ダンジョン防衛力向上研修*2
「道中で合流してしまったのでな。そのまま村へ来てしまったが、よかったか?」
「勿論です殿下!ようこそ!」
……ということで。
俺達は無事、合流できた。
お迎えに行くまでもなかったね。ラペレシアナ様はご自身で開発中だった戦車で繰り出してきて、ここまで自力で辿り着いちゃったんだからさ……。
「魔物、大丈夫でした?」
「ああ。数匹は轢いたぞ」
……尚、ラペレシアナ様達の戦車は、防御より攻撃にぶっ飛んだ代物であった。成程ね。攻撃は最大の防御、ってわけね。ヒューッ。
「では、周辺のダンジョンを一斉に叩く、と。そういうことだな?」
「はい。魔物が押し寄せてきた方角は分かっていますので、それらを一気に潰せれば大丈夫だと思います」
ということで、ラペレシアナ様も含めて作戦会議だ。
今回、俺達は周辺のダンジョンを一気に叩く。敵が『いよいよ駄目になったから第二王子派に助けを求めよう!』って考えないくらいのスピードで事を済ませる必要があるからな。
「形状としては、地下洞窟が3、塔が1、森が1か。ふむ……」
そして、周辺のダンジョン情報は既に冒険者達から貰っている。どうも、メジャーな地下洞窟型の他にも、この間も見たタワー型、そして『ただ深い森の中から魔物が湧き出てくるんですよね』という森型があるらしい。すげえダンジョンだな……。
「まあ、形状は変わっている可能性がありますね。特に森型」
「そうであろうな。私もそう考えている。とはいえ、塔や地下洞窟は、少なくとも見た目にはあまり変化が無いように気を付けているだろう。大聖堂の連中が第二王子派に情報を秘匿したいのであれば、ダンジョンを乗っ取った旨も知られたくないだろうからな」
うんうん。俺もそう思うよ。ということで、地下洞窟とタワーの方は、まあ、とりあえず地形はおおむねそんなかんじのまま、っていう想定でいけるね。
「ならば、前回も用いた毒にも火にもなる薬を用いるか?」
「あー、まあ、今回もアレでいいんじゃないかな、とは思います。エルフダンジョンもタワーダンジョンも、敵を全滅させたはずなので、情報は漏れてないはずで、つまり対策はされてないと思うので……」
「あっ!だったら、ウパルパダンジョンで私達がだいなまいと使っちゃったから、それは対策されちゃうかなあ!?」
「あ、そうね。洞窟とか塔とかを頑丈にする方針で動かれているかもしれねえ……」
まあ、そういうことを考えても、やっぱりシアン化水素がベスト選択な気はするね。なんだかんだアイツ1つで事足りる場面が多すぎる。暴力……やはり暴力は全てを解決するんだな……。
「いや、待ってくれ。今後のことも考えると、こちらの手の内を全て晒すのは危険じゃないか?アスマ様、どう思う?」
が、やはりここは情報戦である。リーザスさんの言う通り、こちらの手の内を晒しちゃうのは危険でもあるね。
俺達は、相手の情報をある程度持っている。それが今回、事を有利に運べている一因になっているので、このアドバンテージは今後も握り続けていたい。
「あー、何か見せかけの戦力も用意するってことでどう?」
ということで、まあ、フェイクがあってもいいよね、というのは、本当にそう。よし。
……俺はちょっと考えた。
フェイクの戦力ってことは、まあ、見た目がド派手な方がいい。相手が『なんだアレは!?』ってなってくれるのが一番いい。
ということは、だ。
「じゃあモンケン持っていきましょう。塔はそれで!あと、生コン持って行きましょう!地下洞窟はそっちで!で、森は焼きましょう!ガソリン!ガソリン撒いて着火しましょう!ガソリンはもう敵に手の内見せてるんで使っちゃっていいと思います!」
俺は、早速分解吸収再構築で準備を始めることにした!
「成程な。これがモンケン……巨大な振り子、といったところか」
「本来は垂直に落として使うもんなんですが、まあ巨大な振り子です」
ということで俺はモンケンの準備をしました。
……えーとね、モンケンっていうのは、すごく簡単に言うと、クレーン車を使って鉄球とかを吊り下げて、それを落下させて、鉄球の重量と位置エネルギーによって杭とか打ち込むやつ。
が、ぶん回すやつとして使われることもある。純粋に振り子運動させたらさ、まあ、重量ってパワーなので……まあ、普通にコンクリとか破壊できる。
ダンジョンタワーの壁がどんなもんかは分からんが、破壊はできる。それも、かなりド派手にできる!
