ダンジョンハザード*3
ということで、タワー型ダンジョンは見事に吹っ飛んだ。
……窓も何もないタワーなんで全然わからんが、多分、内部に火気系のトラップがあったんだと思う。多分ね。
が、これは想定内である。
多分、タワーの中腹ぐらいまでが吹っ飛ぶだろうね、という程度の想定はしてあった。
……で、どうせダンジョンの主が居るのは最上階なんだろうから、現段階ではまだ、ダンジョンの主が生きているのかどうか、分からない。
「じゃ、ちょっと時間を置いて鎮火した頃に二回目いきますか」
なので……しょうがねえからもう一回やるしかねえ。
もう、『生かしておいて情報を抜き取る』とか言ってる場合じゃねえので、徹底的に潰しにいく!容赦はしない!今欲しいのは情報よりもスピード!そして……確実性だ!
はい。そして二回目の爆発を起こすため、2回目のシアン化水素注入が始まった。
が、流石に『これはまずい』とダンジョンの主が判断したんだろう。わらわらと魔物が出てきて俺達を邪魔しにかかってきた。
多分、最上階とかそこ付近とかの、俺達の探知範囲外で魔物を生み出した、んだと思うよ。まあつまり、俺達がここに居る分には、タワー全部のダンジョンパワーを封じることはできない、ってことだね。
スライム大好きお姉さんみたいに妨害の魔法とかを使えば話は違うんだろうが、そういう技術は俺達には無いのでしょうがない。
……で、出てきちゃった魔物については、ラペレシアナ様達が片付けた。バイク馬上槍をやるとうっかりの事故で漏れたシアン化水素に引火して俺達全員吹っ飛びかねないし、剣での処理にしてもらった。
が、ラペレシアナ様達に処理してもらわなきゃいけない魔物はそんなに多くなかったと思うよ。
「……火気が無くても、効く毒なんだったな」
「うん。これがシアン化水素のパワーだぜ」
何せ、シアン化水素の注入がまた始まってるからな。引火しなくても普通に死ぬから、魔物はダンジョンの外に出る前に死んでくれるってわけなんだよ!
「これなら安心だね!」
「うん!」
……まあね、こうやるのが一番、安全だからね。しょうがないね。魔物の数々、そしてこのダンジョンの主にはちょっとかわいそうなことをしている気がするが、しょうがないね……。
そうしてシアン化水素を注入し続けた結果、ある時から魔物が出てこなくなった。
「ダンジョンの主も死んだのか、それとも、魔物を出すのをやめただけか……判断のしようがないな」
「ね。まあ、念のためもうちょい注入しとこう」
……魔物を出しても無駄だ、と学習された結果なのか、それとも、魔物を出す人が死んじゃったのか。まあ、そのどっちかだとは思うんだけど、残念ながらそこを判別する方法はあんまり無い。強いて言うなら、ダンジョンパワーが使われればダンジョンの主が生きているってことになるんだけど、それを確認するためにわざわざダンジョンパワーを使わせるのもなあ……。
ということで、まあ、念には念を入れた注入でいきましょうね……。
……で、まあ、そのまま丸一日放置した。俺達は近くで野営した。ダンジョンパワーが使える状態にするのもアレなので交代で見張りを行って頂けた模様。ありがてえ。
「ふむ。流石にそろそろ、良いか」
で、まあ、『これは流石にもう大丈夫でしょ』ということで……。
「あ、じゃあ着火しまーす。皆さん離れて離れてー」
……タワー内部にニクロム線の先端を放り込んで、もう片方はずーっと伸ばして、タワーから大分離れたところで着火装置に繋いで……。
「じゃあいきますよー。3、2、1」
俺は、皆が見守る中、スイッチをガシャコン、と押し込んだ。
「ふぁいあ!」
結果、タワーが爆発した。
きたねえ花火だ。
「ここまで吹っ飛ぶとはなー」
「まあ、大分注入してたもんねえ……」
「これは、生存者は居ないだろうな……」
そうしてタワーが吹っ飛んでくれたおかげで、探索および換気が楽ちんである。吹き晒されてもらって、明日、本格的な捜索かな。
「ひとまず、ダンジョンの主の腕輪だけ見つかればそれでいいんだけどね」
「うっかり拾われちゃうと大変だもんねえ……」
今回の俺達の目的は、このダンジョンの無力化である。とりあえず無力化して、とりあえずダンジョンの主の腕輪を確保する。ダンジョンの主が新たに生まれる状況を潰し、同時に、大聖堂の連中が力を持つ可能性も潰す。というか、大聖堂の連中を潰す。そういうことである。
「奴らが死んだということは証明したいのでな。まあ、死体の一部でもあれば持ち帰りたいところだが」
「あー、国内にもまだ教会がありますもんねえ」
「ああ。そやつらに『貴様らの頭は爆死したぞ』と告げてやらねばなるまい」
……うん、まあね。国内情勢の安定も考えると、やっぱり死体は見つけないとだなあ。
多分、ダンジョンの主の腕輪は腕に付いた状態で見つかるんだろうし、となると、腕は見つかることになるだろうし……。
「ああ、アスマ様はそちらへ。爆発に巻き込まれて吹き飛んだ死体など、見ていて楽しいものではないのでな」
が、そこで俺はラペレシアナ様からやんわりと休憩および退避を勧められてしまった。いやいやいや、いくら小学生ボディだからって、働かねえわけにはいかないですよ。ねえ?
