ダンジョン防衛力向上研修*5
それから、俺達はダンジョンに入ってはダンジョンを攻略し、最奥に居たダンジョンの主を捕まえてパニス村に連れ帰り、パニス村式おもてなしをしてからダンジョン防衛力向上研修を行って、そして元居たダンジョンに主を返す、ということを繰り返した。
えーと、俺達がぱっと攻略できないダンジョンは、もうさっさと諦めた。何故かって?身体能力向上ポーションでドーピングしているミシシアさんとリーザスさんと俺に攻略できないダンジョンだったら、大聖堂にも教会にも第二王子派にも攻略出来っこねえからだよォ!
……まあ、そういうわけで、俺は各地のダンジョンの主に懐かれた。
いや、色々なダンジョンの主が居たよ。ウパルパみたいなのばっかりじゃねえだろ、と思ってはいたが、まあ、当然ながら別の生き物ばっかり居たわけだ。
最初はカラスだった。結構賢いダンジョンの主だったっぽいので、懐かれるのも早かった。あと、胸毛がふわふわ。
次はペンギンだった。多分、皇帝ペンギン。こいつも温泉が気に入ったらしいんだが、ということは温泉ペンギン爆誕ということでよろしいか。
その次は猫だった。三毛の。ただし、尻尾が2本あった。ということは猫又だね。……猫又って俺の世界の生き物か?いや、これもこっちの世界に来て変質しちゃった例か。
その次はアザラシだった。白くて丸くて中々にきゅーとだった。こいつも温泉大好きになっちまったので、また温泉ダンジョンがこの世に増えちまった。
そしてその次は……。
「この子、ひらひらしてるねえ……温泉の中でひらひらしてると、すごくかわいい!」
「うん。ウミウシっていいよね……」
……ウミウシである。
ぷにっ、として、ひれひれっ、とした、そういう生き物である。
「……デカいとなんかちょっと、違うかんじあるけどね……」
「えっ!?大きいの!?」
「うん。猫サイズなのはね、デカい。デカすぎる」
ただし!デカい!
「ここまでで分かったこととして、ダンジョンの主になった生き物って、なんか変質してるっぽいんだよね……」
ひれひれひれ、と体を震わせつつ温泉の中を泳ぐデカいウミウシを眺めつつ、俺はミシシアさんに解説。このウミウシは異常なウミウシである。
「俺は年齢として小さくなっちゃったし、ウパルパはなんか体がデカいし、知能も多分、かなり上がってる。カラスは体の大きさはそんなに変わってないものと思われるが、知能はかなり高かったよな、あれ」
「うん。あのカラスはかなり賢かったと思う。お金を渡したらそれでお買い物してたもん」
ね。あのカラスは異常だった。……いや、カラスって、素のカラスでも3歳児ぐらいの知能はある、みたいな話、あるじゃん。あんなん目じゃないくらいだったね。『意思の疎通がある程度できる5歳児』くらいの知能はあったんじゃねえかと思われる。
「それから、ペンギンとアザラシもちょっとデカかったし、賢かったんだよな……」
ついでにペンギンとアザラシについても、やっぱりなんか体がでかかった。そして賢かった。ウパルパ程度には賢かった!
