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ちび神様の楽園ダンジョン  作者: もちもち物質
第三章:ダンジョンは世界を飛び越えた!
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ダンジョンハザード*8

 ということで、城壁に待機していた冒険者達が働いてくれた。

 まず、ミシシアさんとリーザスさんが通った直後に橋を跳ね上げる。

 続いて、バリスタの準備。突進してくる魔物は堀に落とせるが、大量に、かつ猛スピードでやってくるとなると話が違う。突進の勢いによっては城壁にダメージが入っちまうし、魔物の数によっては魔物の上に魔物がよじ登る形で城壁を突破できなくもない!よって、城壁に到着されるまでに魔物の数は減らしておきたい!

 まあ、いずれにせよ、地の利はこちらにある。それに、一度やったことでもあるので、全員落ち着いたもんであった。まあ、色々な修羅場を潜り抜けてきた冒険者達だからな。肝は据わってるって訳だ。なので下手すると、一番慌ててるのは俺。あわわわわわわわ。


 それでもあわあわやってるだけではダンジョンの主の名が泣くぜ。俺はあわあわしながらガソリンを再構築。大急ぎで堀に注入。再構築は魔物が近づいちゃったら使えなくなる。だから最初にやっておく必要があるんですね。

 続いて、城壁の補修を改めて行う。さっきの炎上で傷んだ箇所が無いとも言えないので、石材を分解吸収しながら再構築。つまり、消すと同時に生み出すから、実質、城壁はそのまま新品状態に戻った、ってことになるか。

 そして最後に……ミシシアさんとリーザスさんの確認だ!ミシシアさんが声を出せる状態だったってことしか分かってねえ!多分、運転してたのはリーザスさんだったと思うが、それも怪我してない保証は無い!

 やっぱり心配なモンは心配なので、俺は慌てて、門の方へ向かうのだった!




「あっ!アスマ様ぁ!ごめんね、魔物いっぱい連れてきちゃった!」

「いや、いいのいいの。あいつらなら迎撃簡単だから」

 さて。そうしてミシシアさんとリーザスさんの元へ辿り着いた俺は、真っ先にミシシアさんが『ごめんー!』とやるのを『いいのいいの』した。ほんとにね、2人が無事でいてくれたってだけで万々歳だぜ。魔物なんて、あともう100や200連れてきちまってても文句無かったぜ。

「しかし、あれだけの数を片付けるというのは骨じゃないか?バリスタと投石の準備があるのは見て分かったが……」

 そして、こちらも無事な様子のリーザスさんがちょっと焦りながらそう言ってくる。おおー、車の運転しながらだっただろうに、バリスタと投石の準備に気づいたとは。流石だなあ。

「あ、うん。えーとね、燃やすから大丈夫。そんなに心配要らないよ」

「も、燃やすのか……。それで、この妙な臭いがする、というわけだな……?」

「うん。ガソリン臭くてごめんね。全部片付いたらちゃんと空気清浄機やるから許してね」

 まあね、リーザスさんの観察眼を以てしても、堀にガソリンぶち込んで燃やす作戦は思いつかなかったらしい。ちょっと鼻が高いぜ。


「えーと、私達が出ていった時には、この壁、無かったよね?作ったの?」

「うん。あ、村の皆には『科学の力によるものです』って説明してる」

 早速、こちらはこちらで情報共有。2人が出ていった直後にこの城壁を作ったからね。2人とも、『なにこれ!?』ってなっていたらしい。すまんね、どうも。

「……科学じゃないよね?ダンジョンの力だよね?」

「まあ、それはそうなんだけどさ」

 嘘も方便というか、そこは許していただきたい。


「で、そっちは……」

「ああ、ひとまずこいつを頼む」

 俺がそわそわしていたところ、リーザスさんが車の中から何かを小脇に抱えて出てきて……。

「うわああ!ウパルパああ!無事だったんだなあああ!」

 なんと!そこには、無事で無傷なウパルパが、ツルン、プルン、としたテクスチャーもそのままに、『ぷぁー』と鳴いていたのである!

 よかった!マジでよかった!よかったなあウパルパ!




 これはもう完全勝利である。ミシシアさんもリーザスさんも無事で、ウパルパも助かった。これ以上は望めまい。

 俺はもう心配なんて全部吹っ飛んでしまった。なので後は、残りカスみてえな問題を片付けるだけである!


