新人王宮警護官は巨大ケーキに憂える。
ジェーアリーヌ皇女殿下の送別夜会にメルティウス殿下にエスコートされるなんて無理みゅ。
控室の姿見をの前に立った。
朝からやってきた王宮管理官の力作の水色の長い盛装を着たソコソコ美しい女性が見つめ返した。
いつもよりあいた襟ぐりにノースリーブ、長いレース手袋は肩までで両脇腰までのスリットの床にスレスレ丈の水色の盛装は長衣は金色のクリスタルビーズがたくさん散っている高級のもので下の淡い黄色のプリーツがたくさん入った足首丈ズボンにも細かい金色刺繍が散っている。
髪は首元を守るような形に結われて金とクリスタルのかんざしが何本もゆれている。
首と耳に高級ジュエリー重いですみゅ。
新人王宮警護官には払えない高級服なので絶対に汚したり破ったりしないみゅ。
メルティウス殿下がお見えでございます。
王宮管理官の声がして扉が開いた。
金髪の長い髪を一本三つ編みにした水色の瞳の美丈夫がはいってきた。
に、逃げたいですみゅ。
「では参ろう愛しいリンレシナ」
メルティウス殿下が甘く微笑んで私に手を差し出した。
本日は真紅の王太子の正装なので縦襟長袖足首丈の真ん中スリットの長衣で金豪奢な刺繍と勲章で彩られていて下は黒のスリムなズボンだ。
肩にまとうのは真紅のマントで腰には剣をはいている。
わーん……キラキラな圧迫感ですみゅ。
逃げたい……逃げたいのに逃げられないですみゅ。
「は、はい」
おずおずと手を伸ばすとそのままつかまれて引き寄せられた。
「私にまかせよ、大丈夫だ」
つかまれた手に唇を押し付けられた。
顔が赤くなって目が上げられない。
「私の乙女はつつましいな」
メルティウス殿下の甘い声が耳元で聞こえて……み、耳たぶなめられましたみゅ。
「メルティウス殿下、お時間が押してございます」
「……わかった」
王宮管理官の声に少しだけまゆをひそめてメルティウス殿下は私に微笑んだ。
「参ろう、愛しい私の乙女」
優雅に私をエスコートして歩きだした。
高い天井にキラキラしたシャンデリア……美しく着飾った高貴な方たち……そして壁際には王宮警護官たち……
わーん無理ですみゅ。
絶対に無理ですみゅ。
キラキラしい会場の様子に私は逃げたくなった。
キラキラの会場の中心に巨大な五段重ねのデコレーションケーキがあったみゅ。
いっそあのケーキに突っ込んで隠れたいみゅ。
周りの丸鶏のピラフ詰めとかグレープフルーツの豚肉ロール焼きとかスパイスキャンデーの牛肉ロールとか沢山の伝統的なグーレラーシャ料理の乗ってるテーブルの下でもいいから隠れたいみゅ。
ああ、現実逃避……
高貴な男女やオプディア先輩の視線が痛い。
高貴な人たちは自意識過剰かもしれないけどオプディア先輩は隣のサリアノーレ先輩に筋肉が足らないと振られたからといって後輩にまで当たらないで欲しいみゅ。
エセ、モフモフ語使用者ってなんだにゅ。
そういえば、故郷にかえって可愛いモフモフに癒やされたいって……ペットのことにゅ?
