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ちび神様の楽園ダンジョン  作者: もちもち物質
第三章:ダンジョンは世界を飛び越えた!
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スライム親善大使*2

 さて。

 ということで、俺はスライム大好きお姉さんを一旦スライム農園から引っぺがして、滅茶苦茶恨みがましげな顔を向けられつつ、『まあこれでも揉んで落ち着いてもらって……』と、そこらへんの小ぶりなスライムを一匹渡した。スライム大好きお姉さんは大人しくなった。

 スライムは揉まれつつ、『まあこれはこれで……』みたいな落ち着き方をしている。すまんなスライム。世界平和のために揉まれてくれ。


「俺達としては、これをエルフの国との交渉材料にしたいと思ってる。多分、あんた達のところにこっちの元大聖堂の連中が『祝福』の技術を持って何か交渉してるだろ?」

「うん」

「俺達としては、エルフと元大聖堂の連中がくっつくのは避けたいんだよね。だから、『祝福』の上位互換になり得るこのスライム農法の技術をエルフに提供することによって、そこらへんの融通を利かせてもらいたい。詳しくは王女殿下から聞いてもらいたいところだけど」

 俺が勝手に交渉を進めちゃうのもまずかろうとは思うので、一応は線を引きつつ、スライム大好きお姉さんに『一応こういう意図ですよ』というところを説明していきたい。

「で、一方のエルフの方は、ダンジョンから溢れてくる魔物を何とかする手段をこっちに求めてるんだよね?」

「そう。ダンジョンの奥に世界樹がある例なんて聞いたことが無い。どうしてダンジョンの中に世界樹の許可が下りたのか、それも分からない」

 成程ね。スライム大好きお姉さんも、こっちにちゃんと情報を流してくれるってことは、ちゃんと交渉したり折衝したりする余地があるってことだ。ありがてえありがてえ。

「……まあ、ダンジョンのアレコレについては、運が重なった部分がかなり大きいから、エルフの里にそのまま技術提供って訳にもいかないと思う」

「そう……」

 スライム大好きお姉さん、一応は真面目にそこらへんも考えているらしい。ちょっと考えて、それから、じっと俺を見つめてきた。

「それは、安全にかかわることだから?」

「うーん、技術的に確立できてなさすぎるってのがデカい。あと、不明点がかなり多いんで、そもそも実例しか手元にない、ってかんじだな。理論は構築できてない。そんなかんじ」

 適当に嘘吐きつつ誤魔化せば、スライム大好きお姉さんは一応、納得してくれたらしい。

 ……ダンジョンを支配できることをエルフに知られるとなんか厄介なことになりそうなので、少なくとも今は隠しておきたいんだよなあ……。うーん、でもなあ、実際、今現在、エルフの里付近のダンジョンでは魔物がもりもり出てるらしいし、そこがなんか変になってる可能性は、十分に考えられるしなあ……。

 そっちで、嫌なことが起きてなきゃいいんだが。


「ちなみにエルフの里の状況的に、スライム農法の技術はほしいかんじなの?それとも割と要らない?」

 まあ、エルフ達の目的はダンジョンをどうにかすることだとは思うんだけど、こっちが出したいのはスライム農法なんだよね、ということで、一応そっちの需要も聞いてみる。相手が欲しくないものを渡しても意味がないからね……。

「欲しい。植物が死に絶えかねないから」

 が、こっちはかなり食い気味にお返事をいただいた。おお、需要があるのか。それは何より。

 ……『かわいい』以外の理由がちゃんと出てくるところにびっくりだぜ。このスライム大好きお姉さん、まともな面もあるのか……。

「ダンジョンから出てくる魔物が、森を焼き始めている」

「ワァオー」

「食料も危ない」

「ワァオー」

 ま、まあ、そういう事情ならこうもなるわな!うん!

 ……逆に、なんか色々、分かってきたぞ。

 多分、エルフの国って今、史上最大級に国難で、それを乗り越えるために方々で優秀な人材を使い回ししないといけなくて……結果、『世界樹の嘘を確かめて元大聖堂の連中を詰める材料を得る』っていう仕事には、こういうお姉さんが回されてきたってことなんだな!オッケー!理解!




 そういうわけで、スライム農法の需要はありそうなのでひとまず安心。

 ……が、逆に気になってきているのは、その根本の原因の方だ。

「えーと、ダンジョンから湧き出てる魔物は、農地を焼いてるってこと?」

「まあ、そう。……エルフはあまり、農地を持たない。森の恵みによって生きている」

「成程ね。農耕じゃなくて採取中心の生活なんだね」

 森の民らしいと言えばそうなんだが、俺としては『マジで!?効率悪っ!』という感想しか出てこねえ。なんだよなんだよ採取中心の生活って縄文時代じゃあるまいし!

