ダンジョンからは逃げられない*2
……スーパークソデカスライムが、亀裂の中へ、もよん、むるん、と潜り込んでいく。なんか不思議な眺めである。
家サイズのスライムが小さな亀裂から潜り込んでいくこの奇妙な光景を、皆で眺めた。……なんか、ちょっと微妙な気分になりつつ、眺めた。
いや、だってなんかこう……緊張感が、あんまり無いもんだから……。
スーパークソデカスライム達には、オウラ様と聖女サティの救出を頼んだ。そして彼らは一度、最奥まで行っているスライムなので、多分、道順は大丈夫。
後は……侵入者の攻略が捗っていなければ、まだ、間に合うと思うんだが……。
……そうして祈ること、数分。
「うおわっなんだこれ」
ぴょこ。
俺の足元に、急に、金でできたとんがりコーンみたいなのが生えてきた。
……なんだこれ。
黄金のとんがりコーンに慄いていると……やがて、ダンジョン入り口のあたりの地面が揺れ始める。
なんだなんだ、と皆がそちらに注目していると……。
「うわあああああああ!スーパークソデカスライム!スーパークソデカスライムじゃないか!」
なんと!スーパークソデカスライム達が、もっちもっちもっち!と勇ましくダンジョンから出てきたのである!
障壁はパリーン!と破られ!そして、スーパークソデカスライムの中には、聖女サティや侵入者と思しき人間どもがそれぞれに抱き込まれている!
……ということは、この黄金のとんがりコーンは、オウラ様の生存報告か!
つまり!見事な完全勝利!完全勝利である!
ぺいっ、と吐き出された侵入者を囲みつつ、俺達はしばし、スーパークソデカスライム達を取り囲んで勝利を喜んだ。俺も勝利の舞。ミシシアさんはエルフ風味の勝利の舞。リーザスさんは遠慮がちの舞!
「アスマ様!アスマ様!」
「聖女サティ!よくぞご無事で!」
そして、聖女サティはスーパークソデカスライムの横から、うにょん、と出てきて、もよ……とそっと着地させてもらっていた。よかったなあ。ということで、聖女サティも含めて勝利の舞。
「これは……実に素晴らしいな。聖女サティも救助でき、かつ、侵入者を捕らえることができたとは……」
これにはラペレシアナ様もお喜びであった。この言葉に、スーパークソデカスライム達は、もっちり、と胸を張る。いや、どこが胸かは分からんが。多分、誇らしげではあると思うよ。このかんじを見ると。
「こやつらは聖女サティ誘拐の容疑で捕らえる。……それ以外のことについては、まあ、確かなことが分かるまでは何とも言えんな」
ラペレシアナ様は暗に『全部吐くまで楽にはしてやらんぞ』と語りつつ、騎士達に命じて侵入者達をどこかへ運ばせていた。あれはね、多分、牢および地獄に運ばせてたんだと思うぜ!
「アスマ様。此度の助力、心より感謝する」
さて。そうして俺達が喜んでいると、ラペレシアナ様が俺に対して、深く礼をしていた。うわわわわ。
「うおわあああああ!王女殿下ともあろうお方がそんな!」
これはいけません!これはいけませんよ!ということで俺が慌てていると、ラペレシアナ様は苦笑しつつ、俺を……俺を撫で始めた!なんで!?なんで撫でるの!?俺が小学生ボディだから!?そういうこと!?
「ふふふ、真に不思議な御仁にあらせられる」
ラペレシアナ様はそう言ってまた笑って……それから、懐から小さな金の板を取り出した。
「こちらが、オウラ様から届けられた文と思しきものだ。私の目の前で、例のスライムが吐き出していった」
「ワァオー」
どれどれ、と確認してみると……金の板には、『こちらは無事です。スライムの侵入を感じ取ったので、最深部へ突入される前にスライムと挟み撃ちにして侵入者全員を撃退しました。詳しくはまた後程』と刻まれていた。
成程ね。どうやら俺のスライムは役に立てたらしい。よかったよかった。
「さて……アスマ様。これからパニス村へお戻りになるのならば、聖女サティを連れてゆかれるとよい」
「聖女サティを!?」
いや、聖女サティ、今さっき救出されたばっかりだと思うんだけども!そんな子を無理に連れてこなくてもいいよぉ!という気持ちで居たところ……案外元気そうな聖女サティが、む!と胸を張った。
「あ、こ、こんにちは……え、あの、聖女サティ、大丈夫ですか……?」
元気でやる気に満ち溢れた聖女サティを目の前にして、俺としてはかなり心配である。さっきまで攫われてた子だしさあ!俺、どうしたらいいの!?ねえ、どうしたらいいの!?
「大丈夫です!私もおともします!」
「おともするのぉ!?」
しかもお供してくれるんですか!なんで!?なんで!?
