チェーン展開*4
「ということで、このダンジョンにも小規模パニス村化してもらう!つまり温泉のチェーン展開!」
「チェーン展開……?」
そう。俺はいよいよダンジョンコンサルという名にふさわしいコンサルっぷりを発揮することになるぜ。
「まず、道は舗装してもらった方がいいな。あと、ダンジョン自体と温泉施設は分けてもらって……と。ああうん、こういうかんじこういうかんじ」
俺はカラス君に図解しつつ、早速このダンジョンを修正してもらう。
……それはすなわち、温泉部分の拡充と整備である。
現状でも既に、ここは『秘湯』ってかんじではある。特に、カラス君はラベンダーがお気に入りらしいからな。ラベンダーの茂みに薄紫の花が咲き乱れ、そして爽やかかつ甘やかな香りでいっぱいの、なんともハーバルかつフローラルな秘湯に仕上がっているのだ!
……が、それだけではあくまでも、『天然の温泉』である。
ここはひとつ……ウェルカム感が!欲しい!
「まずは無人販売所だな!これはもう、最悪盗まれちゃってもいいさ、ってかんじのブツを出そう!えーとね、こういうの、どう?あ、それもいいね。うん……カラス君、ほんとにラベンダー気に入ったのね……」
まずはお土産の無人販売所。これがあるだけで、『ああ、人が来ることを想定しているダンジョンなんだね』ってわかるのだ。
カラスくんはラベンダーの小さなブーケをいくつか作って、石の机に並べ始めた。嘴でブーケを咥えてちょこちょこ運ぶ様子がなんともかわいらしいね。
俺もそれをお手伝い。カラス君が作ったと思しき小さい器を拾ってきて、それもブーケの隣に置く。そして、『1束につき銅貨1枚。お金はここに入れてね!』という札を作った。これで如何にも田舎によくありそうな無人販売所の完成である。
「それから、脱衣所!これがあるのと無いのとで大違い!あとトイレも整備しておいた方がいい!コレ無いと色々ヤバいから!」
続いて、建物の整備だ。カラス君はパニス村の記憶を思い出してくれたのか、なんかパニス村ちっくな建物を3つ出してくれた。1つは男性用。もう1つは女性用。そしてラストがトイレである!トイレもパニス村で見せておいてよかった!ちゃんとトイレっぽいトイレができてる!
いやあ、カラス君は賢いなあ!……ウパルパにはできないかもしれない所業である!
ということで、なんか、概ねそれっぽく、最低限の『無人温泉。ご自由にどうぞ』ができあがった。これでヨシ。
「……で、ええと、どうやって魔力を分けてもらうの?」
が、まあ、ミシシアさんの疑問は尤もである。
そうね。ここに人が来るようになったとしても、魔力をどう、俺のダンジョンに持ってくるのか、ってことだけど……そこは俺に考えがあるのだ。
「ここに来た人に、本を作ってもらう」
「えっ、本を……?」
「うん。こういうものがあってさ……」
俺は、カラス君に『こういうの出して』と図解して見せて、『かー』との返事を貰い、ついでにそのブツも出してもらった。
「『お客様の声』ノートだぜ!」
……そう!
なんかこう、飲食店とか観光地とかによくある、『お客様の声を聞かせてください!』のノートだ!
小さな机と普通のノート。それから鉛筆。ノートと鉛筆は机に紐で繋いであるので、持って行かれたり無くなったりはしないと思う。
「で、ここに『いいお湯でした!また利用したいです!』と書き込んでおく……。さ、ミシシアさんもなんかどうぞ」
「温泉の感想を書けばいいの?じゃあ……えーと、『いい香りでした。お土産の花束もかわいいです!』と……これでいい?」
「バッチリだぜ!じゃあリーザスさんもどうぞ」
「ああ……えーと、『こんなところに温泉ができて、驚いています』と……あー、こんなもんでもいいのか?」
「うん!いいと思う!」
さて。
こうして、『お客様の声ノート』が出来上がった。最初の書き込みがいくつかあれば、後は『ご自由に書き込んでください』と表紙に書いておくだけでOK。皆さん後は勝手にやってくれ!
「これを他のダンジョンにも置いておけば、まあ……いくらかは魔力の足しになる、と思う!」
「そ、そっか!そうだね!」
「あまり効率的ではないのでは……?」
まあ、効率的ではない。それはそう。だが、これにはもう1つ、大きな目的があってだな……。
「まあ、こういうのを用意しておけば、人が集まるようになるでしょ。で、人が集まるようになったら、もっと人が集まるようになるでしょ。そうすると、人の移動が多くなるから相乗効果が狙える。あと、温泉目当ての冒険者が増えたら、このダンジョンの警備にもなってくれるわけだ」
「そ、そっか!パニス村みたいに、冒険者達が守ってくれるようになるかも!」
そう。そういうことなのである!まあね、ノートはおまけみたいなもんで、結局のところは、人が少ないと治安が悪くなりがち、っていうのの打開策!
結局のところ、今後もウパルパダンジョンをはじめとした、彼らのダンジョンには危険が付きまとうだろうしな……。ダンジョンが『こういうもんだ』ってことで多くの人に知られて受け入れられて、そして温かい監視の目を向けてもらえるんだったら、それに越したことは無いってことだ。
「……後は、もっと分かりやすいものがあってな……」
で。
勿論、俺の策はこんなもんじゃないんだぜ!
