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ちび神様の楽園ダンジョン  作者: もちもち物質
第三章:ダンジョンは世界を飛び越えた!
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ダンジョン曰く吠えよエルフ*8

 それからエルフ残り4人も、順番に世界樹まで案内した。

 尚、エルフ達は大体全員、絶叫マシンの類が駄目であるらしい。絶叫してた。結局、一番手だった寡黙な弓エルフ以外は全員、声出てた。泣きそうだった杖エルフと、やかましい方の弓エルフはマジで絶叫してた。いいぜいいぜ。どんどん吠えろ。はっはっは。

 ……うん。なんかごめん。でもミシシアさんは楽しそうだったからヨシとしてくれ。


 ……で、肝心の反応だったんだけど、ま、それなりに納得のいくモンだったかな。

 やかましい方の弓エルフと泣きそうだった杖エルフはそれぞれ『信じられない!』って滅茶苦茶驚いてたけど、それでも、『これだけの世界樹が育っているんだから、ミシシアさんの腕は確かだということになる』というところまで、回りくどく、渋々認めてくれてた。本人達はちょっとショックだったみたいだが、ミシシアさんが嬉しそうだったのでヨシとする。

 尚、リーダーエルフはもうちょっと重く受け止めたらしくて、『エルフの誇りとは一体……』みたいなアイデンティティの危機に陥りかけていた。が、そこはミシシアさんとちょっと話して、色々と受け止めてくれたみたい、である。

 ……ミシシアさん、俺はあんまり聞かないでおいたけど、色々話したらしいよ。

 自分がエルフの里を追い出された時の気分とか。この村で頑張っていこうと思った時の事とか。あと、世界樹を大切に思っていて、同時に、世界樹があるこの土地も大切で、ここに居る人達のことも大切なんだ、とか。

 それから、『私はもう里には帰らないよ』とも宣言したらしい。『ここに居て、幸せに過ごしてるから!』とも。

 ……リーダーエルフは、なんか思うところはあったっぽいね。まあ、今すぐ色々改めろっていうのも無理な話だろうし、徐々に、何か変えてくれたら俺は嬉しいよ。




 で、その後はそれぞれエルフ達5人を別の部屋に閉じ込めて、そこで5人全員に手紙を書いてもらった。別々の部屋に閉じ込めてあるからそれぞれ相談は無し。

 で、それぞれに手紙を書いてもらったら、検閲開始。

 ……検閲することは予め言ってあるので、大体のエルフがかなりまともな文面を書いていた。

 内容としては、『世界樹の嘘を確認しようとしたところ、人間が思いの外強く、捕虜にされた。世界樹の存在は確かにこの目で見た。判断を求む。』みたいなかんじかな。

 まあこれなら修正無しでも大丈夫かな、と思われる。一応、同じ文面で別の紙に書き直させた上で、それを出そうかな。なんか便箋自体にファンタジーパワー注入とかされてたら厄介だし。

「で、これが、なあ……ちょっとなあ……」

「……エルフの中にも、アスマ様のような奴が居るんだなあ」

「えっ?リーザスさんちょっと待って。なんか今聞き捨てならないことを言われた気がする!」

 ……で、俺達が唯一、頭を抱えているのが……この一通。

「ああ、あの人はね、魔物の学者をやってるエルフだから……報告文も、こうなっちゃうんだと思うよ」

「いや、それは分かる!分かるんだけど、俺みたいな奴っていう評価が非常に気になるところだぜリーザスさん!」

「こう、何かに向かって一直線なところが、なんとなく……」

 ……俺達が頭を抱えつつ見ている、この一通。それは、スライム大好きお姉さんが書いた手紙である。

 このお姉さん、なんと!何を思ったか、自分が捕虜にされたことも、世界樹云々も、ろくすっぽ手紙に書いていないのである!

 ただ、『パニス村には素晴らしいスライムがたくさん居る。他の地域で見られるスライムとは大きく性質が異なり、温厚で、人を襲うことが無い。触り心地がよく、べたつかず、賢い。温泉に浸けたり揉んだりするとスライムはこのようになるとのこと。非常に興味深く、引き続き実地での調査を希望する。ところで捕虜になった。』とか書いてある。

 いや、もうちょいちゃんと救援を求めてくれよ。何なんだよ。あんた、マジでなんなんだよ!


