ダンジョンハザード*6
ということで、俺達はちょっと迷ってからすぐさま、パニス村の冒険者達に声を掛けた。
それ即ち……。
「諸君らには、俺と一緒にパニス村を防衛してもらう!」
餅は餅屋。荒事は冒険者。そういうことである!
まず、彼らを各地のダンジョンに派遣する、ってのは考えた。が、それをやっちゃうと、ダンジョンの情報を開示することになる。当然、それはかなりのリスクを伴うので、却下。
で、次に、俺が各地のダンジョンに出向く、ってのも考えた。特に、化学兵器をバンバン使うようなことをするんだったら、絶対に俺が立ち会った方がいいだろ!っていう気は、する。シアン化水素のボンベとか、下手に知識のない奴に渡したら即座に爆発させられる気がしてならない。こわい。こわすぎる。
……が、同時に、俺がここを離れることの危険もあるんだよな。
パニス村のダンジョンも、狙われているダンジョンの中に入っている。……というか、現時点で既に狙われてるわけだ。
ついでに、今、パニス村と同時にウパルパダンジョンを攻略しようとしてるっていうんなら、相手はかなり数が多い。同時並行で複数のダンジョンに首突っ込めるくらいには数が、多い。
……そいつらが一気にパニス村へ集中した時のことを考えると、俺はこのダンジョンを離れるわけにはいかないね、という結論に至った。
もしかしたら、ダンジョンから魔物をバンバン放出して、この国自体を滅ぼそうとか考えるアホが既に各地のダンジョンを乗っ取っているかもしれないのだ。ならば、俺はやっぱり自分のダンジョンを使って、このダンジョンとこの村、そしてこの国を守るべく、戦うしかないだろう。
……防衛戦だな。まあ、エルフでやったし。大丈夫大丈夫。いけるいける。
或いは、防衛戦どころじゃなく、ここから武力を派遣するようなことが出てくるかもしれないわけで……まあ、とにかく、俺はこのダンジョンから、この国の平和を支えたいわけだ。
そして、それを支えてくれるのがここに居る冒険者達!
ダンジョン攻略は王城の騎士団に任せるとして、この村を守る戦力は!俺と冒険者達とで賄わせてもらう!
「……じゃあ、アスマ様。行ってくる。くれぐれも、村はよろしく頼む」
「任せろ!じゃ、そっちも気を付けて」
「ウパルパは任せてね!絶対に助けてくるからね!」
……さて。
そうして、リーザスさんとミシシアさんは、ウパルパダンジョンへと向かう。
……2人を送り出すのは、ちょっと心配だ。だが、この2人なら……敵の手に落ちかけているダンジョンを、任せられると思う。この2人にしか、任せられない!
「それ、くれぐれも狭いところでぶっ放さないでね!」
「うん!任せてー!いってきまーす!」
……ミシシアさんは笑顔で、リーザスさんと2人、車に乗って去っていった。
小脇にダイナマイト抱えながら。
うん。いや、まあそりゃ……2人を送り出す以上は、装備の供与はするよ。そりゃするよ。
なので彼らは、身体能力向上ポーションと世界樹ポーション、ガスマスク、酸素ボンベ、暗視ゴーグル、液体窒素……あと、ダイナマイトと起爆装置、といったものを持っていった。
実に現代的であるなあ。
リーザスさんとミシシアさんに課せられたミッションは、ウパルパの救出。ならびに、ウパルパダンジョンへの侵入者の排除だ。
