76話 桜子ですけど、私の隣にタヌキのオブジェがいます
井上さんの出番がない…
1940年6月17日 フランス パリ
「翼よ、あれがパリの灯だ!」
「藤宮様、まだ昼間ですから街灯も住宅の灯りも点いてませんよ?」
夏子さんに突っ込まれてしまいました。
どうやら、出オチで滑ってしまったみたいでしたね。
「フィーリングというのか、語感的にそう思ったんだよ……」
『プリンセス藤宮は、詩の才能もおありのようですな』
ドゥーチェに褒められてしまったけど、大西洋を単独で無着陸飛行に成功した、リンドバーグの自伝の邦題をパクっただけなんですよね。
それに、まだ出版すらされていなかったよ。
でもこれは、人様には言えないよなぁ。
といいますか、なんでリンドバーグは四半世紀以上も経ってから自伝を出したんだろ?
大西洋無着陸飛行に成功した直後に本を出したほうが売れたと思うのは、私だけでしょうかね?
まあ、どうでもいい話でしたか。
それよりも、私たちはローマから慌ただしく、戦時下のパリへとやってきたのです。
よくもまあ、絶賛ドンパチ中で戦争をしているフランスの上空を、安全に飛行できるような許可が下りたよなぁ。とか思わなくもありません。
きっと、チアーノさんが色々と骨を折ってくれたのでしょう。
パリも無血開城というのか無防備都市を宣言しましたので、フランス軍とドイツ軍との戦闘も小康状態なのかも知れませんね。
それで、戦時下とはいっても、パリは平穏そのものだったので、いささか拍子抜けしちゃいました。
まあ、ドイツ軍に占領はされているのですがね!
しかし、そのドイツ軍も、パリへの観光目的のお上りさんみたいな浮ついた感じがしますので、あまり地元のパリっ子との間に緊張感はありません。
もう既にフランスは、一部の人間を除いて敗北を受け入れている人が大部分ですので、これ以上は無駄な戦闘だと思いますし無駄死にもしたくないでしょうから、みんな大人しくしているのかも知れませんね。
また、ドイツ軍にも勝っているという、勝者の余裕があるのでしょうね。バルバロッサ作戦以降では、こんな余裕は持ちえないはずですしね。
それにしても、主義主張に関係なく、やっぱりドイツ軍の服装は格好良いと思います。
なんと言えばいいのかな?
そう、ドイツ軍の軍服には、漢の浪漫が詰まっているような感じがしますよね!
ミリオタ心をくすぐるナニかが、ドイツ軍にはあるのですよ。
イギリス軍やアメリカ軍では、このドイツ軍のような格好良さは出せないと思いますね。
我が大日本帝国も、陸軍は野暮ったいといいますか、貧乏くさいですけど、海軍の白い第二種軍装は格好良いと思います!
まあ、白い軍服が格好良いというのは、どこの国の海軍でも同じことが言えるのでしょうけれども。
私も今度作ってもらおうかな? 私は一応、大日本帝国海軍の名誉艦長でもありますしね! 陸軍でも近衛師団の名誉連隊長なんだよ!
なんという、取って付けたような適当な階級なのでしょうか…… 客寄せパンダですかそうですか。
ちなみに、軍人としての権限は当然ながらもありませんので、安心してください。
それはさておき、私は自分の役割を演じることにしましょう。
※※※※※※
『I think so…… わたしくこと、ふじのみやさくらこは、こうおもうのです。
よーろっぱのれっきょうどうしがせんそうちゅうだからこそ、へいわのさいてんでもあるオリンピックは、なおのこと、かいさいするいぎがあるとおもうのです。
へいわ…… peace…… La paix! Frieden! pace! pacem!
いいことばだと、みなさんもそうはおもいませんか?
せんそうとは、むだにひとがしぬだけだと、ふじのみやさくらこは、そうおもいます。
パリがかんらくしたことによって、このせんそうはもうそろそろおわりにするべきだとはおもいませんか?
せんそうからは、にくしみしかうみません。これいじょう、せんそうをつづけても、むこないっぱんしみんがむだにしぬだけだとおもいます。
だから、わたくしこと、ふじのみやさくらこは、イタリアのどぅーちぇこと、むっそりーにおじさんとれんめいで、ドイツとフランスおよびイギリスれんぽうかっこくに、わへいをていあんします。
それすなわち、せんそうのそくじていせんと、こうわかいぎのかいさい、これらをせんそうとうじこくに、よびかけるしだいであります!
みなさんもいっしょになって、せかいのへいわをじつげんさせることに、ごきょうりょくをおねがいいたします。
せんそうでころしあうよりも、とうきょうオリンピックで、スポーツでおたがいにきそいあいましょう!
いじょう、ふじのみやさくらこと、むっそりーにおじさんからのメッセージでした』
うん、ピエロの役を演じきったよ。
ガリガリと私の精神が削られたような気もするけど、私は頑張った!
もうこれ以上ないほど頑張ったよ!
これで、今年のノーベル平和賞は、私とドゥーチェの二人で決まったも同然でありましょう。
まあ、ドゥーチェは私の横にいるだけで、なにもしゃべってはいないのですがね!
ドゥーチェは完全にタヌキのオブジェと化していたよ……
しかしこれで、ド・ゴールのBBCから徹底抗戦を呼び掛ける放送の機先を制することができましたので、明日以降にドゴールがフランス国民に抵抗を呼び掛けたところで、彼は道化にしかならないはずであります。
自分はブリテン島という安全な場所に逃亡しているのに、フランス国内に居る国民にはレジスタンス運動を煽って、ドイツに対して抵抗して死ねと言っているようなモノですし、きっとフランス人の反応も芳しくはないでしょうね。
かたや、ドイツ軍占領下のパリに赴き、平和を呼び掛けた少女。
こなた、自分は安全なブリテン島に逃げ出して、戦争の継続を煽る将軍。
どっちの人間の言葉に、世間は耳を傾けるのでしょうね?
これにて、第二次世界大戦は終結したのであります!
藤宮桜子先生の次回作をお楽しみに!
……そうなったらいいのになぁ。
でも、人間って闘争を好む生き物でもあるんだよなぁ。それが特に顕著なのが、指導者層の人間たちというのがなんともはや。
権力闘争とかの言葉もあるくらいですしね。なるほど、だから世界から戦争がなくならないのか。
争いを好まない人は基本的に、社会の中でリーダーシップを執るような地位には就きたがらないはずですしね。
うん、一つ賢くなった気がするよ。
だから、これからどう転ぶのか? これはまだ、予断の許さない状況なんですよね。
それに、ここで講和条約が結ばれてしまったら、このままナチスドイツが生き残ってしまう可能性が限りなく高いのでしたか……
あれ? もしかして私とドゥーチェって、連合国の邪魔をして結果的には、ナチスの肩を持ったということになってしまうのかな?
おーのー! 後世の歴史で非難されちゃいますやん!
どうすんべ……?
といいますか、もう既に賽は投げちゃったのだから、なるようにしかならないのか。
とほほ……
桜子さんの英語はお子ちゃま英語だから、ひらがなにしてみたけど読み難かったw