「……これ、何か狙いがあると思う?」

「うん。多分、ただスライムを見ていたいだけだと思うよ」

 マジでぇ……?あのお姉さん、1人だけやたらクレイジーじゃん……?

「何故、エルフはあのような人を調査隊に入れたんだろうな……」

「だってあの子、優秀だし……ほら、妨害の魔法の範囲、ものすごく広かったでしょ?アレができるエルフは一握りだよ!」

 あ、そうなんだ……。成程ね。優秀な人材を5人選出したら、滅茶苦茶変な人が1人、紛れちゃった、ってことか。

「優秀な人って、変な人、多いよね!」

 うん。それはまあ、ちょっと同意する。……なんでだろうね。でも実際、そういう人、多いよね……。優秀さと変人さは紙一重、っていうか……。


「ま、スライムに興味を持ってくれる状況はありがたいね。それを材料にして交渉するきっかけが得られる」

「えっ?スライムを触らせてあげるから人間の国を襲わないで、っていう?」

「まあ、最終的にはそうなるんだろうけどね……その前段階よ」

 ひとまず、あのクレイジースライム大好きお姉さんの存在は俺達にとっては朗報なのだ。あんな変な人でも、朗報なのである……。

「スライム農法をエルフに伝授する。そして、教会の連中との手は切ってもらう!エルフ達をむしろ味方につけて、『その元大聖堂の連中、こっちに寄越してください!処分します!』ってやる!」

 何せ、俺達側が出せる交渉材料を受け取ってくれる相手だろうからな!




 はい。ということで、俺達作戦会議中。エルフ達は暇そうなんで、折角だしミューミャも見せてやることにした。ミューミャはミューミュー言いながらエルフの周りを飛び回っています。

 尚、スライム大好きクレイジーお姉さんはミューミャは『かわいいね』ぐらいで終わった模様。

 が……寡黙な弓エルフが、ミューミャの手触りを気に入ったっぽい。なんか、ずっと撫でてる。ミューミャも撫でられ心地がいいらしくて、ミューミュー言いながら撫でられに来る。これがまた可愛いもんだから、そりゃ無限ループですね。

 ……あの、もしかして、エルフ達って全員、どっかしらか変ですか?


 で、そっちはそっち。こっちはこっち。はい。

「スライム農法って、エルフにとっても価値ある情報かな」

「うん。そうだと思うよ。私だって初めて見たもん、こんなの……」

 うん。まあ、スライムの脳天にトマト植える人はこの世界に居なかったっぽいからね。なんで居なかったんだろう。まあ居ないか。俺も変な人だからな。しってたしってた。

「で、エルフ達は既に、元大聖堂の連中にはちょっと嫌な感情が芽生えてるっぽいよね」

「まあ……エルフは人間嫌いが多いからなあ。その時点で多分、かなり厳しいと思うよ……」

 そこの是非は置いておくが、今回は好都合ではある。是非は置いておくが。是非は置いておくがな!

「なら、少なくとも大聖堂とエルフの共同戦線にだけは持ち込まれないようにしよう。そこだけはまかり間違っても達成させてはならない!」

 大聖堂および第二王子派がエルフと手を組むようなことになったら、滅茶苦茶めんどくさい。既に、エルフがファンタジーパワー強者であることは確認済みだ。こんなんがボコボコ来たら流石に困る!


「ついでに……可能だったら、エルフをこっち側に引き込みたいんだけどね。それは無理か」

 まあね、理想を言うなら、『敵にならないで!』じゃなくて、『味方になって!』が理想なんだけど、それは流石に厳しいってのは分かるぜ。

「うーん……」

 ……が、ミシシアさん、何か真剣に考え始めた。

「……あんまり、良くない考えなんだけれど……」

「どうぞどうぞ良くない考え大歓迎」

「今、ここに居るエルフ達だけなら、味方になってくれるかも。その……彼らが、エルフの里から『もう用済み』ってされちゃうかもしれないことを考えると、ね?」




 はい。

 ということで、俺達はラペレシアナ様に事情を説明する手紙を送り、相談の上、ラペレシアナ様からの書状を添えて、エルフの捕虜5人の手紙をエルフの里へと送った。

 その返事待ちの間、エルフ5人はパニス村預かりってことにして……ならば、この機会を無駄にするわけにはいかない。

 だから俺達は、布石を投じておくことにした。

 即ち、『もし、ここの5人のエルフ達がエルフの里に捨てられるようなことがあったら即座に回収できるように!また、エルフの里が万一こっちと友好関係を結ぼうとしてきた時には即座に橋渡し役をお願いできるように!』ということである。

