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58話 左遷された戦車兵の物語

また台本形式になってしまた…


 1939年11月 フィンランド ヴィープリ(ヴィボルグ)



「うー、寒い!」


「まあ、寒いとは言っても、北海道や満州も似たようなものでしたので、大したことありませんよ」


「そう言われてみると、北海道にどことなく似ているな」


「なあ、なんで俺たちはフィンランドに居るんだろうな?」


「それは、元車長で元伍長で現上等兵のアナタが全て悪い!」


「ノモンハンでは活躍したのになぁ」


「活躍しても、命令違反の独断専行だったじゃないですかー」


「おかしいよな? 満州事変で独断専行した石原閣下の真似をしただけなのにな?」


「石原閣下は今では中将様ですし、あの人の場合は、天の時が、運が良かったのもあるのでしょうね」


「あちらは出世して、こちとら二階級降格かよ……」


「自分の方が階級が上になったとしても、素直には喜べませんよ。こっちは連帯責任で、巻き添えを食らったようなモノですし」


「そうだよな。元車長が悪い」


「へいへい、がり勉兵長殿、私が悪うございました!」


「心がこもってない!」


「元車長って全然反省してないよね」


「うん、してない気がする」


「でも、二階級の降格だけで済んで良かったと思わなければ、罰が当たりますよ」


「その代わりに、フィンランドまで飛ばされたけどな」


「懲罰人事が、フィンランドへの左遷だけで済んだのですから感謝しないと」


「貴官の自発的なフィンランドへの研修旅行への参加に敬意を表すなんて言われて、頭の中がハテナマークで一杯になったぞ」


「拒否権無しのどこが自発的なのやら」


「人事の話す専門用語を解読すると、それはつまり、おまえフィンランドで死んでこいって意味なんですよ」


「やっぱり?」


「でも、懲罰大隊行きや刑務所にぶち込まれるよりかは、多少はマシでしょう」


「あまり懲罰大隊と変わらない気もするがな」


「これはあくまでも、フィンランドへの研修旅行です」


「そういえば、冬季戦の戦訓を積むためという名目があったな」


「本当にソ連は、フィンランドに攻めてくるのでしょうかね?」


「お偉いさんたちは、露助が攻めて来ると判断したから、俺たちを送り込んだんだろ?」


「ノモンハンでの無様な敗戦を糊塗する為にも、アカは勝利を欲していますしね」


「そういうこった。だから、十中八九攻めてくるぞ」


「いやだねー。国内の引き締めの為だけに、外国に戦争を吹っ掛けるだなんて、これでは本末転倒だな」


「ソビエト連邦とは、そういう国なんだよ」


「アカの思考回路は複雑怪奇」


「為政者なんて、どこの国もそんなもんなんじゃね?」


「そうかも知れないな」


「それにしても、九五式軽戦車とはなぁ」


「チハに比べると、どうしても見劣りしますよね」


「農業用トラクターですよ」


「ふん! 戦車は戦車だよ」


「まさしく棺桶のような気がしますね」


「もしくは、土木建設用機械ですかね?」


「物は言いようってヤツか」


「ゴリ押しをすれば道理が通るみたいでして」


「ふん! いくら言い繕おうが、戦車は戦車だよ」


「いえ、農業用トラクターですってば。その為に、わざわざ砲身も外して運んで来ましたからね」


「在庫一掃セールで、フィンランドに持ってきたような気がしないでもない」


「麗しき国際政治に乾杯ってとこだな」


「でも、まだ新しいのに……」


「ノモンハンでの戦訓で、九五式は使えないと判断したんだろうよ」


「基本的に九五式は、歩兵戦の補助用ですしね」


「対戦車戦闘は想定してなかったということか」


「対歩兵用だとすると、どこで使うつもりで作ったんだ?」


「おそらくは、対支那戦を想定していたのだろう」


「なるほど。国民党軍が相手であれば、九五式でも行けそうでしたね」


「支那は自前では戦車を作れないからな」


「戦車を輸入していたとしても少数だったでしょうしね」


「だが、支那との戦争は回避されたから、フィンランドに農業用トラクターとして輸出されたと」