「盛大な送別会ありがとうございます」
猫を山盛りにした美少女が薄紫の盛装をまとって近づいてきた。
どこぞの副大将のお忍び旅みたいにいつも通りピエスギア外交官とエリオット侍従がついてる本日の主役ジェーアリーヌ皇女殿下だ。
この人とメルティウス殿下がくっついてくれれば……押し付けちゃだめみゅ。
「ゆっくり楽しんでいってください」
「ありがとうございます」
メルティウス殿下が微笑むとジェーアリーヌ皇女殿下も花のように笑った。
美丈夫と美少女お似合いだみゅ。
それに比べて……お化粧してもぱっとしない容貌の私……メルティウス殿下の隣にふさわしくないと思うみゅ。
ジェーアリーヌ皇女殿下と別れるとやっぱりメルティウス殿下には人が集まった。
「可愛い方ですわね」
紹介していただけませんの? と色っぽい黒と見紛う緑の胸の開いた盛装を着た女性が蠱惑的に微笑んだ。
「私の愛しい乙女、リンレシナ・ファウルシュテヒだ」
「お好みは黒髪の乙女なのでございますね」
メルティウス殿下の答えに女性が私をなめるように見た。
わーんなんか獲物を狙う目してるよ。
「り、リンレシナ・ファウルシュテヒでございます、王宮警護官をしております」
私はたじろぎながら女性の差し出す右手に右手を添えて額を当ててしゃがむ礼をした。
付け焼き刃ですみゅ。
王宮警護官の右胸に拳を当ててひざまずく礼なら完璧ですみゅ。
「ティアンエル・ダファヤですわ、お見知り置きを」
女性……ダファヤさんが私の手を持って優雅に額に当てた。
ダファヤ……ダファヤって名門貴族じゃないですかみゅ〜。
え……っと確か……房中術とか色事の事とか王族に教えるお家……みゅ〜
にっこりとどこか獲物を狙う目継続でダファヤ様が極上の笑みを浮かべた。
「メルティウス殿下とリンレシナ嬢との契りの儀式は素敵にサポートさせていただきますわ」
あーん可愛い〜美少女より美女より可愛い系と美丈夫の方がこのみなの〜。
とダファヤ様の妄想駄々漏れを聞いてしまったみゅ。
ち、契りの儀式ってなんだみゅ。
私はカイレウスがすきなんだみゅ。
カイレウスとち、ちぎる……ああ、なんかものすごく模擬剣素振りしたくなったみゅ。
「ダファヤ師、近いうちに頼むと思うが……私の乙女を怯えさせないでくれ」
「……あらあら、グーレラーシャの虎の乙女は繊細なのですわね」
ダファヤ様が優雅に扇で唇を覆って蠱惑的に笑った。
繊細な乙女は素振りしないと思うみゅ。
「本日はお招きいただきありがとうございます」
頭頂部がツルツルピカピカのおハゲの硬そうな壮年男性がやってきた。
腰から蠍のしっぽがでてるとこ見るとブパルブサ蠍人国の蠍人らしい。
「アーレン外交官ようこそ」
メルティウス殿下が微笑んだ。
蠍人はじめて見たみゅ。
外甲に覆われてるところは青いメタリックカラーだみゅ。
メルティウス殿下はほんとに忙しそうだみゅ。
次から次と人が集まってくるみゅ。
そんなことを思いながらメルティウス殿下が少し離れたところで外交しているので視線を彷徨わせてたらさり気なく警護しているオプディア先輩と目があった。
キチンとし、ご、としろとオプディア先輩が目で語って睨んだ。
わ、わかってますみゅ。
私はエスコートされてるお嬢様でなくて王宮警護官がですみゅ。
エスコートされつつ会場に気を配りますみゅ。
小太刀もきちんと大腿に装備済みですみゅ。
オプディア先輩から視線をそらして会場に目を配った。
巨大ケーキがやっぱり目を引く。
メルティウス殿下はオスペナ知識国の外交官と話してるみたいですみゅ。
異常な……み、見ちゃったみゅ〜。
綺麗な焦げ茶色の髪の美女……ベージュの盛装の美女……をエスコートして焦げ茶色の髪と瞳の美丈夫……グーレラーシャの縦襟長袖の茶色の正装をしたカイレウスが向こうからやってきたのが見えた。
カイレウスが私を見たのが見えた。
みゅ〜……私の事好きって言った癖にカイレウスの嘘つきみゅ〜。
つ、付き合ってるわけじゃないからなんにもいえないけど気持ちがごちゃごちゃだにゅ。
私はここからいなくなりたくてむきをかえた。
「リン! 」
カイレウスの声がする。
私は少しだけ振り返った。
焦げ茶色の美女がカイレウスに顔を寄せた。
仲良さそうだみゅ。
私は壁を見た。
沈黙が基本の王宮警護官だけど……オプディア先輩の微妙に上がった眉を見た。
「リン! リンレシナ! 」
カイレウスの声が後ろでした。
