チェーン展開*1
「え、あの、閉じちゃっていいの……?」
「え、うん。それでダンジョンがダンジョンじゃなくなるなら、その方が望ましいかな、って……ほら、管理できないダンジョンがあると、今後困りそうだし」
今後のことを考えるならば、ダンジョンというもの自体を消し去っていくのは悪くない方針だと思う。
いや、まあ、ある程度は残しておいていいと思うよ。他国がダンジョンを軍事利用し始めた時とか、こっちにダンジョンが無いとマジでどうしようもねえだろうし。まあ、そうなる前にうまいこと他国のダンジョンも消していくべきだと思うけども。
「……アスマ様、帰れなくなっちゃわない?」
……うん。まあ、ちょっと心配ではあるよ。けどまあ、大丈夫だろう、とも思っている。
「パニス村ダンジョンの割れ目は閉じなくていいんじゃねえかな、と思ってるよ。まあ、本当に全てのダンジョンが消えたら、スライムの生産元が無くなっちゃうし」
「そ、そっかぁ、そうだよね。うん……」
ミシシアさんは何やら考えている様子であったが、まあ……それはさておき。
「で、ラペレシアナ様!ダンジョン奥の、異世界へ通じる門を閉じるにはどうすればよいのでしょうか!」
ダンジョンの消滅が可能なら、是非進めていきたい!ということで、俺はラペレシアナ様に向き直って……。
「分からぬなあ」
そこで、珍しくも、ちょっと困った顔のラペレシアナ様に、そう返答されてしまったのだった。
……まあ、そりゃそうですよね!失礼しました!
「ということで、異世界へ繋がる割れ目をどう閉じるか、皆さんのお知恵を拝借したい」
はい。俺はミシシアさんとリーザスさんにも聞いてみることにした。皆様、というのが俺とラペレシアナ様含めて総勢4名ってのがなんともね……。
「すまないが、俺はこの手のことを全く知らないから、役に立てそうにない。ミシシアさんはどうだ?」
「へ?私?うーん、私もあんまり詳しくないんだけどなあ……」
リーザスさんはお手上げ状態。そしてミシシアさんも、困りながらちょっと考えて……。
「……えーと、ほら。世界樹って、『世界を繋ぐ樹』でしょ?なら、世界樹が何かの鍵になってくれないかなあ」
そんなことを言い出した。
そうね。世界樹は、世界を繋ぐ樹、らしい。実際、キラキラの光が降り注ぐ割れ目にはダンジョンパワーが及ばないが、世界樹の枝だけは近づけるみたいだったよね。
だからこそ、俺はあの世界樹を伝って元の世界に戻ろうとしてるわけだし、そこんとこでミシシアさんと俺は共闘関係な訳だ。
「じゃあ、どうやったら世界を繋げるか、世界樹なら知ってるんじゃないかと思う。なら、その反対のことをやったら、世界が閉じるんじゃないかな」
「成程ね!うん……なら、世界樹の研究を進めてみる、ってのは悪くないか」
まあ、そういう訳なので、次の俺の目標は、ダンジョンコンサルをやりながら世界樹の研究を進めていく、ってことになるのかな……。
あ、でも、世界樹の研究を進めるにあたって、世界樹の成長は促進させたいから魔力は必要だよね……。魔力、足りるかな……。
で、足りなかった場合、魔力を効率よく手に入れるには観光客の増員が必要だよね……。
……で、観光客が来るには、ちょっと……今のパニス村は、魔物被害が多すぎるんだよね……。
「アスマ様がまた変な姿勢になっちゃった」
「そっとしておいてやろう……」
俺はまたブリッジの姿勢になった。やってられん!やってられんぞ!うわあああああ!
そうして俺がブリッジのまま瞑想していたところ。
「……ん?あれ?ミシシアさん、なんか俺の背中と地面の間を通っていく何者かが居ない?」
「あ、うん。スライムがね、アスマ様の下を潜り抜けてるよ」
なんか背中がもそもそするなあ、と思ったら、俺はスライム達の遊具にされているらしい。なんてこった。
「あれっ、戻ってきた?」
「うん。……もしかしたら、アスマ様を探してるけど、いつもと違う姿勢だから見つけられないのかも」
更に、スライム達が行ったり来たり、俺の背中を遊具にしているというか、なんかちょっと困った様子を見せ始めたので、俺はブリッジの姿勢から戻る。ただいま!
「……本当だ。なんか珍しい挙動だ」
もちっもちっもちっ、と、なんだか妙に忙しなくやっているスライムが3匹。珍しいね、こいつらがなんか急いで移動してるかんじ。
「何かあったか?」
ということで、スライムの内1匹を抱き上げて聞いてみる。すると……。
「お、おお……何、どっかに俺を連れて行きたいの?」
スライムが俺の腕の中で、ある方向にむかってウニョウニョと伸びる。なのでそっちに俺が進んでやると、またウニョウニョ、と伸びて次の道を示し始める。
……そして。
「ん?これ、村の外に誘導しようとしてる?」
いよいよ、村の端っこにまで来ちまったよ、というところでスライムに聞いてみると、俺が抱き上げなかった残りのスライム2匹が『その通り!』とばかり、ぽよよん、と揺れた。
ほう。スライムが、俺を村の外に出したい理由、か。
……ところでこのスライム、3匹、だよなあ。ということは、もしかして……。
「お前らのダンジョンが危ないってことか!?」
もしかしてこのスライム3匹、新たにスライムダンジョンと化したダンジョンから付いてきた新顔スライムなんじゃないだろうか、と思って聞いてみたら、スライム達はぽよんぽよん跳ね始めた!やっぱりな!
