味噌きな粉。日本人といえば大豆と小豆。ちっさい豆スライムもいるのかしら?
納豆をナイフにどうやって塗るんだ
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