「育った植物!これの種を定期的に貰っていくぜ!」
……植物の種は、そこそこ情報量が多い。その上、小さくて持ち運びにも便利。
ということで、今後、俺はそれぞれのダンジョンで育った種を貰うことにするぜ!よろしくな!
……これ、ブラックコンサルかなあ。みかじめ料を要求するヤクザみたいなことになってるかなあ。俺、俺……なんか、よくないことをしている気がしてきたんだけど……うおおん。
まあ割り切るしかないね、ということで、俺達は一回パニス村に戻って色々準備してから他のダンジョンも巡って、『お客様の声ノート』を設置したり、無人販売所を用意したりして、それっぽく整えることにした。
これには冒険者達もちょっと手伝ってくれて、無人販売所のための小さな小屋を作る作業とか、そういうのは彼らも大いに手伝ってくれて大変助かりました。やっぱりね、俺、木材と釘で建物を建てる、みたいな技能は無いからね……。
そうして各ダンジョンの整備が終わったところで、それぞれのダンジョンの主であるウパルパだのペンギンだのに声を掛けて、『ということで、これからは定期的に植物の種を貰いに来るからな!』と話して聞かせた。いや、聞いてたかは分からん。マジで分からん。相変わらず、うぱっ、とした顔してたし……。
……が、冒険者達に、こうしたダンジョンの紹介をすることができたのは良かったと思う。
彼らには、『こうしておくことによって周辺ダンジョンに人が寄りつくようにして、第二王子派や教会、大聖堂の連中が動きにくくするのだ』という説明をしてある。まあ、それだけ言っても別に嘘ではない。
それに、そう説明された冒険者達が『ならこういうダンジョンは俺達が守るぜ!守るぜ!守るぜ!』『そうか守るのか』『守るなら守らねば』と大変協力的な返事をしてくれたので、俺としてはありがたい限り。
彼らは早速、新たな温泉に浸かって『これが無料なのはいいねえ』『ダンジョンで魔物狩りをした後にここでひとっ風呂浴びられるってのは最高じゃねえか!』と大層喜んでいた。
……それを見ていたダンジョンの主達は、それぞれ、うぱうぱるぱるぱだったり、ぺんぺんだったり、にゃーだったり、『アザラシッ!』だったり色々だが、まあ、とにかく喜んでいる様子であった。まあ、人が来ると魔力も増えるしな。
それに何より……こいつら全員、パニス村で冒険者達が温泉を喜ぶ様子を見て知ってるもんな。だからまあ、気持ちはわかるよ。人が温泉に入りに来てくれるって、嬉しいよな!
さて、こうしてそれぞれのダンジョンを整えていた俺達だが、ラペレシアナ様との相談が必要なので、王都へ。たまにはこっちから出向こう。
「ラペレシアナ様ー!ラペレシアナ様ー!」
「おお!手紙を受け取ったぞ!」
ラペレシアナ様には、例の第二王子派について連絡を入れておいたので、それについてはもう知れ渡ってるってわけだ。話が早くて助かるね。
「……して、第二王子派が教会と大聖堂と敵対し始めた」
「マジかぁー」
「ああ。マジであるぞ。ふふ」
ラペレシアナ様、大いにご満悦の表情である。
「とはいえ、油断もできんが。何せ、こうなったらいよいよ、大聖堂と教会が本気でダンジョンを落としに来るであろうからな。そのあたりを洗い浚い第二王子派にぶちまけてしまえば、この混乱も消えてしまうやもしれん。或いは、第二王子派を潰し損ねる可能性もある、まあ、楽観視はできんな」
まあ、楽観視はできないとはいえ、ラペレシアナ様はこの状況をかなり有効に使って下さるはずだから、俺はそこのところで大いに期待しているよ。そりゃ、バイク乗り回す姫様だからな!
「が、まあ、時間稼ぎは十分にできよう。……アスマ様は、ダンジョンを完全に消し去る方法を探しておられるのだったな」
「はい。……とはいえ、まだそっちの方は全然ですが」
「そうか。まあ、いずれは、ということになるか。ふむ……」
ね。本当だったら、俺がそこんところを一気に進められると楽ちんなのよ。ダンジョンを消す方法さえ見つかっちゃえば、こんなにうだうだやらなくていいんだが……如何せん、ファンタジーなこととなると、俺の専門外だからなあ。で、今回のコレって間違いなく、ファンタジーな方法でどうにかすることになるじゃん?
となると、まあ、世界樹を使うことを考えても、ミシシアさん辺りに頑張ってもらうか、エルフとの協力を……いや、それは危険だよなあ。うーん……。
と、俺が考えていたところ。
「……む?」
ふと、ラペレシアナ様が眉をひそめた。
「なんだ、廊下が騒がしいな」
そして顔を上げた、その瞬間。
「殿下!ラペレシアナ殿下!」
騒がしくも駈け込んで来た兵士が、血相変えて報告する。
「金鉱ダンジョンに侵入者が押し入りました!」
「なんだと!?あそこの守りはどうなっていた!?」
「それが……破られました!真正面から!」
「バカな……!?」
……成程ね。
こりゃ、いよいよあちこち切羽詰まってきちまったなあ。