「酒飲みはいなかったな」
「アレはウパルパの個性だったみたいだね……」
尚、そこまで色々居ても、結局酒のみダンジョンは生まれなかったことを考えると、こう、やっぱりあのウパルパは殊更に特殊なやつだったんじゃねえかな、と思っちまうね……。
「それから、ダンジョンの奥には大抵、きらきらした光が降ってくる場所があるね!」
「あー、うん。でも近づけないんだよなあ……」
それから、きらきらした光。これがダンジョンの特徴であることも分かってきた。
……恐らく、俺がこの世界に来ちまった時に通ってきた割れ目。アレに似たものが、大抵のダンジョンで確認できたのだ。
尚、確認できなかったダンジョンっていうのは……こう、もっかい奥まで確認するのがめんどいウパルパダンジョンとか。罠が凶悪すぎて、翼のない者には到底踏み入れない状態になっているカラスダンジョンとか。そういう……確認できなかったというか、確認、しなかった。もういいかな、って……。
「不思議なものだが、アレはダンジョンの秘密に何かかかわりがあるんだろうな……」
「あ、うん。そうね。……魔力の供給源として使われてる、ってかんじかな」
あの割れ目から降り注ぐ魔力についても、気になるところではあるけれどね。まあ、今は触れられないから、そっちはまた後で、ってことで。とりあえず、多分全てのダンジョンにあの割れ目があるんでしょうね、ってことで一旦止めとこうね。
さて。
今回も無事、デカいウミウシにダンジョン研修を受けさせて、元のダンジョンに返してやることができた。
ウミウシが帰ってきた途端、ダンジョンが動き出して温泉ができる。続いて、水場が増えていって……穏やかな大きな湖が生まれた。中々綺麗じゃないの。
このウミウシも好みが色々とあるらしく、パニス村でお気に入りになったらしい植物をはやしてみたり、水辺の植物を増やしたりしつつ、とっても楽しんでいる様子だ。
……で、そんな中、俺達はちょっと遠くの方から聞こえてくるエンジン音に耳を澄ませた。
「あっ、ラペレじゃない?」
「うん……うん。このエンジン音はラペレシアナ様のだな」
「分かるのか。アスマ様はすごいな」
「いや、そりゃ、隠すということを知らないエンジン音なのはラペレシアナ様くらいだからね……」
そう。今回は、ラペレシアナ様も合流なさる。
それはすなわち、俺がコンサルを担当したダンジョンの視察……そして、情報共有、ということで。
「はい、ウミウシ君。こちら、ラペレシアナ様。この国の王女様だぞ」
「第三王女ラペレシアナだ。……ウミウシ、といったか。中々に優雅で愛らしい生き物だな。ダンジョンの主としてこのダンジョンを善く治めてくれ」
ウミウシ君にラペレシアナ様を紹介すると、ウミウシ君は、ぺこん、と頭の触角……触角?なんかまあ、そういうやつを折りたたんだ。ウミウシ君なりのお辞儀である。
尚、このウミウシ君、この触角にダンジョンの主の腕輪がくっついている。これがまたちょっとかわいいと俺の中で話題である。
「さて……今回も温泉が生まれたか」
「あ、はい。ウミウシ君も温泉が気に入ったみたいで」
……そして、ラペレシアナ様は『また温泉か……』という顔をしてらっしゃる。尚、俺達もさっき『また温泉か……』っていう顔をしたところである。
そう。このウミウシ君にしても、ウミウシ君以外のダンジョンの主達にしても、なんかこう、温泉を気に入っちゃって、自分のダンジョンにも温泉を用意しちゃうんだよなあ……。そんなに温泉、好き?
「まあ、魔力を多く含んだ水を効率よく循環させようとした結果なのかもしれんが」
「あっ、そういうのもあるんですね……」
ラペレシアナ様が考察してらっしゃるが、俺はあのウパルパがそういう風に考えたとは思えないので、まあ、多分、『なんかあったかくて居心地がよろしい』ぐらいのノリで温泉を作ってるもんだと思ってるよ……。
「まあ、パニス村の様子を真似ているのであろうな。ふむ。まあ悪くはない」
ラペレシアナ様としては、温泉が増えまくることにはそう異論がないらしいのでよかった。よかったなウミウシ君。許されたぞ!
