83話 モロトフ×リッベントロップの密談
今日は4月1日ですね。
なんか知らんけど一話だけ書けたけど、桜子ちゃんが出てこないw
1940年7月 ソビエト連邦 モスクワ
モスクワクレムリンのとある場所で、酒屋のオヤジ二人が会話を交わしていた。
一人のオヤジは敵国から、カクテルに自分の名前を付けてもらえる程には、カクテルに造詣が深いらしい。
もしかしたら、オヤジの本業は酒屋ではなくてパン屋だったかも知れないが、それは些細なことだろう。
そして、もう一人のオヤジの本業は間違いなく、シャンパンの商人であった。
もっともこの二人は、どうやら副業で国家の要職を任されていたりもするらしいのだが、それも些細なことであろう。
まあ、ドイツ第三帝国とソビエト連邦の外務大臣なのであるが。
「リッベントロップ外相、話が違うではありませんか!」
「モロトフ外相、いきなり如何なされました?」
おもむろに吸っていた煙草を灰皿に押し付けながら、ドイツのシャンパン商人は訝しげに片眉を上げた。
「バルト三国とベッサラビアは我が国の勢力範囲という秘密協定の話です!」
「ああ、その話でしたか」
ウオッカ臭い口角泡を飛ばしながら詰め寄るモロトフに、リッベントロップは酒クセェーなぁと内心で辟易し顔を顰めつつも、外面の表情筋は笑顔を作って応対する。
外交官というのは、内面の思いを表情に出していては、外交官として三流もいいところだろう。
一流の外交官を自認するリッベントロップにとって、笑顔の仮面を張り付けることなど造作もないことであった。
まあ、彼の本業はシャンパン商人なのだが。
「その話でしたか、そんな悠長な話では済みませんぞ!
密約とはいえ、我が国ソビエト連邦と貴国ドイツとの約束事ですぞ!」
「そうは申されましても、モロトフ外相。
我が国は、貴国との秘密協定をちゃんと遵守しておりますぞ?」
顔を赤らめ詰問調になるモロトフに対して、リッベントロップは軽く受け流すかのような返答をした。
どうやら会話の主導権は、カクテル商人ではなく、シャンパン商人が主導権を握っているようであった。
「では何故、バルト三国が頑強に抵抗しているのだ!
貴国が裏で奴らに武器を援助しているのではないのかね?」
「ああ、そのことでしたら、時期的に合いそうなのは恐らく、
イギリスとアメリカの武器商人だと思われますよ」
シャンパン商人は、さらりと爆弾発言を放り込む。
「なんですと? イギリスは言うに及ばず、アメリカの武器商人もですと!?」
「ええ、ポルトガル船籍の貨物船が二隻、バルト海に入ったところまでは確認しております」
「ポルトガル船籍? イギリスやアメリカの貨物船ではなく?」
なんで、ポルトガルが関係してくるのだ?
カクテル商人の頭には、いくつもの疑問符が浮かび上がった。
基本、世界から孤立しているソビエト連邦の人間というのは、外交関係に疎いのである。
まあ、情報戦や調略とかは得意なんですけどねぇ。
「行き先はストックホルムだったと記憶してましたが、どうやら違っていたみたいでしたね」
「臨検はしなかったのですか?」
「モロトフ外相、無茶を仰らないで頂きたい。
戦争中で交戦国へ行きそうな船でもない限りは、臨検なんて海賊まがいの野蛮な行為はできませんよ」
平時ではお手上げですといった感じに、シャンパン商人は肩を竦めてみせた。
「むむむ……」
「それに、貴国を含めバルト海沿岸は全て友好国ですので、我が国には臨検をする大義名分がありません」
さらっと責任転嫁する方向へと、シャンパン商人は話の舵を持っていった。
まあ、ドイツにとって、バルト海に面する国々というのが、友好国や中立国というのは事実ではあるのだ。
「なんたることだ…… これでは、同志書記長がお怒りになる」
まるでウオッカの飲み過ぎで悪酔いしたかのように、カクテル商人の顔は青褪めていた。
その表情を見ていたリッベントロップは、これだから恐怖政治ってヤツは…と、内心で溜息を一つ吐いた。
しかし、ナチスドイツも恐怖政治ということについては、シャンパン商人の頭からは抜け落ちている。
いつの時代も、人は自分を棚に上げて他人をあげつらうモノなのだから。
それはそうと、内心で馬鹿にしつつ辟易しつつも、気心の知れた友好国のカウンターパートナーに助け船を出してあげることにした。
そう、リッベントロップにとってモロトフという人物は、ウマが合うのだ。
「スターリン書記長には、都合の良いように報告をされては?」