 ……要は、パニス村のアピールタイムだ。俺達およびパニス村、そして人間によい印象を持たせて、彼らを上手くこっちに引きずり込む!そのためには多少の手間と出費を惜しんではならない!

 これでも駄目だったらその時また考えればいいさ!まあその時はその時で、化学兵器をぶちかますことになっちまうだろうけどな!そうならないことを祈ってるぜ!


「ではあんた達には今日からここで生活してもらう。悪いが、ここから出すことはできないぞ。下手に自由にさせといて村を焼かれでもしたら困るし」

 で、俺はまず、ダンジョン内部……というか、まあ、パニス村の地下300m以上の深さに、エルフ達のための貴賓牢を作った。

「……ここが牢か?」

「え?うん」

 まあ、牢とはいえ、ここはしっかり貴賓牢!しっかりバッチリ、いい待遇なんだなあコレが!

 まず、地下とはいえ、息苦しくないように中庭を用意した。……中庭は高さがそこそこあって、植物も生えている。天井にはジェネリック君から抽出した光る魔力を使ってちゃんと明るくしてある。さながら、自然の中のようだ。

 で、そんな中庭に面した部分にしっかり水晶ガラスの窓を設けてあって、採光に気を遣ったこの部屋が、エルフ達の貴賓牢です。

 牢の中にはパニス村名物の麻織物を使ったフカフカベッド。書き物机や椅子も使い勝手の良いものを用意してある。エルフは木材が好きらしいから、木材から再構築で作ってやったぜ。

 更に、中庭を挟んで反対側にある温泉。これがまた我ながら良い出来である。

 露天風呂のようであって室内風呂、という不思議な空間に仕上げてあるんだが、滝のように高い位置から岩を伝って滾々と落ちてくるお湯は中々良い眺め。更に、その露天風呂風の風呂の他にも、ちゃんと室内風呂風の室内風呂を完備。そっちは薬湯にして、香りやお肌すべすべ効果を楽しめるようにしてある。

 そして、食堂を準備した。食事は1日3回の提供だが、その他に、ハーブティーと酒類はいつでも楽しめるようにしておいた。

「……何故、このような待遇を?」

「そりゃ、世界樹を見てもまだミシシアさんをバカにするようならドブに突っ込んでやるところだったよ。でもお互いに尊敬できる部分があってちゃんとやり取りする気があるんならちゃんとした待遇にするよ。当然でしょ何言ってんの……」

 エルフ達はぽかんとしていたが、まあ、悪い気はしていないようである。更に、中庭にはスライムがもっちりもっちり散歩中だったのだが、それを見たスライム大好きお姉さんがそっと中庭に出て行ったのを見て、他のエルフ達も、恐る恐る、この閉鎖空間の中を探索し始めたのであった。


 ……弓エルフは寡黙なのもうるさいのも、酒が好きみたいで、ちょっと歓声を上げてた。そこへすかさずミシシアさんが行って、『これ美味しいよ!これ美味しいよ!エルフの里には無いお酒だよ!』とアピールを始めている。

 尚、ミシシアさんのおすすめは林檎を漬け込んだウイスキーである。ちょっと蜂蜜を足しても美味しいそうだ。まあ、その美味しさは俺にも理解できちゃうぜ……。

 で、備え付けのこじんまりとしたカウンターで、ミシシアさんが勧めてくれる酒をちびちびとやり始めた弓エルフ2人組は、早速、なんか『人間が作る酒も悪くないね……』みたいな顔になってきていた。