「だからエルフは森を大切にするし、エルフが守る森の実りは多くなる」

「あー……成程。そういうのがあるのね」

 が、エルフはエルフで、それなりに技術を持っているんだとは思う。採取生活だけで安定して暮らせるような何かが無いと、そもそも長生きできないはずだし。多分、『祝福』とはまた違うにせよ、植物にやる気出させる魔法とかは使えるんでしょうね。多分。

「えーと、まあ、それで、森を焼かれると食料問題に直結する、と。そういうことか」

「そう」

「そこに、元大聖堂の連中が『祝福』の技術を持ってはせ参じた、と」

「そう」

 ……うん。

 俺が危惧してるのは、ここなんだけどさ……。

「それ、元大聖堂の連中が、あまりにも都合よく現れてませんかね」

「私もそう思う」

 ……まさかとは思うが、元大聖堂の連中が、マッチポンプをやろうとしてるんじゃ、ねえだろうな。

 つまるところ……元大聖堂の連中が、ダンジョンの主をやってて、そのダンジョンパワーを利用してエルフの森を焼いてる、とか、そういう訳じゃねえだろうな、という……。




 まあ、ここはまだ憶測でしかないので置いておく。慌てるにしても、俺じゃない人が慌てるべき部分だしな。あわわわわわ。

「ま、そういうことならスライム農法は対症療法としては有効じゃねえかな。スライムさえ用意すればなんとでもなるし。あっ、勿論、この後の話は王女殿下を挟んで行わせてもらうよ」

「うん」

 ということで、スライム大好きお姉さんとの意思の疎通はなんとかクリアってかんじだな。向こうの事情ももうちょい色々分かっ……あれっ、エルフ側としては、『ダンジョンから魔物がワサワサ出てきて食糧難』っていうところは明かしちゃってよかったんだろうか?

 ……まあ、明かされちゃった以上は知っちゃった訳だが、もしエルフ側が隠したい様子だったら、こっちも知らないふりしておいた方がいいかな。じゃないとこのスライム大好きお姉さんが怒られるようなことになって可哀想だし……。


 さて。

 スライム大好きお姉さんには、『じゃあスライムによるオイルマッサージを楽しんでくださいね』ということで、スライムマッサージ券をプレゼントしておいた。その瞬間、喜び勇んでスライムマッサージを受けに行った。いってらっさい。

 じゃ、後はラペレシアナ様と相談の上、エルフ側との折衝の機会を頂くように漕ぎつける、ってことで……。




 俺達は早速、ラペレシアナ様の所へレッツゴー。

 ラペレシアナ様は現在、パニス村での休暇を堪能しておられるところだ。激務続きだからね。温泉と食事と酒とスライムでしっかり疲れを取って頂きたい。

 が、そんなところに仕事の話を持ち込んで本当にすみません。でもこの国の一大事なのでご勘弁頂きたい。

「という訳で、エルフ側の事情がちょっと分かっちゃいました。これ、分かっちゃわない方がよかった奴ですか?」

「……まあ、エルフの里からの文書には無かった内容であるのでな。一応、エルフ5人全員が一堂に会した状態で、改めて向こうから言ってもらえるとよいか」

 まずはここの点の共有から。スライム大好きお姉さんのうっかりなのか、そうじゃないのかが分からない以上、まあ、それは向こうの出方待ちってことにしておこう。多分、リーダーの人がなんかうまいことやってくれると思う。やってくれなかったら流石に切り込むけど。

「しかし……向こうがダンジョンの制御方法について知りたがっているとはな」

「ダンジョンの中に世界樹があるっていうところで、『ならダンジョンを好きにできるってことでは!?』っていう発想に至ったらしいです」

「まあ、そうか……。私は生憎、世界樹の生態には詳しくないのだが……土地の許可が無いと植えることができぬ、とは聞いたことがある」

 うん。ミシシアさんがそういうこと言ってたから多分、そこは間違いないんだと思う。だからこそ、ミシシアさんは世界樹を植えられる場所を探していた、ってことらしいし。

 ……ということは、土地って純エルフじゃないハーフエルフには土地の許可を出さないことが多い、ってことなんだろうか。だとするとなんか、土地にも意思があるのか?とかそういう話になってきちゃうけど、まあそこは置いておこう。

「ダンジョンの主の座を奪うことができる、という点については、伏せておきたいところだが……既に知られているような気もするな」

「あ、やっぱりそう思われます?俺もそう思います。その、エルフに、じゃなくて、大聖堂の連中に、というか……」

 俺達が真に考えねばならない部分は、ここなのである。

 どうも、ダンジョンがおかしい、となると……俺達が辿り着いちまった真実に、敵側も辿り着いていないか?という、そこを気にしなければならない!