 ということで、城壁の上からまた、城壁の外を観察。

「燃えてるねえ……」

「燃えてる燃えてる。いやー……この数、普通に来てたらやばかったね」

 深く深く切った堀が全部埋まりそうなくらいに魔物の数がとんでもねえ。いやー、よくもまあ、こんなに大量に来たもんだなあオイ。

「で、魔物が大量に来た、ってことは……えーと、ウパルパダンジョン、奪われた?」

「いや、恐らくは奪われていない……んだが、俺達はひたすら、ウパルパを見つけ次第、ダンジョンを脱出してしまったし……そこで行き会った冒険者風の装いの集団については、だいなまいととやらによってダンジョンの中に閉じ込められたままだろうしな。分からない、としか言えない」

「おお……」

「こっちはこっちで色々あったよ。やっぱりウパルパダンジョンの中には何人かもう潜り込んでる人達が居てね、どう見てもカタギじゃないっていうか、冒険者じゃないかんじで、お金かかった装備と道具持ってて……リーザスさんが居なかったら、私、絶対に生きて帰ってきてなかったと思う!」

 どうやら案の定、ウパルパダンジョンは攻略中だった様子である。あぶねえ……。本当に間一髪だった……。よかったなウパルパ。お前、九死に一生を得たんだぞ。『ぷぇー』とかのんびり言ってるけど……。

「俺もミシシアさんが居なかったらまずかっただろうな。最悪、彼女とウパルパを逃がしてだいなまいとを使うか、とも考えていたんだが……」

「やめてね!そういうのはやめてね!」

 リーザスさんからちょっと冗談じゃねえ言葉が聞こえちまったが、リーザスさんは苦笑して流した。流すな!流していいのは水洗トイレとか笹舟とか灯篭とかそうめんとか、そういうのだけだぞ!

「……まあ、ウパルパの助けもあって、なんとか無事に脱出できた」

 ……そっちも流さないでほしい情報だなあ!ウパルパが!?ウパルパが助けてくれたの!?この、俺にぷにぷにやられながら『ぷぃ……』って鳴いてるこいつが!?


「いや、どうもウパルパが魔物を召喚して助けてくれたらしい。魔物は俺達を襲わず、他の奴ら……恐らく大聖堂か教会の関係であろう連中だけを襲ってくれた」

「それに、私達が見つけた時、ウパルパはすぐ私達に抱っこされてくれたんだよ!きっと、私達が仲間だって分かってたんだと思う!」

 おお……。俺は、なんか得も言われぬ感動みたいなものを覚えつつ、腕の中のウパルパを見つめる。

 ウパルパ……お前、俺達のことを仲間だと思ってくれてたのか……。

 ミシシアさんによって簡単に捕まっちゃったという点については、まあ、こいつが警戒心ゼロだからっていうんで説明が付くが、魔物がミシシアさんとリーザスさんを襲わなかったっていう点については、まあ、多分……ウパルパのおかげ、なんだろうしなあ。

「ありがとうね、ウパルパ!」

 ミシシアさんがウパルパの頭をなでてやると、ウパルパはちょっと満足気に『ぷぇー』と鳴いた。よしよし、お疲れ様、ウパルパ!




「……で、ウパルパの感動的な働きぶりはありがてえんだが……そうなると、あの魔物、どこから来たの……?」

 で、問題はこっちだ。

 ……俺、あの量の魔物が来たってことは、ウパルパダンジョンは乗っ取られて、ミシシアさんとリーザスさんはそこから命からがら脱出。そして、新たなダンジョンの主が派兵した魔物の群れが2人を追いかけた……ってことだと思ったんだよね。

 それがまさかの、ウパルパが無事だったもんだから、色々と説明が付かない訳だ。だって、ダンジョンを奪われてないんだったら、ウパルパダンジョンから魔物を生産することはできないはずなんで……。

 ……と、思ったんだけど。

「あー……それならね、もう分かっててね……」

 ミシシアさんが『非常に言いづらいんですが……』みたいな顔で、そっ、と教えてくれた。

「パニス村の周り、魔物がものすごく沢山徘徊してるの……」

「えっ」

「……このままだと、こっちに向かってくるラペレ達が危ないかも」

 ……うん。

 それはまずいね!




「成程なー……相手ももう、それくらいの規模で武力を得ちゃってる、ってことかぁ……」

 俺は『がっでむ』と天を仰ぐ。燃える魔物によって黒煙がもくもくと上がり続けている空であるので、眺めはそんなによろしくはないが。

「多分、このあたり一帯は全部だめだと思う。ダンジョン、片っ端から全部奪われちゃったんじゃないかな……」

 だよねえ。パニス村を包囲するかのような魔物の群れ、ってことは、まあ、複数ダンジョンの差し金なんだろうし。

 幸い、その内の1人はこっちでひっ捕らえることができたんだと思うけど、逆に言うと、その1人以外は捕まえられていない。相変わらず、ダンジョンの主は続投してるはずだ。

「ってことはもういよいよ大聖堂の残党だけじゃなくて、各地の教会とか第二王子派の人達も、ダンジョンの主になっちゃってるのか……?」

「……だとすると、まずいが。俺はまだ、そこまでの規模ではないように思う」

 が、リーザスさんはまだ望みがありそうな推察をしているらしい。聞かせて聞かせて。俺に今必要なものは希望。あと裏付けのある推論。

「第二王子派も、一枚岩じゃあない。だから、互いに裏切りを警戒し合っている。そんな様子だから、当然、教会や大聖堂の奴らも、手を組むにあたって警戒しているはずだ。……そんな連中が、自分とそのごく近しい仲間達以外に、ダンジョンの秘密を教えると思うか?」