……と、俺が混乱していたところ。
「パニス村の防御壁が敵に襲われていたとしたら、聖女サティの力が役立つであろう」
そう、ラペレシアナ様が解説してくれた。……んだけど、えーと、それはいいのか?そんな聖女様を、俺達が預かっちゃって大丈夫なのか?
「いいんですか?聖女サティの力は、こっちでも役立つんじゃ……」
「ああ。ひとまず、王都の警備はこちらで手が足りる。オウラ様も無事となれば、ま、問題は無かろう。……となれば、問題はパニス村だ。そちらを優先してほしい」
……どうやら、聖女サティの『お供』は、パニス村への防衛力の供与、ってことになるらしい。まあ、確かにあの障壁の力があるんだったらありがてえことこの上ナッシングなんだけども。
「車も是非、こちらのものを使ってほしい」
「いいんですか!?」
それから、『馬上槍を車自体に付けてしまえ』の発想で作られた例の物騒な戦車も供与して頂けることになっちまった。マジかよぉ!
「その代わりと言っては何だが……パニス村を、どうか頼む。私はあの村を気に入っておるのだ」
でもまあ、そういうことなら……そういうことなら、ありがたく使わせていただこう。
「はい。こっちの侵入者は、間違いなくぶっ潰してやりますよ!」
パニス村は、確実に俺が守る!
俺のダンジョン力を見くびってもらっちゃ困るぜ!
……ということで。
「振動がやべえ車の中にはクソデカスライムを詰めておくことによって、ハイスピードでの移動が苦にならなくなる。素晴らしいライフハックだね」
「……アスマ様。いいのか?この速度で走っていて」
「俺達にはミシシアさんを止める手段がありません。ただ祈りましょう」
「……そうだなあ」
俺達は、とんでもねえことになっている車の中、悟りを開いています。
聖女サティは、流石に疲れているのかお昼寝中。俺とリーザスさんも、心穏やかに悟り中。
だってね。そりゃあね。この車、ミシシアさんが容赦のない運転をしているところだからね!
「アスマ様!リーザスさん!もうすぐラークの町を通過するよー!」
「あ、うん。ラークの町を馬上槍試合に巻き込まないようにだけお願いします」
……ミシシアさん、めっちゃかっ飛ばしているので、景色がとんでもねえ勢いで流れていく。既に轢殺した魔物は数知れず。ミシシアさん、『いざ勝負!』みたいなかんじで、ガンガン突っ込んでくからなあ……。
まあ、そういうやべえ車の中の、がががががが、という揺れを、もよもよぷるぷる……というゆったりした揺れに変換してくれるのがクソデカスライム。素晴らしきかなスライム。お前のおかげで俺達は生きています。じゃないと車内のあちこちにぶつかって、下手すりゃ死んでるんだよなあ。
「……パニス村、大丈夫かなあ」
無論、急ぐミシシアさんの気持ちも分かる。俺だって同じような気持ちだ。
今、この瞬間にもパニス村が狙われている可能性が高い。それも、今までになかったような手段で。
「なぁに大丈夫さミシシアさん」
だが、俺は心配と同時に……『大丈夫だろ』という確信のようなものを持っている。
「だってあれだけ強い城壁を持ってるんだ。堀もあるから、単純に壁を壊せばいいってもんでもない。バリスタとか投石の準備もあるし、ガソリンの予備タンクもおいてきたし」
一応、俺達が不在の間に何かあるといけないので、ガソリン注入用のタンクを用意してある。コック捻ったら堀にガソリン注入されるやつ。アレがあるだけでもかなり有利だと思うし、まあ、アレがなくても地の利は十分にあると思うし……。
「それに何より、あれだけイカれた連中が揃ってるんだぜ……?」
「……そうだった!」
……何より、パニス村は冒険者の集う村だ。
ダンジョンを中心にして村ができて、ダンジョン目当てに人が集まって……そうして、雇ったわけでも、募ったわけでもなく、独自の武力を有することになってしまったのだ。そんな場所が、そうそう落ちるわけがない!
だってあいつらも!なんかすごいファンタジー力持ってるんだろうから!
そうして俺達はミシシアさんがカッ飛ばす車の中、スライムに包まれて『もよよよ……』と揺れつつ、パニス村への道を急いだ。
大丈夫だろう、と思いつつも、不安も無い訳じゃない。俺達は緊張と共に、道なき道を行き、魔物を轢殺し、木を圧し折りながら突き進んで……。
パニス村の姿が見えた時、俺達は唖然とした。
パニス村の周辺には魔物が集まっていて、今や、堀が魔物の死体で埋まるような有様で……。
そして。
「ヒャッハー!魔物は燃やすぜェエ!」
「燃やすぜ!燃やすぜ!全部燃やすぜ!」
「ようこそ!ここはパニス村だよ!」
「魔物は燃えてね!すぐでいいよ!」
……そこには!トゲ付きのチャリを乗り回しながら火炎放射器で戦う冒険者達の姿が!
こわい!