「えっ、いや、俺も手伝いますよ」
「俺からも頼む。アスマ様は向こうに居てくれ」
更に、リーザスさんにもそう言われちゃったので、俺は『ここで働かせてください!』とどう主張するか悩む。もしかして、俺みたいなのにグロい死体とか見せたくない、っていう気づかいか?俺、気遣われちゃってるかんじか?
いや、確かにグロ耐性、あんま無いけどさあ!死体を直視しちゃったら、俺がここを爆散させちゃったことについて、色々と深く考えちゃいそうだからありがたいのはありがたいんだけど、申し訳ないのも申し訳なくてぇ!
……だが。
「その……瓦礫の撤去に巻き込みそうだ」
「おおう……」
……向こうの方では、王立第三騎士団の騎士達が『そっちやるぞ!せーの!』と勇ましい掛け声と共に、バカデカい瓦礫をぶん投げていた。
成程ね。確かに彼らのファンタジーパワーが飛び交う中に居たら、俺、死ぬわ!
ごめん!じゃあ俺は休憩してます!後はよろしく!マジでごめん!
そうして俺は車の中でうとうと寝たり、スライムをもにもにやったりして過ごした。
時々、作業を中断して休憩に入る皆のためにお茶の準備とかはした。これくらいはね。しないとね。
で、俺自身はダンジョン爆散現場をあまり見ることなく、ただのんびり待たせてもらって、車の外からは時々『おっ!こいつは重たいな!気合入れていくぞぉー!せーの!』とかそういう掛け声が聞こえてきて、直後、何かが破壊されるデカい音が響いてきたりなんだりした。ファンタジー瓦礫撤去は、マジファンタジー。
……で、結果、その日の内に見つけるべきものが見つかった。
要は、大聖堂の連中の死体の一部と……『ダンジョンの主の腕輪』である。
「さて。これをどうするべきであろうか。……リーザス。着けるか?」
「ご冗談を」
さて。こうして手に入ってしまった『ダンジョンの主の腕輪』だが、これをどうするかがまた問題である。
ラペレシアナ様が手の中で弄ぶようにして腕輪を観察しておられるが、これ、下手な使い方するとマジで人が死ぬやつだからな……。
「ふむ……となると、私が適任か」
「えっ冗談ですよね!?」
が、いくら下手な使い方はできねえっていっても、ラペレシアナ様をダンジョンの主にしちゃうわけにはいかないでしょうよ!ということなのである!俺もリーザスさんも大慌てでラペレシアナ様の手から腕輪を取り上げた。冗談でもビビるんでやめてね!やめてね!
「これ、腕輪を誰も身に着けずにそのまま保管しておいたらどうなるんだろうねえ」
「分からんね。誰もダンジョンの主になれない状態になることを、ダンジョンは望んでないと思うし……となると、下手すると新たな腕輪がダンジョンから湧き出したりするのかもしれないし……」
「ええええ、こわいねえ……」
ダンジョンの主をやっている俺としても、ダンジョンが何を考えているのか分からない。
『ダンジョンは主を待っている』んだから、ダンジョン自体にも自我というか、なんというか……まあ、なんかはあるんだろう、と、思う。何かの目的があって、それで、ダンジョンはダンジョンに主を設けて、それで、ダンジョンを運営させてる。そういうことだと、思う。
なんだけど……だからこそ、この腕輪をどうするかは、困る、んだよなあ……。ダンジョンに意思があって、俺達に何かさせたいっていうんなら、腕輪が予期せぬ挙動をする可能性、高いし。それこそ、本当にリポップするかもしれん。
俺達としては、『新たなダンジョンの主の発生』はとりあえず止めておきたいので、ここでダンジョンの主の腕輪のリポップとか起きると最悪なのである。よって、この腕輪、どうにかしないといけないんだが……。
「……やっぱり俺が兼任するのが一番かな」
俺は、そう、覚悟を決めた。
「或いは、スライムを片っ端からダンジョンの主にするか……」
俺は、そっちでも覚悟を決めた。