……もしかしたら、もうウパルパはやられてしまっているかもしれない。その場合は、ダンジョンを爆破して、ウパルパダンジョンを乗っ取った奴を始末してもらうしかない。
が、もしウパルパがまだ無事なら、ウパルパを救出。ウパルパを抱えてダンジョンを出てもらって、侵入者はまた別途始末、ということになる。
……液体窒素は、とりあえず閉所でぶちまけて相手を窒息させるのに使う。ウパルパダンジョンはそんなに天井も高くないし、そんなに広くもないんで、適当に天井を崩して道を塞いでインスタント行き止まりを作ってやれば、そこに追い込んだ敵をまとめて窒息させられるかもしれない。まあ、保険程度のもんだが。
或いは、ウパルパダンジョンにバーッと注入してもいい。……いや、シアン化水素を彼らに渡すのは、その、ちょっと怖かったので……ミシシアさんがうっかりでボンベお釈迦にしちゃったとしても2人が即座にヤバいことになるわけじゃないものを選んで持たせました。うん、怖いからね、科学のブツはね……。
さて。
こうしてウパルパの方はミシシアさん達に任せることとして……俺達は、こっちだ。
「じゃあ、冒険者諸君……今の状況を説明しよう」
俺は、エデレさんと共にダンジョン前受付広場で冒険者達に呼び掛ける。さながら、演説。
「今、この国の平和は悪の手によって脅かされている!悪の名は『教会』!以前、パニス村に来て乱痴気騒ぎを巻き起こした憎き大聖堂の連中の生き残り、そして、奴らが新たに集めた悪党どもである!更に奴らは、我らがラペレシアナ様の失脚を望む第二王子と手を組み始めた!」
いや、演説っていうか、プロパガンダである。俺は今、プロパガンダしている!めっちゃ!プロパガンダ!
「第二王子派閥が跋扈するようになれば、この国はおしまいだ!奴らは民の為に働くつもりなど無い!その手は絹の手袋に包まれ、泥にも血にも汚れることが無いのだ!我ら労働者のことを真に考えてくださるラペレシアナ様とその一派こそが、この国の指導者に相応しい!そうは思わないか!」
プロパガンダついでになんかちょっと左に偏り始めた気がする!まあいいか!
「同志冒険者よ!立ち上がれ!万国の冒険者よ、団結せよ!権力によって資本を貯め込み醜く肥え太ったあの豚共による破壊工作から我らの村を守り抜くのだ!今こそ愚かなる侵略者共の血で我らが旗を赤く染めてやる時なのだ!」
俺の頭の中になんか『我らが祖国のために』が流れ始めた!でもなんか知らんけど冒険者達は『やるぜやるぜやるぜ!』とノリノリである!まあそうだね!人を乗せられるからこそこういう演説ってのは強いわけだからね!
「同志エデレ!早速、彼らに装備の支給を!」
「え、ええ……ええと、じゃあ、参加してくれる人はこっちでポーションの支給を受けて頂戴ね」
「装備を支給された者はこちらの地図にて配置を確認せよ!万国の冒険者よ、団結せよーッ!パニス村を!冒険者と労働者の村を守るのだーッ!」
冒険者達から『やるぜーッ!』と雄叫びが上がり、俺は達成感とやる気に包まれる。
……さあ、パニス村ダンジョン防衛戦が始まるぜ!まずは……昨日からうちに潜り込んでる奴らを叩くところからだな!
