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ちび神様の楽園ダンジョン  作者: もちもち物質
第三章:ダンジョンは世界を飛び越えた!
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ダンジョンからは逃げられない*1

 ひとまず、俺達は金鉱ダンジョンに向かった。

 何かできることがあるかは分からないが、何もしないのは性に合わない。そして何より……ここで金鉱ダンジョンを落とされたら、いよいよ、この国の終わりなんだよなあ!


 金鉱ダンジョンの入り口は、ざわめきに包まれていた。

 ……『何かあった』のが一目見て分かる様相だ。『真正面から破られました』ってのは間違いないらしい。

 ダンジョン入り口付近にあったはずの露店なんかは吹き飛んだ様子で荒れているし、人々も不安そうな表情だ。あちこちに破壊の痕跡があって、そして……肝心のダンジョンの入り口には、障壁のような、半透明な壁ができている。ありゃなんだろうな……。


「負傷者は!?」

「多数!しかし、現在はポーションによって全員回復しております!」

 ラペレシアナ様は今まで見たことが無いくらいにぴりぴりした表情だったが、『全員無事』の報せに、ほっ、と少し表情を緩めた。俺、この人のこういうところ好きだよ。

「……何者が、どのようにしてここを通った?」

「詳しいことは分かりません。しかし、金鉱ダンジョンの利用者のふりをした集団が、いきなり何らかの強大な魔法を使った、ということだけは分かっております。そして入り口は吹き飛び、同時に、この障壁が……」

「強力な魔法、か……」

 ラペレシアナ様は、はあ、と深く短くため息を吐く。

「恐らく、教会が持っていた力だろうな。全く、こんなものを隠していたとは……」

「あー……まあ、『祝福』を持っていた奴らですもんね。こういうのを持っててもおかしくなかったか……」

 教会や大聖堂の連中の仕業なら、まあ、『奥の手』があってもおかしくないんだよな……。

 いや、しかしそうなると、なんで今の今までコレをやっていなかったのか、っていうことになるんだが……えーと、これなんかあるんだろうか。




「これ、入れないのかな」

 俺達は、ダンジョン入り口を封鎖している障壁みたいなブツをつついている。

 なんかね、実体がないっぽいのに、つつくと『こつん』って感触がある。でも目に見えるのはほんわりした光だけなのである。コワイ!

「ミシシアさん。これ分かる?」

「え、うーん……なんだろ。エルフの里にもこういう魔法、無い訳じゃないんだけど……ごめんね、ちょっとわかんない」

 俺達の中で一番魔法に詳しいと思われるミシシアさんでもよく分からん状態である。というか、王城の人であろうプロ達が色々と『アレじゃないか』『こうすれば突破できるのでは』と話している以上、俺達の出る幕ではない、というか……。

 で、その中で一番強い人ことラペレシアナ様が、重々しく口を開いた。

「……聖女サティは、どこにおられる」


 ……俺達の脳裏に、嫌な考えが無限に流れていく。

 なんでここで聖女サティなんだ、とか、なんとなく今ので分かっちまう、というか。

 となると、聖女サティは今どこに居るのか、分かっちまうし。ラペレシアナ様の表情の重さも、分かっちゃうし。

 ……そして。

「聖女サティは……現在、行方が分かっておりません。少なくとも、城内には居ない様子で……」

 そう、報告があったので俺達は全員、納得した。

 成程ね!このマジカル障壁、聖女の魔法なんだ!成程!成程!

 ……あああああああああああん!




「教会と大聖堂の連中が、聖女サティを攫って金鉱ダンジョンを破って障壁作って立てこもったのか……どうすんのこれ」

 俺達は頭を抱えている。めっちゃ頭を抱えている。

「聖女サティをみすみす誘拐されるとは……!」

 特に、ラペレシアナ様が頭を抱えてるんだけど、まあ……いや、これは、しょうがないと思うよ。聖女サティについては、第三騎士団もラペレシアナ様ご自身もあちこち飛び回ってる状況で、どうやったって護衛が薄くなっちまう訳だし、敵もそれを狙ってたんだろうし……あああああん!

「殿下!悔まれるのは後程に!今は金鉱ダンジョンの救助が必要です!」

 リーザスさんが声を掛けると、ラペレシアナ様は一つ頷いて、それから一秒で立ち直った。

「聖女サティが誘拐されたというのであれば、彼女はこのダンジョンの中へと連れされられた可能性が高い。即ち、このダンジョンは今や、誰もが侵入できない状況だ」

 ラペレシアナ様は、ご自身で確認するかのようにそう口にして、そして、皆に向かって声を張り上げる。

「入り口は聖女の守りの障壁によって塞がれたようだ!ならば、この障壁以外の個所を掘り抜いて、無理矢理侵入するしかない!総員、準備せよ!」


 ……そして、人々が動き出した。

 つるはしとかスコップとか持ってきて、皆で穴を掘り始めている。本当に掘ってダンジョン内へ侵入するつもりらしい。

 俺としては、多分オウラ様が残しているであろう別の入り口……裏口とも言えるであろうそれを探すべきでは、とも思ったんだが、それをこの場で、多くの人が見て聞いている場で提案することはできないだろう。

 ダンジョンの主が人間で、王家ともかかわりがある人だと知れたら問題がある。今後の治世を大きく揺るがしかねない。それじゃあ、ダンジョンを奪い返してもあまりにも痛手である!


