剛力傭兵貴公子はやけハチミツ酒。
さて……依頼業務も終わったし、料金でももらってかえるか……
リンの事もあるしあんまりあけたくなかったんだが……指名ならしかたないな。
オレは武器エモノの水の属性魔法のかかった大斧グレートアックスを背負ってグーレラーシャ傭兵ギルドの扉をくぐった。
ファモウラ軍国での小競り合いに駆り出されて、なんとかかたずいたが…あのデートから一月か…リンに本気だと伝えて抱き上げないとな。
夕方だと言うのにいつも通り傭兵ギルドは賑わっていた。
特に受付カウンターがにぎやかのようだ。
「おかえり、剛力のカイレウス」
顔見知りの傭兵が声をかけてきた。
「エレサウスか?久しぶりだな」
オレは白いフワフワ巻き毛のミツアミの男に微笑んだ。
「ファモウラ軍国の小競り合いは早めに終わったみたいだね」
エレサウスが言った。
エレサウス・ゲルアシュアゼ、このウサギのような髪の傭兵は実は侮れない男だ、竜族にすかれていて竜人のパートナー兼恋人と常に行動を共にしている…抱き抱えてないな?
「今日は紅花嬢はいないのか? 」
オレは受付カウンターの順番発券機で券をとりながら聞いた。
「ホンちゃんは実家の用でギアムシュ竜連邦にいってるんだよ。」
寂しそうにエレサウスが順番発券機で券をとりながら言った。
「そりゃ寂しいな。」
愛しい女がこのうでにいないのはグーレラーシャの男として異常事態だからな。
「そうだよな~、ホンちゃん冷たいよな、男の生殺しだよな。」
エレサウスが本当にガックリしていった。
そういえばこいつの妹のサリアノーレ嬢は王宮警護官だったな、リンの事を知ってるかもしれないな。
「お前の妹のサリアノーレ嬢だが王宮警護官だったな」
オレは番号表示画面モニターに視線を向けていった。
「うん、うちのラブリーチャーミングなサリアは王宮警護官だよ、紹介してほしいな僕を倒してからにしてね。」
エレサウスが眉をつり上げて言った。
こいつはシスコンだったな、そう言えば…。
「別にサリアノーレ嬢に求愛などしないが……後輩にリンレシナ・ファウルシュティヒという警護官がいるはずだが……」
オレは番号表示画面モニターに自分の番号がでたのを確認して受付に行きながら聞いた。
「リンレシナ・ファウルシュティヒ…あれだね、メルティウス殿下に求愛されたという」
エレサウスが思い出したように言った。
「それはどういうわけだ! 」
オレはエレサウスに詰め寄った。
「か、カイレウス、先に手続きしたからにしなよ」
エレサウスが両手のひらを前に出して言った。
「……逃げるなよ」
オレはエレサウスに凄んでから受付に行った。
エレサウスのやつを半ば引きずるように傭兵ギルドを出て酒場に向かう。
町の喧騒なんぞ目に入らん。
「あのさ……僕は通信機の配信見ただけだよ」
エレサウスがなさけなさそうに言った。
オレはちらっと見て無視する。
まったく往生際が悪いやつだ。
「あれ? カイレウスのお兄ちゃま、エレサウスのお兄ちゃま、帰ってきてたのですか? 」
前ばかり見ていたら下から声がした。
黒髪をツインテールにした琥珀の瞳の女の子がいた。
隣はよくにた顔の黒髪一本ミツアミの男の子で金に赤い星が散ってる瞳だ。
「フィナちゃんとナルド君じゃないか。」
エレサウスが助かったという顔をした。
ウルティアガ家の双子か、どっちが上だか覚えてないが、ディルフィナとレオナルドだったな。
「そんなに急いでどこ行くの? 」
レオナルドが聞いた。
「どこいくんだろうね……」
エレサウスが遠い目をした。
ゆっくり話をできるところに決まってるだろう?
「今度、ヴィアラティアちゃんとところに遊びにいっていいですか? カイレウスお兄ちゃま」
ディルフィナがニコニコ言った。
たしか祖父上様の娘のちび叔母さんと仲良くしていたな。
「いつでもこい 」
そういえばコイツらはなんでこんな時間にうろうろしてるんだ?