「あの、アスマ様?なんだか斜めになっていないかしら?」
「あ、うん……さっきちょっと左に傾いちゃったから、右に傾いとこうと思って……」
……冒険者達が早速動き始めてくれたところで、俺は『司令部』と紙を貼ったダンジョン前受付にて、ちょっと右に傾いて座っております。
いや、うん。バランスって大事だからね。うん……。
パニス村の左傾化が危ぶまれたが、共産主義が生まれていないこの国においては『万国の労働者、団結せよ!』は特に特別な意味を持たないので大丈夫であった。よかったよかった。
が、しっかりとやる気と団結力だけは出たらしい冒険者達は、たちまちの内に『工作員』を捕らえてくれたのである。
……いや、こういう時にすげえなあ、って思うけど、冒険者達って、冒険者達のコミュニティがあるんだよね。だから、そのコミュニティの中に属していないのにパニス村ダンジョンに居る冒険者が居たら、まずは『あいつ見ない顔だな』って分かるらしい。
で、更に、『こいつ同業者じゃねえな』ってのも、分かるらしい。ついでに、『こいつ諜報員か』とか『こいつ多分兵士か騎士だな』とかも分かってくるらしい。
……なので、『こいつ怪しいな』も、分かるらしい。いや、なんか、持ち物とか立ち居振る舞いとか魔力のかんじとかで分かるらしいよ。
で、怪しい奴には積極的に話しかけに行って、『怪しいけれど怪しいだけのいい奴だった!今日から知り合い!』ってなるか、『怪しくて駄目な奴だった!絞めとこ!』ってなるか、っていうことらしい。
冒険者達って横のつながりが強いんだなあ。勿論、そんなの大聖堂の連中は知らんので、普通に尻尾を出して普通に捕まってしまったという訳である。流石の冒険者トラップ。最高だ。最高だよ。
で、大聖堂や教会や第二王子の関係者は全員牢にぶち込まれてもらって……彼らの監視は冒険者にお任せした。
えーと、よく『ようこそ!ここはパニス村だよ!』って村の入り口でやってる奴と、夜になると食堂で笛吹いて貰ったおひねりでその晩の飲食代を稼いでる奴と、俺が盆踊り教えたら『盆踊りの伝道師に俺はなる!』って言い出して冒険者引退しちゃった奴と、おやつ代わりにナイフ舐めてる奴。
ナイフ舐めの彼の最近のお気に入りはキャラメルソースらしい。ミュー乳とミューミャバターと砂糖を煮詰めたソースはパニス村のお土産としても人気。
……で、そんなイカれたメンバーの楽しい監視および牢屋前で行われる盆踊り大会はよろしくやっといてもらうことにして、残りの冒険者達は、男手のない元々のパニス村メンバーを守るべく、あちこちに配備されてもらう。
ということで、だ。
「うわああああ!?村にいきなり城壁が生えてきた!」
「生えたぜ!壁が生えたぜ壁が生えたぜ!」
「そうか生えたか。生えたなら守らねば……」
……冒険者達を大層驚かせちまったんだが、まあ、パニス村を囲むように城壁を再構築。村の入り口は3か所だから、そこ以外からは侵入されないように……ついでに、こっちが高所からの攻撃をできるように、工夫しておいた。
あと、壁の外周にはガッツリと深めの堀を切って、石材でツルンと舗装。堀を渡るための跳ね橋を完備。城壁にはバリスタを設置。完璧。
まあ、完璧ではあるんだが、冒険者達はこの突然の変化にめっちゃ驚いてしまっている。まあそうだね。ダンジョンパワーを間近に見たのは初めてだもんな。
「あーあー、諸君。驚かなくていい。今のも科学の力だから」
なので、俺はこういうしょうもない嘘を吐くことにした。まあね、この世界の人達、『科学の力ってすげーだろ!』って言っちゃえば、大体は『そうかこういうのもあるのか』って納得してくれるから……。
「知っているのかアスマ様!」
「うん、知ってる知ってる。ちゃんと科学によるものだからそんなに心配しなくていいよ」
「大規模な魔法に見えたよ!?」
「うん。発展した科学は魔法に見えるものです」
……実際、魔法なんだけどね。ダンジョンパワーなんだけどね。でもまあ、そうと知っちゃったら君達も大変なことになるから、これは全て科学の力によるものだってことにしておいてね……。
そうして俺達がパニス村各方面の準備を進めていたところ。
「アスマ様ー!なんか来たぜ!めっちゃ来たぜ!魔物が来たぜ!」
「そうかー!めっちゃ来たかー!」
……遂に、来たらしい。予想通り、モンスターの群れだ。つまり……周辺のダンジョンを既に乗っ取ったんだろうな。連中は。そこからモンスターを大量生産して、こっちに放流してきている、と。まあ、そこまでは予想通りだ。
で。
まあ折角だし……ここに戦力を割いたことを後悔させてやるぜ。
「じゃ、堀にガソリン撒こうか」




