56.5話 花園
閑話みたいなのです。
1939年9月29日 大阪府 英田村 大阪電気軌道、花園ラグビー場
大日本帝国臣民のみなさん及び、大阪府民のみなさん、ごきげんよう。藤宮桜子がご挨拶を申し上げます。
ンボッホ! ンボッボ! ンボッポ! ンポッホ! ンポッボ! ンポッポ! ヤーーッ!!
ご清聴ありがとうございました。
え? いまの雄たけびは、なんなんだって?
えーと、ほら、ラグビーの試合の前とかに、選手が叫んでいるのを真似してみたのですけど、違いましたかね?
細かいことを、一々気にしすぎたらハゲますよ? これは、その場のノリというヤツですので。
そう今日は、花園ラグビー場にお邪魔しているのですよ。もう既に、この時代には花園ラグビー場は在ったんですね! 10周年だなんて知りませんでしたよ。それも、お父様が音頭を取って、此処にラグビー場を造らせたみたいなのです。
ラグビーの聖地といえば、東の秩父宮ラグビー場と双璧を成すのが、西の花園ラグビー場なのです! 花園といえば、高校ラグビーのメッカですよね? あとの使われ方は知らん。
そう考えると、お父様ってなにげにラグビーの普及に力を入れていたのですね。日本ラグビー界の父とも言えるのかもしれません。
でもまだ、秩父宮ラグビー場は存在してなかったのでしたね。私が通っている、女子学習院の跡地に戦後になってから造られたはずでしたので。
この世界線では、秩父宮ラグビー場は、誕生するのでしょうか? 誕生したとしても、別の場所になりそうな気がしますね。空襲で女子学習院を焼かせるものですか!
それにしても、花園と言えば、宝塚やお嬢様女学院とかの、百合百合している女の花園を思い浮かべる人が多いと思いますけど、でも、此処は、オッスオッス! こんな声が聞こえてきそうな、汗臭い漢の花園です。
うん、この広いフィールドがなかったら、むさ苦しくてしょうがなかったと思います。
もっとも、女の花園もドロドロとした陰湿さが付き纏いますし、殿方の目がない分だけ、猫を被る必要もないのが現実ではあるのですから、爽やかなイメージなんてのは、百合が好きな人の妄想の産物に近いのですけどね!
現実なんてそんなもんなんやで……
話がそれた。
今日は、花園ラグビー場開設10周年記念台覧試合が開催されるために、招待されて大阪までやって来たのでした。お父様が、競馬場の跡地であった、この場所をラグビー場にしてはどうかと提案したのが、花園ラグビー場の始まりだったみたいなのです。
だから、お父様が10周年の記念にお呼ばれしたので、私もホイホイと付いて来たというわけなのであります。
『わたくしこと、ふじのみやさくらこが、ただいまより、花ぞのらぐびーじょう、開せつ10しゅう年、きねん台らんじ合の開さいを、せんげんします!
せん手一同のみなさんは、スポーツまんシップにのっとり、せいせいどうどうとたたかってください!』
『藤宮内親王殿下から、花園ラグビー場、開場10周年記念台覧試合の開催を宣言する、お言葉を頂戴いたしました! 会場のみなさま、盛大な拍手をお送りください!』
うん、本当は主賓である、お父様がスピーチするのが筋だと思うのですけど、私に丸投げしてきましたよ…… まあ、開催を宣言するだけの短い挨拶だったので、別に構わないのですけど、なんか釈然としない気がしないでもない。
これは、お父様が挨拶をするのが面倒だから、サボったと考えてもいいのかも知れませんよね?
あとで、大阪名物のたこ焼きでも、お父様にお強請りして、それでチャラにしてあげましょう。といいますか、既にこの時代に、たこ焼きってあるのでしょうかね? 私がこの時代に転生してから此の方、たこ焼きを食べたことがないのですよ。
たこ焼きの味を思い出したら、口の中にじゅわーっと唾液が溢れて来てしまったではありませんか!
謝罪と賠償を要求する! お代はもちろん、たこ焼きで!
ワン、フォー、オール。一人はみんなの為に! 高校ラグビーの熱血物語の主題歌が、頭の中でリフレインしている桜子です。
ラグビーとは紳士のスポーツとか言われますけど、これは、うん。格闘技に近いモノを感じますね。スクラムを組んでの集団でのぶつかり合いなど、まさに、人間というよりも牛か馬のぶつかり合いに思えてきます。
身長は低いのに、ムキムキマッチョなのですから、余計に筋骨隆々に見えてしまうのかも知れません。まだ庶民が肉を贅沢に食べられる時代ではないのに、そんな筋肉をどうやって身に付けたのでしょうかね?
大豆パワーでしょうか? 私も納豆は好きなんですけど、この時代の納豆は、まだアンモニアの臭いがキツイのが玉に瑕なんですよね…… 早く誰かが改良してくれることを期待しましょう。
「ピッピッピィーー!」
納豆のことを考えていたら知らない間に、ノーサイドで終わってしまった。
同志社大学 vs 関西ラグビー倶楽部 21-18で、同志社の勝ち!
京都帝大 vs 大阪帝大 12-12で、引き分け!
みたいでした。うん、楽しかった!
大阪 某所
「これが、たこ焼きですか?」
「これが、たこ焼きです」
お父様に、たこ焼きを勧めている桜子です。いやー、ありましたよ。たこ焼き! それも、お母様と同郷の会津人が、大阪で元祖たこ焼きを始めたらしいのです。そう考えると、不思議な縁を感じますよね。
「ふむ? いただくとしましょう」
「いただいてください」
ハフハフ……
「むむっ!? こ、これは……」
「お、お気に召しませなんだでしょうか?」
店の御主人も、そんなにビクビクしなくても大丈夫ですよ。
「いや、違う! これは美味いぞ!」
「そうでしょ! そうでしょ!」
ほらね? お父様も、たこ焼きが気に入ってくれたみたいでなによりでした!
「店主殿、もう一人前下さい」
「へいっ! 毎度あり!」
「ところで桜子さんは、たこ焼きをどこで知ったのですか?」
「前世の記憶です!」
「前世の記憶でしたか……」
「はい!」
もう取り繕うのも面倒だから、危ない電波少女路線に変更です!
え? 元からそうだったって?
そう思った貴方は、北樺太の炭田で石炭の採掘でもしてきてください。
帝国は臣民の活躍に期待すること、大であります!
それはそうと、たこ焼き器を作ってもらえば、赤坂の家でもたこ焼きが食べれますので、今度頼んでみましょう。
でも本当は、屋台や街角の小さなお店で、たこ焼きを買って食べるのが一番なんですけどね!