「砲身が無いからトラクターだなんて詭弁だよなぁ」


「でも、そのおかげで、新しい砲身を付けられるのだから、痛し痒しだと思います」


「同じ37mmは37mmでも、初速は五割近く違いますので、九四式戦車砲とは大違いですよ」


「九四式が570mで、ボフォースのが800mだっけ?」


「貫通力が違いますよ」


「ボフォース様々ってことだな」


「弾薬も、わざわざ日本から運んでこなくても、フィンランドやスウェーデンから調達できる利点も大きい」


「砲身を外して持ってきたのって、それが理由じゃないのか?」


「案外、そうなのかも知れんな」


「同じ37mmでも砲弾の互換性はありませんしね」


「弾が切れたら、戦車なんてただの棺桶だからなぁ」


「補充が現地で調達できる方が有利ってことだな」


「でも、チハの57mmやジロの75mmと比べてしまうと、どうしてもなぁ」


「それは言いっこなしだ」


「最新鋭のチハやジロは、さすがに輸出しないだろうよ」


「でも、戦闘機は九八式が来ているぞ?」


「防空戦闘に徹して、ソ連領空は飛ばないようにするんだろ」


「戦車は鹵獲される恐れがあるからな」


「飛行機ならば、墜落をしたら原形をとどめないほどグチャグチャになるから大丈夫なのか」


「それでも専門家が見れば、残骸の中からでも軍事機密の一つや二つは把握してしまうんじゃね?」


「だから、フィンランド領内限定での運用ということか」


「あくまでも、俺の推測だから当てにすんなよ」


「九五式ならば、鹵獲されても見るべきところがないってか」


「大元がヴィッカースのコピーだし、各国とも知り尽くしている戦車だからな」


「しかし、九五式は装甲も薄いから、重機関銃でも撃ち込まれたら多分貫通するぞ?」


「九五式はブリキ缶なんや……」


「そこは、鉄板で増加装甲を張り付けて誤魔化すとかすればなんとか」


「なんとか?」


「なんとか大丈夫なような? 気休め程度かも知れませんが」


「重量が増加して、速度が落ちそうだな」


「命には代えられませんよ」


「それもそうだな」


「あと、フィンランドの寒さでも九五式が無事に動くかが問題だな」


「冬の満州では、氷点下25度でも動きましたので、おそらくは問題ないかと」


「戦場のど真ん中で凍り付いて、エンストなんてごめんだぜ」


「一度動き出したら大丈夫だと思いたいですね」


「露助に殺されるのが先か、凍死するのが先かってか?」


「どちらも御免被る」


「戦車の場合は、やられたら死ぬときは大抵みんな一緒さ」


「棺桶みたいなモノだからなぁ」


「でも、九五式は、三人乗りだから、一人余るよな?」


「おまえ、英語を喋れるんだから、フィンランド兵に操作方法を教えてこいよ」


「フィンランド人って、英語を喋れるのか?」


「さぁ? 片言ならば通じるんじゃね?」


「一応、英語は国際語ですしね」


「フランス語の方が主流なんじゃないのか?」


「それって、一昔前の話じゃないの?」


「今は英語の方が優勢って聞いたぞ」


「なんで、フランス語が国際公用語なんだ?」


「欧州大陸では、イギリスよりもフランスの力が強かったからだろうな」


「あー、ナポレオンとかが欧州を席巻してたしなぁ」


「イギリスは欧州の片田舎の島国ってのが、欧州での常識だったのだろうよ」


「なるほどね」


「それはそうと、寒いな」


「こんな寒さは、まだまだ序の口ですよ」


「まあ、まだ11月だしな」


「冬籠りしてぇー!」


「炬燵でぬくぬくしたい」


「コタツなんてねーよ」


「コタツ作るか」


「酸欠には注意しないと死にますよ」


「暖炉で我慢するか」


「暖炉が俺を待っている」


「ああ、宿舎に戻るか」


「戦争になったら、ぬくぬくと温まってばかりいられませんし、今のうちに英気を養っておきましょう」


「そうだな」


「そうすんべ」



暫らくの間お休みします。m(_ _)m

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