私は一目散に駆け出そうとして誰かに後ろから捕まった。
「私の乙女、どこに行く気だ」
甘い危険な声が耳元で聞こえた。
ラーキャの花の男らしい香りに包まれて私は固まった。
適度についた筋肉の腕にはらりと落ちる金の髪、見上げると水色の目と視線があったみゅ。
私は目をそらした。
「わ、私……」
「そなたは私のものだ」
「リンレシナ! 」
私の言葉とメルティウス殿下とカイレウスの声の重なった。
どうしたらいいですみゅ〜。
会場の注目がこちらに向いてる。
カイレウスが女性を置いて近づいてくる。
「私の乙女になにかようか、剛力のカイレウス」
私を抱えたままメルティウス殿下が凛と通る声が頭の上で聞こえた。
カイレウスが何か言おうと口を開いた。
ガラスが割れる音がしてキャーと誰かの声がした。
覆面たちがジェーアリーヌ皇女殿下に襲いかかるのが見えた。
王宮警護官より私のほうが近い。
ジェーアリーヌ皇女殿下のヌーツ帝国の伝統的なキュロットの紫の盛装が剣に裂かれた。
「ファウルシュテヒ」
オプディア先輩が叫んだ。
私はとっさにメルティウス殿下の腕を外してそのまま駆けつける。
「オーヨの汚らわしき血などいらん」
「私はヌーツの皇女なんだけどね」
覆面の親玉がジェーリアーヌ皇女殿下に剣を振り回している。
ジェーアリーヌ皇女殿下上手に避けてるみゅ。
あ、でも倒れそうだみゅ。
「やめるみゅ! 」
かんざしを周りの覆面の腕に突き立てた。
うめく連中を追いついてきた王宮警護官にまかせてジェーアリーヌ皇女殿下に斬りかかる覆面親玉に蹴りを入れた。
私の盛装がビリと不吉な音を立てた。
「じゃまするな」
親玉が顔をしかめて向き直った。
剣を手に持ってる。
かんざしをもう一本抜いてたいじする。
グーレラーシャのかんざしは実は鋭い、女性の最終武器になるからだ。
「大人しく捕まるみゅ」
「我らが清浄な国にオーヨの不浄なる血はいれん! 」
覆面の親玉が剣をかざした。
どこかよってるみたいだみゅ。
横目で見ると王宮警護官がジェーリアーヌ皇女殿下の後ろから近づいてきているのが見えた。
こっちに視線を向けさせるみゅ。
「清浄なるヌーツは清廉潔白なる皇族が治めるがふさわしい」
「他国で騒ぎを起こすバカのいうことなんて信じられないみゅ! 」
「バカだと主義もないグーレラーシャの傭兵め! 」
親玉が私に襲いかかってきた。
かかったみゅ。
親玉の腕にかんざしを突き立てる。
ついでに足掛けをしてバランスをくずさせる。
このクソ女〜。と親玉うめいた。
親玉がよろけたところに胴体にハイキックをかましてころばしたところで拘束符を探った。
ジェーアリーヌ皇女殿下の前にメルティウス殿下がたって剣を抜いて他の覆面から守っているのが見えた。
「ドレスだったみゅ〜」
腰の物入れがなくて虚しくてがすべった。
盛装むりだにゅ〜。
「よくもこのグーレラーシャの売女め! 」
起き上がりかけた親玉に気がついても一本かんざしを抜こうとしたところで親玉に水圧攻撃が決まった。
「俺のリンレシナは売女じゃねぇ! 」
カイレウスが水気をまとった大斧をかまえている。
「俺のリンレシナみゅ? 」
「俺のリンレシナだ! 」
私の問いかけにカイレウスが親玉から意識をそらさずはっきり言った。
嬉しいみゅ、嬉しすぎだみゅ。
私は思わずカイレウスに抱きついた。
「カイレウス、大好きだみゅ! 」
「……俺の妄想じゃねぇよな」
私の体温を確かめるようにカイレウスが大斧を置いて片手で私を抱きしめた。
「大好きだみゅ! 」
私は更にしがみついた。
カイレウスが私を片腕で抱き上げた。
「リン、リンレシナ……もう離してやれねぇ」
「離さないでほしいみゅ〜」
熱っぽく言いつのるカイレウスの頬にキスをしちゃったみゅ。
「おい、きちんと戦闘不能になったか確認してからイチャつけよ」
呆れたようにオプディア先輩が気絶した親玉に拘束符を貼った。
全くエセモフモフ語使用者め、故郷に帰ったら……ちゃんたちをモフるぞ絶対にとオプディア先輩はブツブツ言いながら重量軽減符を貼って親玉を引きずって簡易の護送檻に突っ込んでる。
わ~必要以上に荒っぽい……
サリアノーレ先輩は優雅な仕草で覆面の一人を床に蹴り倒してるし……
気がつくと王宮警護官が覆面たち全員を拘束していた。
視線を感じてカイレウスの腕の中から振り返るとメルティウス殿下が剣を手に私たちをみている。
隣にはジェーアリーヌ皇女殿下が座り込んでいる。