「都合の良いように、ですか?」
「嘘の報告はいけませんが、言葉というのは飾れるモノでしょう?」
「そうでしたな」
同志書記長に対して、耳触りの良い都合の良い報告というのは、ソビエト連邦の十八番である。
まあ、処刑やシベリア送りにされない為の、処世術と言い換えることもできるのだが。
しかし、こんなデタラメな体制を続けたからこそ、未来においてソビエト連邦という国は崩壊したのであろう。
都市部のスーパーの陳列棚には食料がないのに、地方の倉庫で食料を腐らせる国なのだから、体制の崩壊は至極当然なのかも知れない。
「アメリカが貴国に対して敵対行為を働いたことは明白なのだから、やりようはいくらでもあるでしょう?」
友好国の外相が仕事のやりやすい手合いというのは、リッベントロップにとって非常に都合が良いのである。
だからこそ、アメリカを出汁にしての助け舟である。
「なるほど…… ああ、こちらでも確認が取れました。
リッベントロップ外相がおっしゃった通り、リガとタリンにポルトガル船籍の貨物船が先月に入港しているみたいですな」
カクテル商人はペンの先で側頭部を掻きながら、書類を確認して納得したようである。
「誤解が解けてなによりです」
シャンパン商人は余裕のある笑みで鷹揚に頷いてみせた。
その様子を見てとったモロトフは、これならばと一歩踏み込んだ話題を振ってみることにした。
「仮に、仮にですよ? 我が国がイギリスやアメリカと戦争になった場合に、
貴国ドイツは、我が国と共闘して敵国と戦って頂けるので?」
「そうですなぁ。現状では少し厳しいかも知れませんね」
しかし、話が危険な話題だと分かると、シャンパン商人は一転して眉を顰めるのだった。
自分の裁量権の範囲を超える危険極まりない話であったかと。
「我が国は貴国に対して、優先的に石油や鉱物資源を提供しているのですぞ?」
「ええ、それは十分に承知しており、感謝しておる次第であります」
「バクー油田は、イギリス統治下の中東からの爆撃範囲に入ってます。
聡明なリッベントロップ殿ならば、この意味はお分かりになりますよね?」
自国の安全保障に直結するのだから、モロトフも必死である。
ロシア人というのは本来、臆病な性質を持っているのである。
まあ、その臆病の裏返しで、残忍な面が表に出て誤解されやすく、西欧諸国からは蛇蝎の如く嫌われているのではあるのだが、自業自得の面は否めない。
「ええ、それは十分に理解しておりますとも」
「ご理解して頂いているのでしたら、是非とも協力をお願いしたいですな」
「協力をするには、まず先に話を進めなければなりません」
「その話の中身は?」
どうやら、ドイツからの協力を取り付けられそうだと、モロトフは思わず前のめりになる。
「貴国との不可侵条約を進化させて、攻守同盟を結ばなければ、大義が成り立ちません」
「同盟ですか? 不可侵条約では不十分だと?」
「共に同じ敵と戦うには、同盟という紐帯は必要でしょう」
世界中から嫌われた引き籠りの外交音痴は、これだから困る。
外交下手で自国も世界からは似たような目で見られているのを棚に上げて、内心でモロトフを嘲笑するシャンパン商人であった。
「しかし、私の一存では答えられませんので、貴国から同盟の提案があったとの話を同志書記長に伝えます」
「私の方も同じです。総統に話を持って行かないことには前に進みません」
「では、これまで以上に連絡を密にしましょう」
「ええ、アメリカやイギリスに気取られない程度には、密にしましょう」
独ソ同盟が成れば、一番の手柄は自分のモノだと、シャンパン商人は内心でほくそ笑んだ。
ドイツ本国に持ち帰る、良い手土産ができたなぁ、と。
※※※※※※
東京 赤坂 秩父宮邸
「くしゅん!」
「藤宮様、お風邪を召しましたか?」
「いやー、なんだろうね? 久しぶりに誰かに見られた視線を感じたというのかなんというのか……」
もしかしたら、桜子ちゃんは可愛いね!とか、何処かで噂されていたのかな?
というか、今回の私の出番ってこれだけですか? ……解せぬ。
ちらほらと新作でも書いてますけど、最近は三人称が少しだけ書けるようになってきたような気がします。
でも、書くのしんどいw 基本的に一人称や会話文を書く方が好きなんですよね。
モロトフさんがアホっぽくなってしまったw 政治や外交って書くのが難しい…
次話…? さすがに、二年半とか長い間隔は空かないと思うよ? たぶん。