「まあ、調査は必要であろうな」

 ということで、結論はこうなる。まあ、知ってた知ってた。

「エルフ側の調査結果があるならありがたいが、エルフ側はエルフ側で隠匿したがる情報もあろう。……ならば、王立第三騎士団が直々にダンジョンを踏破しにいくか」

「危険すぎません?むしろ、相手が大聖堂の連中ならそれこそが狙いかもしれませんし」

 相手が分からないし狙いも完全に見えてるわけじゃないし、ラペレシアナ様を動かしちゃうのはかなり危ないと思うんだよな。

 特に、相手がマジでダンジョンの主になっちゃったっていうことなら……マジで何でもできちゃうわけだし。こう、俺みたいに、ね。

「しかし情報は欲しいな。……となると、エルフ頼み、ということになるが……」

「まあ、それが妥当な気はしますけど、エルフは現時点でダンジョンの制圧ができてないからこそ、今の状況になっちゃってるんですよね……?」

「ああ、そうだな。まあ、そのあたりは親善大使5人に聞いてみるのがよかろう。……大方、魔物の数が多すぎて、ダンジョン内部にまで手が回らん、というような状況であろうとは思うが」

 うんうん。成程ね。まあ、エルフにとっては食料と住居どちらも兼ねる森ってもんが、ダンジョンの侵略によって失われている、ってことらしいので……大元を叩く余力はない、ってことかもね。


「生活再建および森の再生については、うちのスライム農法で技術支援できると思うんですよね」

「ああ。それをちらつかせて交渉に臨むことはできる」

「それから、生活物資は俺が出せます。運搬はお願いすることになりますが、ある程度はエルフに恩が売れるかと」

「よいのか?アスマ様がそう仰るなら、お言葉に甘えるが……」

 俺は考える。『エルフに恩を売る方法』を。

 ……現状、エルフが困ってるっていうかなり珍しいであろう状況なわけで、ならば、これを見逃すのは惜しいと思うんだよね。

 何とかして恩を売って、協力を取り付けておきたいんだけど……。

「そこまでして恩を売ったところで、エルフだぞ?人間を対等な相手だとは思わぬ連中と付き合っていくのは、まあ、必ずしも良いことばかりではないように思う」

 ラペレシアナ様はちょっと、エルフへの印象が悪いご様子。まあね。ああいう文書送ってきちゃう連中だからね。それを『エルフにしては礼儀正しい』とか思ってやる必要は無いと思うよ。うん。

 けどなあ……やっぱり俺としては、ダンジョンが気になる。

「協力体制を構築しておきましょう。ダンジョン潰しに協力させないといけなくなるかもしれないですから。……ダンジョンをエルフが調べたら、ダンジョンの主の座は奪えるものだとバレる訳ですし、協定は結べるようにしておくべきかと」

「そうか……ふむ」

 ラペレシアナ様は悩む。俺も『どうしたらいいんだろうなあ』と思いつつ……。

「ならば、エルフにダンジョンを調べさせず、こちらの手の内で握り潰すべきではないか?」

「まあ、それでも恩は売れますけど、やっぱり戦闘をこっちが引き受けるっていうのは危険ですし、エルフが1人も同行しないとは思えないですし……」

 やっぱりね、俺としてはリスクを減らしたい。特に、このパニス村は戦争の影響で寂れていた村なわけで……戦闘によるリスクを呼び込みたくは、無いよなあ、と思う。

 確かに、人間サイドでエルフの里のダンジョンを潰せちゃったらベストではあるんだけどさ。それを実現するにあたって、どうしたって死傷者のリスクはあるし、エルフ側としては安全保障の問題があるから安易に人間だけに任せることはしたくないだろうし。

 で、エルフを置いてけぼりにしてダンジョン攻略するってのはかなり難易度が……。


 ……いや、待てよ。

 エルフが同行しない方法が、ある。

 ついでに、ダンジョン制圧を、できる限り安全に行える。

 だが……だが、それは問題になっているダンジョンの形状によっては使えないし、そもそも、こう……色々とまずい、んだが……!


「あー……俺に、いい案があります。が、やべえ案です」

「ほう。聞こう」

 ラペレシアナ様が大層ご満悦の表情にあらせられるのを見て、俺は覚悟を決めた。

「えーと、相手のダンジョンの形状によっては、ダンジョンに立ち入らないままダンジョンを仕留めることができます」


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― 新着の感想 ―
エルフ、なんていけ好かない連中なんだ。 高慢ちきだし、好戦的だし、裸族だし。 パンツを履くことが常識、という教育をすべきでは!
形によっては、のところで、水責め…スライム水責め…スライム埋め…が想像してしまいました。水責めじゃー
出入口前でファイヤーかなあ
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