「私の乙女降りておいで」
メルティウス殿下が狂気まじりの甘い笑みをうかべて私に腕をさしだした。
「私、カイレウスを愛してますみゅ! 」
「リンレシナは俺のものだ! 」
「そうか、ではカイレウスを叩き潰せばよいのだな」
私とカイレウスの同時の発言にメルティウス殿下が狂気まじりの壮絶な色気の笑みを見せたまま剣を持ち上げた。
わーんなんか不味い気がするみゅ。
私はしっかりカイレウスに抱きついた。
メルティウス殿下が一歩踏み出して近づこうとしている。
「やめなさい! 」
凛とした声が聞こえてこの国最高の貴人……メリリノア国王陛下……メルティウス殿下の母君がダファヤ様やドーリュム王宮管理官長とを引き連れて壇から足早に降りてきた。
盛装なのにあの足の速さすごいにゅ。
「色恋に刃傷沙汰は許しません、もしやるなら拳で語り合いなさい」
恋愛勝負はついてしまいましたがと国王陛下がため息をついた。
「今度はメルティウス殿下だけを見てくれる女性が現れますよ」
「そうですわ、それに邪魔すると馬に蹴られてしまいますわ」
ドーリュム王宮管理官長とダファヤ様が口々に言った。
「私の乙女」
「うわぁぁぁぁぁん、こわかったよ〜」
メルティウス殿下が更に言いつのろうともう一歩出した足にジェーアリーヌ皇女殿下がしがみついた。
さすがのメルティウス殿下もよろけた。
「ジェ、ジェーアリーヌ殿」
「じぬかと思った〜」
ジェーアリーヌ皇女殿下が灰色がかった紫の目に涙をいっぱい浮かべてメルティウス殿下を見上げた。
「もう、大丈夫ですよ」
メルティウス殿下がしゃがみ込んでジェーリアーヌ皇女殿下の涙を指で拭いた。
なんかはじまってるみゅ?
恋の予感かみゅ?
ジェーアリーヌ皇女殿下が更に抱きついたところでおつきの二人がとめにはいった。
「うちの猛獣が申し訳ございません」
ピエスギア外交官がジェーアリーヌ皇女殿下を立たせているエリオット侍従のまえにさりげなくたって優雅に礼をした、ジェーアリーヌ皇女殿下をメルティウス殿下の視線からさえぎってるみたいだみゅ。
ジェア、立場をわきまえろ。
というエリオット侍従に皇女殿下はだってこわかったんだもん〜。とのたまっている。
メルティウス殿下が皇女殿下に手を伸ばそうとして拳を握ったのが見えた。
「あらあら……ヒフィゼ外務担当官長をヌーツに派遣しないとかしら」
メリリノア国王陛下が温かい眼差しでメルティウス殿下を見つめた。
「とりあえず、ヒフィゼ家の恨みを買わずによろしゅうございました」
「しつこいですからね」
ダファヤ様と王宮管理官長が微笑んだ。
私は思わずヒフィゼの若君のカイレウスを見たみゅ。
「しつこいのかみゅ? 」
「身を持って体験したじゃないか」
私は小首をかしげた、カイレウスが笑って額に口付けた。
「イチャイチャするのは事後処理がすんでからにしてくださいね」
二フィロ主任がニコニコと近づいてきた。
カイレウスがまゆを上げた。
「求愛行動中のグーレラーシャの男にそれを言うか」
「仕事ですので、ファウルシュテヒ君報告書よろしくね」
外交問題がからむから超特急でよろしく〜。と二フィロ主任がニコニコ笑った。
「みゅ〜」
書類仕事苦手ですみゅ。
でも……お仕事ならしかたないですみゅ。
「カイレウス、私、仕事するのでおろしてほしいですみゅ」
私はカイレウスのむねを叩いた。
「リン」
「お仕事するのですみゅ」
カイレウスの切ない声に心がいたんだけど強く主張するとしぶしぶおろしてくれたみゅ。
ああ、報告書……本当に苦手ですみゅ。
しかもよく見たら盛装の裾が破れてますみゅ。
「リン……リンレシナ〜」
カイレウスの呼ぶ声がしたので少し振り返った。
「お、お仕事頑張って来ますみゅ」
私はその声を振り切るように走った。
リンレシナ〜。とこの世の終わりみたいな声がしたけど……盛装の費用も稼がないとだし今は仕事優先ですみゅ。
グーレラーシャの男って本当に大袈裟ですわね。
そうですね。
死にそうな声ですね。
とかいってる国王陛下とその他二名の声が聞こえたけど……お仕事優先ですみゅ。
夜会なんて無理だったのですみゅ。
私の本業は王宮警護官ですみゅ。
お仕事頑張りますみゅ。
い、イチャイチャはお休みの日にお願いしますにゅ。
………そういえば、カイレウスがエスコートしていた女性はだれだみゅ?
そちらもお休みの日に問いただすみゅ。
ともかく今は報告書だみゅ。