……なので、シアン化水素で仕留めた後にモンケンぶん回して、モンケンの方がダンジョン滅亡の原因だったように偽装すれば、情報が漏れたとしても攪乱できると思うんだよね。
シアン化水素の強みにして弱みである『見た目には全く何も起きていないように見える』っていう特徴はフェイク部分でカバーだぜ!
続いて、生コン。
「こちらがコンクリです。流し込んで固めようぜ!」
「わー……」
これをダンジョンの地下洞窟への入り口からぶち込んで固める。ダンジョンを塞ぐ。物理的に!
「あっ、生コン地下洞窟の方は、監視役をいっぱい地上に配置してください!」
「それは何故だ?」
「地上に出てこられなくしたいので。あ、ダンジョンパワーって、敵対者が認識しているところでは発動できないんですよ。それって、妨害の魔法とかの魔法によって探知している範囲も含むらしいので、それを使われてるとダンジョン側は滅茶苦茶困るんですよね」
「ほう」
勿論、ダンジョンパワーで新しい道を作ってそっちから出てこられたら嫌なので、そっちの対策もしなければならない。
エルフ5人組がパニス村ダンジョンに来た時に把握済みだが、魔法による探知もダンジョンパワーの妨害になる。ならば、そういうのが使える限りバンバン使って地上を監視しまくれば、入り口を新たに増やすこともできないってわけだな!
となると換気もできないから、シアン化水素との相性もいい。あと、色々と外に出てこないでくれれば、こっちの精神衛生上もよろしい……。
……で、森。森についてはもうね……汎用性の高いブツを使うしかない。
「じゃあ森についてはどう変化してるか分からないので、とりあえずガソリンってことで」
やっぱりね、燃やすのって、大事だよ。見た目にすぐ分かるもん。
町から火の手が上がっていたら『町が落ちたか!』ってわかるし。それと同じで、『森が落ちたか!』って思ってもらえるのは大事なことだね。よしよし。
「ふむ。まあ分かりやすさは重要であろうな。ただし、森型ダンジョンについては、地下洞窟を作っている可能性が高いと見た。生コンも持って行きたい。よいか?」
「ああ、確かにぱっと見で分からないですもんね。その可能性が高いか。どうぞどうぞ、生コンもしっかり持ってってください!シアン化水素もお付けしますね!」
勿論、ガソリンだけじゃ心許ないので、色々と準備して頂く。まあね、平地で下手にガソリン撒いて敵を片付けようとしちゃうと、自分達が火に巻かれる危険もあるから、撤退時にやるのがいいだろうし。
ということで、俺はそれら必要な装備を再構築で生み出した。
個人的に一番大変だったのはコンクリートミキサー車である。もう、これはラペレシアナ様やミシシアさん監修の下、ファンタジーパワーに頼った製造をしました。具体的には回す部分。アレの動力を得るためにファンタジーパワーを使った……。
それから、人間用の装備……えーと、防護服とかガスマスクとか、そういうブツもたっぷり生み出して……そして最後に。
「ではスライムを連れて行くぞ」
「よろしくお願いします!」
車に、スライムを積み込んで頂く。
……スライムを、積みこんで頂く。
積み込まれたスライムは状況をよく分かっていない様子であるが、お前がダンジョンの主になるんだぞ。
……いや、そりゃ、俺達がダンジョンの主になっちゃうわけにはいかないから……スライムを主にするしかないんだよなあ。
で、スライムが主になる分には、こう、平和だってことが分かってるし……パニス村育ちのスライム達は、パニス村ダンジョンの防衛を見ているから、まあ、ある程度は危機感を持って対策してくれるし。
……1つ危惧することがあるとすると、スライムダンジョンの数だけ温泉がぽこぽこ増えちまうと、パニス村の観光資源の価値が減る、ということである。
でもまあ、しょうがないね。全てのスライムの幸せのためには、温泉がぽこぽこあるくらいで丁度いいわけだし……。
そうして、俺達はラペレシアナ様率いる騎士達を見送った。
……第三騎士団の人達ばっかりじゃなくて、他の騎士団とか、他の兵士も連れて行ったっぽい。まあ、人員は幾らあっても足りねえもんなあ。
それに何より、これは国を挙げての一大事だ。ここで踏ん張れなかったら、この国自体が滅びかねないっていう時だ。そりゃ当然、援軍を連れてくるよな。
後で聞いてみたら、第二騎士団にも声を掛けて動員してたらしいし、第一王子のツテで増員できたところもあるらしい。よしよし。第一王子もありがとうな!