ということで、俺達はすぐ、スライムダンジョンへ向かうことにした。
スライム達に『……で、君達のダンジョンはどこのやつ?』と聞いてみたところ返事が無かったため、俺が勝手にスライムの匂いを嗅いだりつついて硬さを確かめたり好む温泉の種類を見たりして、結論を出せた。
このスライム、ちょっとラベンダーの香りがして、ぬるめの温泉が好きで、やや硬め。つまりこいつは、カラスダンジョンのスライム!
……どうやら、今回新たにスライムダンジョンと化した国内ダンジョンの中で一番村から近い所らしいので、それはありがてえな。
尚、『なんでわかるの……?』とミシシアさんとリーザスさんに慄かれたが、いや、まあ、カラスダンジョンの主であるカラスは、なんかラベンダーの精油入りの温泉が気に入ってたみたいで、ダンジョンにもラベンダーの茂みを量産していたし。ぬるめの温泉が好きだったし。それで大方分かったぜ。
……ところで、ウミウシダンジョンのスライムが一番柔らかくて、カラスダンジョンとかペンギンダンジョンのスライムはやや硬いんだが、これ、主によって硬さが変わるもんなの?
ということは、俺ってやや柔らかめの主、ってこと……?
はい。そうして到着しましたカラスダンジョン。
パニス村に居たスライムはカラスダンジョン出身スライムなわけだから、そのスライム達が何かを感じ取ったっていうんなら、このダンジョンに何かがあったんだろう。
俺は、いつでもぶっ放せるようにダイナマイトを準備しつつ、リーザスさんとミシシアさんと一緒に、慎重に、ダンジョン入り口へと近づいていく。
……すると。
「おっ、裏口かな?」
なんか、俺達の近くでもそもそとラベンダーの茂みが動いて、そこに階段ができた。これは……つまり、ダンジョンの主からのお招き、ってことだろう。
「待ってくれ。罠かもしれない」
「まあそりゃそうだなあ。……あ、じゃあダンジョンの主に告ぐ!好みの温泉のお湯をちょっとここに出してくれ!」
まあ、当然ながら『このダンジョンはついさっき乗っ取られまして、今ここに居るダンジョンの主は敵です』って可能性もあるので、一応ちゃんと呼び掛けてみる。
すると地面から、にゅっ、と木の器が生えてきて、そこに、にょっ、とお湯が生まれた。
……早速確認してみると、ぬるめ、ラベンダーの香りのお湯である。ヨシ!こいつは間違いなく、カラスが主のまま!
確認も取れたので、俺達は早速、下り階段を進んでいく。
このダンジョンのコンサルやった時に構造は学習済みなんで、概ねどこら辺に居るかな、ってのは分かってる。この下り階段、そのまま普通にダンジョン最奥に続いてるっぽいな。
「何だろう。カラスに何かあったのかなあ……」
「まあ、パニス村に居たスライムがアスマ様を呼びたくなるようなことはあったんだろうが……」
今回、俺達はなんかスライム伝いに呼び出された、ってことなのか……いや、そもそも、ダンジョン生まれのスライムはダンジョンから遠く離れていてもダンジョンから情報を受け取ることができる、っていう、とんでもねえことが分かっちまったんだけども……。
……色々と分からないが、確かめてみないことには本当に何も分からない。俺達は意を決して、ダンジョンの奥へと進んでいき……。
かーかー。
カラスが自慢げに鳴く横には、檻に閉じ込められている人間達の姿があった。
ワァオー。
「えーと、これはつまり、『侵入者を捕まえたんで引き取りお願いします』ってことなの?そういうことなのかな?」
カラスに聞いてみたところ、カラスはこくこく頷きつつ、くーくー鳴いて、俺にすりすり寄ってきた。このカラス、かなり賢いと見えて、俺達のことは識別できてるし、こうやって質問にも答えてくれるし、懐いてくれてまたなんかかわいいんだよな。
カラスの首回りとかをもそもそもそもそ撫でてやったら、またくーくー鳴いて喜んだ。おおかわいいかわいい。
……とかやりつつ、檻の中の人達を観察。
彼らは、まあ、恰好から見るに、聖騎士っぽいかんじである。つまり、教会関係者、ってことか。
……成程なー。教会の上層部しか『ダンジョンの主の座は奪える』って知らなかったとしても、教会上層部が下層に対して『悪しきダンジョンを成敗してきなさい!』ってやる分には困らないんだよな……。
聖騎士、ってものは、この国各地にある教会それぞれにある程度居るらしいし、となると、教会が動くの、かなり厄介だよなあ……。『ダンジョンに入ってダンジョン攻略してきなさい』って命令だけなら、背く聖騎士なんてほぼ居ないだろうしなあ……。
……なんてことを考えていたところ、俺が撫でていたカラスが、くわっ!と大きく鳴いた。
「ん?どした?」
撫で方がお気に召さなかったかな、と思ったんだが、カラスは羽を広げてばさばさやりながら、また、くわっ!である。うーん?
「……ん?」
が、俺が首を傾げている間に、ふと、階段の先から物音が聞こえてきた。
物音。このタイミングで。となれば……。
「……もしかして、また侵入者が来たり?」
カラスが頷きつつ、かー!と鳴くもんだから、まあ、そういうことなんでしょう。
……ナイスタイミングなのかバッドタイミングなのかわかんねえが、一大事であることは間違いないんだぜ!