「アスマ様。あなたはパニス村へ!」

 悩む俺に、ラペレシアナ様はそう、声を掛けてきた。

「ここが落ちるというのならば、パニス村も同様だ!パニス村も危ない!」

 ……そりゃそうだよな。ここがやべえなら、パニス村だってやべえことになってる可能性がある。

 今この瞬間、パニス村ダンジョンが襲われている可能性がある。そっちにも、聖女サティみたいな秘密兵器を出してきた可能性がある。ついでに、ダンジョンだけじゃなくて村にも……村に暮らす皆にも、被害が出る可能性が、ある。

 だが。

 ……現状、『ダンジョン入り口に障壁があって、その障壁を消すことができる聖女サティは恐らくダンジョンの中である』っていうこの状況を打開できるとしたら、俺しか居ないんだよ。


「二兎を追う」

 だから俺は、そう決めた。




「ダンジョンよ!聞こえますか!」

 俺は、そんなに大きくない声でそう呼びかけた。……これは金鉱ダンジョンの主たるオウラ様に向けたメッセージだ。

 彼がダンジョン内に視覚や聴覚を動かせるのであれば、きっと、俺の言葉に気付けるはず。

「オウラ様、もし聞こえていたら、何か合図をお願いします!」

 ……が、合図みたいなものは特にない。となると、オウラ様は今、侵入者の方で手一杯ってことかな。

 俺達が入り口付近に居ることは分かってるだろうけど、流石に向こうで手一杯となると……うーん。

「ミシシアさん!リーザスさん!今から俺が言うことを紙に書いて!で、それいっぱい作って!」

「え!?わ、わかった!いっぱい書くね!」

 ミシシアさんとリーザスさんを引っ張ってきて、鞄からノート(お客様の声ノートの予備だよ!)を出して、ページを一気に破いて、分配。

 で……俺は、瞬時に考える。

 オウラ様にも使える、圧倒的な武力を。


 ファンタジーにファンタジーで真っ向から対抗したって、どうせこっちの方が弱いんだろ?敵はここの入り口をぶっ飛ばして侵入したらしいし、その後に張られたらしい障壁は未だに破れない訳だし。

 相手のファンタジー力は相当に高いはず。相手はこれを、最後の手段として用いてきたんだろうな。だから、そこに真っ向からぶつかりに行っても効率が悪すぎる。

 ならば俺がオウラ様に伝授すべきは……ファンタジーを根底からひっくり返すような技術。

 即ち、科学の力なのである。




 そして、オウラ様がこの状況で実行できる科学なんてものはそう多くない。

 オウラ様は俺みたいに、『じゃあこの元素とこの元素くっつけてこの分子つくろっと』みたいなことはできないらしいからな。

 だから、今のオウラ様にもできるようなものを考えなければならない。

 特殊な知識も技術も必要なく、再現性が高く……ダンジョンパワーを最大限、有効活用するもの。

 それ即ち!


「えーとね、『広い密室でとにかく火を焚いて炭を燃やしてください。火が自然に消えても、魔法で火を灯し続けてください。そしてそこに侵入者を呼び込んでください。尚、聖女サティが居たら一秒とおかずにスライムで包んでください。』……ってかんじでお願い!」

 一酸化炭素だ!一酸化炭素を作ってもらうしかねえ!




 ということで、手紙の量産はミシシアさんとリーザスさん、そしてその場に居た他の人達に任せて、俺はひたすら、ぶつぶつぶつぶつ呟き続ける。

「火が消えるまで火を焚き続けた部屋の空気では人間は生きていけない……。炭を燃やすと一酸化炭素が生まれる……。一酸化炭素は人間に有毒……。スライムには関係がない……」

 ……オウラ様が俺の呟きを聞いてくれるかもしれないから、俺はひたすら、呟き続ける。呟いて呟いて、オウラ様が気づけるまでずっと続けるのである。

 これで、このダンジョンが助かればいい。パニス村は、ある程度防衛力があるから、同時に攻められていても多少は持ち堪えられる、と思う。……多分。多分ね。少なくとも、聖女サティがこっちに運用されたんだったら、パニス村の方でも同じことが起きてるとは思い難い。なら、城壁をやられる可能性は薄い……。

 ……二兎を追いたい。

 金鉱ダンジョンも俺のダンジョンも、失う訳にはいかないのだ。どっちかしか助けられないなんてのはごめんだし、『一兎をも得ず』ってのは勘弁願いたいところだ。

 だから……オウラ様がなんとか、このダンジョンを防衛しきってくれることを祈るしかない。

 ……そして、その可能性を少しでも上げるために、俺はできる限りのことをしたい。




「穴が開いたぞ!」

「マジですか!」

 いよいよ、ラペレシアナ様達のツルハシが、ダンジョンの内部に繋がる亀裂を入れた。なんか、ありえんぐらいの深さが掘り抜かれていた。やっぱりファンタジーの人達ってこわい。

 まあいいや。ここが開いたのならば……。

「じゃあ行ってこい!スーパークソデカスライム達よ!」

 ……スライム試験農場で育てていた、例のスーパークソデカスライム。

 奴らを、ダンジョン内部へ送り込む!いってらっさい!よろしくな!


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― 新着の感想 ―
ラオウ様ー!じゃなくてオウラ様ー!! オウラ様と聖女ちゃんの無事を祈るばかり。 心配すぎてスライムをもちもちするしかできません。
漁夫の利いっちゃいましょう!人間は空気無いと生きていけませんからね。もう全員をスライムで包んでしまえばいいのじゃないか…?
スライムなので武器が効かず、魔力が多すぎて魔法も効かず、通路や部屋にみっちり詰まるので逃げ場なし。敵にまわすと悪夢のような存在ですねスーパークソデカスライムw それでは次回の更新も楽しみにお待ちしてお…
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