……今後、『ダンジョンって何だろう、温泉のことかな?』みたいなかんじになりそうではあるが、まあ……それは追々。
「さて。では報告だな」
して、ラペレシアナ様は早速、もう1つの目的の方に移られた。
「パニス村で捕縛してもらっていた連中の尋問が終了した」
そう。今回、視察を兼ねているとはいえ、情報共有のためにわざわざここまでお越しいただいたのは他でもない。パニス村の牢屋にぶち込んでおいた奴らの尋問が終わって、情報が出きったからなのである。
パニス村で捕縛しておいた連中は、例の……えーと、こう、気のいい冒険者連中に日々監視され続けていたが、それらをラペレシアナ様達が引き取ってくださったんだな。……彼ら曰く、『やっとこの妙な奴らから離れられる!』とのことだった。まあ、気持ちはわからんでもない。
……で、ラペレシアナ様達が容赦のない尋問を行った結果、ようやく、奴らも情報を吐いてくれたのだという。尚、尋問には『またコレがいいか?』と、蜂蜜を塗ったナイフを見せるのが効いたとかなんとか……。あいつ何をやったんだ一体。
で、その情報だが。
「パニス村で捕縛した者達は、それぞれ大聖堂関係者と教会関係者、そして第二王子派の手の者、といった具合だったが……それぞれに知っている内容が異なっていたようだ。まず、そちらの予想通り第二王子派の連中は、ダンジョンの何たるかをあまり知らない様子だった」
「おおー、よかった!」
まず、一安心!
そうそう、俺達が立てていた『第二王子派が何も知らないでいてくれるんだったら、奪われたダンジョンの数も大したことないだろ』っていう予測は正しかったのである!これが間違ってたら色々と危なかったからな!よかった!
「次に、国内に残った大聖堂の連中について、彼らについては『ダンジョン最奥に居るダンジョンの主を殺してその腕輪を奪えば、ダンジョンの神になれる』という情報を持っていた」
「おおう……」
が、続いた情報には、やっぱりなあ、と思いつつも苦い面持ちにさせられるね。
まあ、大聖堂の生き残りって、そんなに人数は多くないはずだから、そこのところはまだマシなんだが……さて。
「そして最後に、教会の、国外追放された連中の一派に属するクズ共だが……」
俺達は、じっとラペレシアナ様の言葉の続きを待って……そして。
「……『異世界への入り口』がダンジョンにあると言っていた」
……それを聞いちゃったので、俺はもう、その場でブリッジの体勢を取った!やってられっかい!
「そこまで知ってんのかよ……」
「アスマ様、とんでもない恰好になってるよ」
「ああ、そっとしておこう……。多分、アスマ様なりに何か、やり過ごすための姿勢なんだろう。多分……」
俺はブリッジの姿勢のままでその場を這い回ることにした。何もかもが嫌になった時はこういうのに限る。人間の体は案外単純だから、変な動きをしていると脳味噌が勝手に『なんか楽しくなってきた!』ってなって元気が出てくるから……。
「ふむ。その様子だと、『異世界の入り口』というものについて、アスマ様はご存じか」
「あ、はい。ダンジョンの最奥には割れ目があって、そこから魔力が溢れてきてるんですよ。ダンジョンはそれによって成り立ってる面があります」
魔力を稼ぐことにあんまり積極的じゃないダンジョン……というか、そういう知能が無いダンジョンについては、あのキラキラした光および魔力に頼ってる面がそこそこデカそうだからなあ。一方、うちとしてもあの割れ目は世界樹を育てるのに活用している訳だ。おかげですくすく育って大きな世界樹になりました。
「というか、もしかしたらダンジョンっていうのは、異世界と繋がっちゃった場所のことを言うのかもしれません」
まあね、今まで見てきたダンジョンを見る限り、多分全てのダンジョンに例の割れ目、あるからね。となると、『ダンジョンがあるから割れ目がある』のか、『割れ目があるからダンジョンがある』のか、そのどっちかってことになる。
……で、多分、どちらにせよ、その2つは切っても切り離せない関係なんじゃねえかな、と思われるわけだ。
そして。
「ということは、その『異世界の入り口』とやらを封じれば、ダンジョン自体を消滅させることも可能、ということか……」
ラペレシアナ様の言葉に、俺はブリッジの姿勢から戻った。ただいま!
「なら、次にやることは決まりましたね!『異世界の入り口』を閉じましょう!」