「……さて」
ラペレシアナ様達がパニス村から出ていって、装甲車の駆動音も遠くなりにけり、というところで。
「ウパルパよ」
……俺は、相変わらず俺の腕の中で、ぷにっ、として、もちっ、として、そして、ぽけらん、としている……この緊張感の無い生き物と向き合うことにした。
「お前にダンジョン防衛のノウハウを叩き込むから、しっかり覚えてくれ!」
そう。
ダンジョンコンサルの始まりである。
……同時に、『ぷぁー』と鳴きつつ暢気な顔をしているウパルパを見て、なんかめっちゃ心配になってきたが……まあ、しょうがないよね……。やれるだけのことはやろうね……。
ということで、俺はウパルパを温泉につけて、揉んだ。
……本当にコレでいいのか分からないが、とりあえず、温泉につけて揉むことによって、多少、魔力面での改善が見込まれるので……。
「いいか?ウパルパ。お前もこういうの作れ。こういうの。な?いいだろ、温泉」
ウパルパは温泉を気に入っちゃったらしい。お前、本当にウーパールーパーか?まあ、ウーパールーパーじゃない気がするけど……まあいいや。温泉に浸かるのが大好きな、デカいウーパールーパーが居たっていいじゃない、異世界だもの。あすま。
「で、こういうの作った後は、防衛機能も造るんだぞ?魔物だけに防衛を任せてちゃ駄目だ。ちゃんと罠も造れ。それから、魔物を利用したいんだったら、魔物の頂点に君臨しないとな」
……温泉に入りながらのレクチャーは、果たして効果があるのだろうか。
まあ、ウパルパはこっちを見つめて、真剣な顔(当社比)で『ぷぇ』と鳴いているので……多分、何かの効果は、ある。多分。多分ね。
これでダメだと、俺のダンジョンコンサルっていう発想自体がポシャるから、是非、なんとかしてほしい。頼んだぜ、ウパルパ!
そうしてウパルパに色々教え込んだり、パニス村を襲いに来る魔物を片付けたりしながら、なんとか過ごす。
……ひたすら心配だ。今回、この作戦が上手くいかなかったら……いよいよ、この国は大規模な戦いに巻き込まれていくことになる。
ダンジョンパワー使いたい放題のバカを国内に抱えるってのは、あまりにもリスクが高い。そいつらのせいで国が滅び、他国も滅ぶ可能性すらあるわけで……。
だから、ここでなんとか、押さえ込みたい。ダンジョンの力を知る者達を、徹底的に排除しないといけないんだよな。
……と、俺達はやきもきしながら待った。
俺はウパルパに色々教えてたんで、それで多少気が紛れたが、ミシシアさんとリーザスさんは、もっとストレートにやきもきしていた。
それから、冒険者達も詳しい事情は知らないながら、なんか緊急事態であることだけは感じ取ったらしくて、ちょっとやきもきそわそわしていた。
……だが。
「魔物、減ってきたなあ」
「いい加減、うちで始末した分が多いからな……」
防衛戦も3日目には、襲来する魔物の数がかなり減っていた。ちょっとリーザスさんに偵察してもらったかんじ、パニス村を包囲する魔物、みたいなのはそんなに見当たらなかったらしい。
これは、単純に魔物が減った、っていうことなのか、それとも……魔物を生み出すダンジョンそのものに、何かあったのか、ってことだ。
そして。
ぶろろろろ、ぎゃりぎゃりぎゃり、と装甲車や戦車が動く音が聞こえてくる。
いよいよか、と思って城壁からそちらを見れば……やはり!
「お帰りなさいませーッ!」
ラペレシアナ様の御旗を掲げてやってくる、戦車の数々!
諸君!我らの勝利!我らの勝利である!