「……今、動かねば大事なものを失うであろう……」
レオナルドが突然言った。
「それはどういう意味だ? 」
オレはレオナルドに詰め寄ろうとした。
「ごめんなさいカイレウスお兄ちゃま! ナルド疲れてるみたいです! お買い物の続きに行きましょう! 」
ディルフィナがレオナルドをかばうように前にたってレオナルドを向こうに押し出した。
「フィナもわかってるはずだよ、カイレウスのお兄ちゃんは今、幸せになれるか崖っぷちだって」
どこか悟りきった目でレオナルドが言った。
「お、お買い物はえーと豚肉買わないとね、お兄ちゃまたち、バイバイです~」
ディルフィナが手を振ってレオナルドをおしだしてあわてて人混みにまぎれていった。
「うーん、あいかわず神秘な双子だな……」
エレサウスが呟いた。
どういうことだ?神秘な双子だと?
「あの双子の事もふくめて聞かせてもらうぞ」
オレはエレサウスを引きずって闘うハチミツ酒亭に入った。
「だから、あの二人はまあ家によく遊びにくるんだよ、父親が父ちゃんと腐れ縁っていうかオレの母ちゃんがすんでた世界と同じ世界の人っていうかさ……」
エレサウスが頬をポリポリ掻いた。
「つまり異世界ハーフと言うことか? 」
オレも明正和次元人の母親を持つあるいみ異世界ハーフだが。
エレサウスは別の異世界のハーフだったはずだ。
「うん、まあ、そうなんだけどさ、あの二人の母親って言う人がまたよくわかんない人でさ……当たらない占い師なんだけどね……普段は」
エレサウスがノンアルコールのオレンジハニーカクテルをのみながら言った。
普段は当たらない占い師だと?
「当たることもあると言うことか? 」
オレはピーマンの肉詰めをフォークに刺したまま動作を止めた。
「うーん、たまに古代の巫女見たいな雰囲気な時は百発百中かなぁ? さっきのナルド君みたいな時……自然に口から出ちゃう時って言うのかな? 」
エレサウスが鶏肉のスパイスキャンディー巻きをつまみながら言った。
「つまり……あれは百発百中の啓示と言うわけか? 」
オレはハチミツ酒をあおった。
「ところでファウルシュティヒ嬢の話はいいの? 」
エレサウスがフォークにさした野菜の素揚げにヨーグルトソースをからませながら聞いた。
「それで、メルティウス殿下との噂は本当なのか? 」
オレはハチミツ酒を瓶から注ぎながら聞いた。
「うん、ヌーツ帝国のジェーアリーヌ皇女殿下ご訪問を取材していた記者が偶然、王宮食堂を利用しててメルティウス殿下に声をかけられたファウルシュティヒ嬢を追ってスクープしたらしいよ」
野菜の素揚げを食べながらエレサウスが言った。
「それでリンは、ファウルシュティヒ嬢はなんと答えたんだ」
オレはドンとハチミツ酒の入ったグラスをテーブルに置いた。
「泣いてたらしいけど……」
エレサウスはそういいながらノンアルコールハニーオレンジカクテルを一口飲んだ。
メルのやつ!抜け駆けした上にリンを泣かせただと。
「それでどうするのメルティウス殿下に対抗するの?グーレラーシャの虎にさ」
エレサウスがそう言いながら鶏肉のピラフ詰めを切り始めた。
いつの間にメシメニューなんか注文したんだ。
現実逃避しているな……
「リンは俺のものだ、メルなんぞにやらん」
オレはハチミツ酒を飲み干した。
グラスをテーブルにおく。
「おい、ほどほどにしておけよ」
エレサウスがたじろいだ。
「……絶対に抱き上げて見せる」
オレは低く呟いた。
待ってろよ、リンレシナ・ファウルシュテヒ。
オレのこの狂おしい想いを伝えてきっと抱き上げて見せる。
メルなんぞに渡さない、リンはオレの伴侶だ!