 よし。


 続いて、泣きそうだった杖エルフ。彼女はこの状況に戸惑いつつも、『全く、どうして閉じ込められなきゃならないのよ……』と文句を言っていた。

 なのでここは俺が、『おねーさん、折角だから寝る時にこれ寝具に使ったらいいよ。パニス村の特産品だぜ。いい匂いするぜ』と、アロマウォーターを一本プレゼント。

 ……この世界において、香油ってのは高級品だからね。だが、パニス村においては植物の生育速度がアホ程早いのと、俺が水蒸気蒸留をさっさと伝道しちまったのとで、かなりお安く精油が得られるようにはなっている。

 そして、精油を抽出する過程で生じるアロマウォーターは、まあ、精油のなりそこない部分なので、実にお安く提供することが可能な『パニス村土産』として有力なアイテムなのである。特に、女性は酒よりこっちをお土産に買っていく人が多いね。

 ……で、このアロマウォーター、ちょっと一吹きするといいかんじにいい匂いになるので、まあ、そういう用途でどうぞ。

 こちらのエルフのお姉さんは、これがお気に召したらしく、ふかふかベッドでぐっすりお休みになっておられる。よし。よく寝ろ。


 そして……リーダーエルフと、スライム大好きお姉さん。彼らは中庭でスライムを楽しんでいる様子であった。

 いや、リーダーの方は、スライムはあくまでも『こいつは一体何なんだ……?』の対象であって、『かわいいかわいいかわいい!』っていうかんじではないが。

 特に、リーダーエルフはスライムをもちもちやりながら、リーザスさんと話している。リーザスさんは比較的落ち着いた様子の人間なので(そりゃ、俺とミシシアさんが比較対象だからね!)喋りやすいらしい。

 リーザスさんはリーザスさんで、まあ、ちゃんとした人なので、エルフ相手に色々雑談しつつもさりげなく情報交換したり、さりげなく相手の要望を聞き出したりしてくれている。

 ……優秀すぎる!


 尚、スライム大好きお姉さんの方はひたすらスライムを揉んだり、つついたり、観察したり、スケッチしたり、なんか論文書き始めたりしていた。

 で、時々、俺を捕まえてスライムの話を聞きたがったので色々話してみた。その結果、俺も気に入られた。俺もスライムと一緒に撫でられることになってしまった。どうしてこうなった!




 ……と、こういう風にエルフ達5人は、そこそこ穏やかに捕虜生活を送ってくれた。そして、俺達とは割と打ち解けた。……打ち解けちゃった。

 人間風情と打ち解けちゃって本当にいいんですか?とも思うんだが、どうも、彼ら曰く『人間にしては見どころがあるので』とか言いつつ、ちょっと気まずそうにしているので、なんか思うところがあったのかもしれん。

 1日3回、食事を持ってきてくれるエデレさんにも穏やかに接してくれているし、彼ら自身、少なくともこの村を潰すのは惜しい、ぐらいには思ってくれている様子である。

 なので、まあ……ひとまず、この5人に即座に敵対される、ってことは、無い、と思われる。何だろうなー、エルフって、排他的だけど、一度懐に入れちゃったものに対しては甘い性質っぽいんだよな。うーん。

 まあ……それ以上に、ここで過ごさせてる内にね。彼らの事情も色々と見えてきちゃったんでね……そういうのもあって、俺は今、少なくともこの5人のエルフについては、割と話が通じる相手だと思っている。


 その……どうも、エルフ達はエルフ達で、ちょっとお困りらしいよ。……主に、『ダンジョン』ってもののせいで。



 10日後。

「さて。エルフの里から書状が届いたぞ」

 ラペレシアナ様がバイクに乗ってパニス村へお越しになった。

 ……さて。何が書いてあることやら。

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― 新着の感想 ―
本当に打ち解けたんでしょうか。 スライム沼とパニス村沼に頭のてっぺんまでどっぷり浸からせて洗脳した気もw 若干1名、進んで沼ったようではありますが。
エルフの中にはウーパー好きもいるかもね。もしかしたらwそうなったら、パニス村はもう動物園で遊園地で最高の場所になっちゃうね
魔法が自らの「かくあれかし」を魔素を使って世界に押し付けるものだとするなら……「妨害」という形で世界を押し通すには、立場とか気にしないぐらいとんでもなく我の強い人でないといけないのかもしれませんね………
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