「あー、成程ね。相手は信頼し合ってないからこそ、協力し合えないってことだね!」

「ああ。……ついでに、嫌な言い方をすると、『協力し合う利がもう無い』とも言える。ダンジョンの力はこれだけ強力なんだ。自分達だけでも十分に国家転覆を狙える。そして、自分達以外の同陣営の組織があれば、そこに恩を売ることができる」

 成程。それは確かにありそうである。

 こう、国外追放された大聖堂の連中がダンジョンの主の情報を流すにしても、流す先は今国内にある大聖堂か、国内の教会、ってところだろうしなあ。

 多分、第二王子側に流すメリットがあまり無い。となると、第二王子派閥には特に目的を言わずにダンジョン攻略だけ手伝わせてるってことなのかも。特に、パニス村だったらラペレシアナ様と懇意の、謎の技術を有する村、ってことで、村ごと潰したいだろうしなあ……。

「……と考えると、今ダンジョン攻略しまくってるのは国内に残ってた大聖堂の連中か教会の連中、と考えるのが妥当かなあ」

「そうだな。大聖堂の残党の立場で考えるならば、第二王子派に力を与えたくないであろう内情も理解できる。第二王子を傀儡にしたいなら、力を持つ者は教会だけでいいわけだから」

 うわー、考えれば考えるほど嫌なかんじだなぁ……。ちょっと大聖堂ー、仲良くしなさいよぉー……。




 いや、だが、敵が仲良くしてないというところは俺達からしてみると非常にありがたいことである!そこに勝機があるわけだからな!

「なら、今ならまだ、間に合うってことだよな」

 俺の言葉に、リーザスさんもミシシアさんも頷く。

 ……まあ、リーザスさんの推論が間違っていて、大聖堂の奴らがなりふり構わず第二王子派にまで情報を漏らしまくっていたらもう手遅れなかんじもあるが……それはまだ起きていないものとして考えるしかねえ!


「多分、奴らの狙いはパニス村なんだろうと思う。というか、ラペレシアナ様とパニス村の協力体制を破壊したいんじゃねえかな、って気がしてきた」

「あー、そうだよねえ。ラペレは第二王子からも、大聖堂のスカポンタンからも嫌われてるし……」

「それに加えて、パニス村から発明された謎の技術を用いた装備を有している、となったら、いよいよ目障りだろう。第一王子よりも余程、目の敵にされているように思う」

 うんうん、そうだよね。俺もそう思う。

 ……多分、奴らはパニス村ダンジョンについて、『ダンジョンの主は多分人間』っていうところまで推測していると思う。どう考えてもおかしいもん、うちのダンジョン……。

 で、同時に、『ラペレシアナ様と協力体制にある村およびダンジョンだから厄介』っていう風に考えてるんじゃねえかな。

 だからこそ、『車に乗っていたリーザスさんとミシシアさんを、周辺の魔物が全力で追いかけてきた』んだ。

 ……奴らはリーザスさんやミシシアさんを狙ったわけじゃない。

 奴らの狙いは、ラペレシアナ様だ。


「つまり、絶望的な状況なのはパニス村周辺だけ、って考えられる。エデレさんが聞き出してくれた情報も、パニス村周辺のものばっかりだったし。……だから、とにかくダンジョン攻略して、ダンジョンの主の座は奪わせてもらう。それができれば状況は一気に覆ると思う」

 だったら話は簡単である。

 奴らは国中に手を伸ばしたんじゃなくて、パニス村周辺に一極集中させていると考えられる。

 俺達に見えているこの状況、実は思っているよりもずっと、絶望的じゃないんだろうな。多分。

 ……慎重さは欠きたくないが、慎重になるあまり、敵を過大評価してしまうのはそれはそれでリスクだ。

 相手の、ハッタリをかましている自覚も無くかまされている可能性の高いハッタリに惑わされて、有用な手を打てなくなったなら、それこそこっちの敗北の道へ一直線だからな!

「まずは、ラペレシアナ様と第三騎士団、或いは他にも王城から手を貸してくれる武力があったら、そことの合流と協力を目指そう。で、一気にダンジョンを潰しに行く!」

 ……なので、俺達の行動はやっぱりこういうことになる。

 絶望しすぎず、自分達の周辺から解決していく。

 ここが一番の山場なんだろうから、こんなので絶望している暇は無いのだ!


 ……で。

 それと同時に、俺の行動も決まった。

「で、俺はまた別の方にも動くね」

「あ、うん……アスマ様、何かやるの?」

「うん。とりあえずの急場しのぎになるけど、ダンジョンのコンサルやる」

「は?」

 俺、ダンジョンのコンサル、やる。


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― 新着の感想 ―
燃え盛るパニス村。 その周辺を徘徊する魔物。 キャンプファイヤーとマイムマイムですね、分かります。
相手が効率的な魔力の供給法に気づいてどんどん書物をダンジョンに吸収させているとかでなければ、生み出した魔物が外で倒されればだんだん赤字になるはず? 近所にこっち側というか大聖堂の連中に奪われない無害な…
啓蒙活動……ならぬけいもっちり活動だ!
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