第5話 役割を壊す修行
ノエルは、あっさりと仲間になった。
「役に立たないかもだけど」
「声なら、出せるよ」
そう言って、
旗を背負った。
それだけで、
場の空気が少し明るくなる。
最初にやったのは、戦闘ではなかった。
修行だった。
「え、筋トレ?」
モブオが唖然とする。
デブリはすでに岩を担いでいる。
「……守るには、持久力がいる」
ノエルは当然のように言った。
モブオ&デブリ
・夜明け前から走る
・鎧を着たままマラソン
・休憩は《応援》つき
「まだいける! 呼吸、安定してる!」
声がかかるたび、
不思議と脚が動く。
《応援》
ただの士気上昇。
のはずなのに、
疲労感の“意味”が変わる。
モモ&ノエル
一方、焚き火の前。
目を閉じる。
呼吸を揃える。
「集中ってね」
「力を入れることじゃないの」
ノエルの声は静かだ。
「“今ここ”に意味を置くこと」
モモは、ゆっくり頷いた。
◇◇◇
数日後。
小規模な魔物の群れ。
実戦。
デブリが前に出る。
《多重防壁》
だが、今回は違う。
ノエルの声が重なる。
「今は、耐える時間!頑張れ!!!」
《守る + 時間》
防壁が、
“長持ちする意味”を持つ。
衝撃が、流れて消える。
モブオが動く。
《乱打》
ノエルが叫ぶ。
「右! 今の位置!ファイト!!」
《殴る + 位置》
空振りが、
誘導になる。
魔物が自然と、
“殴りやすい場所”に集まる。
モモの詠唱。
少し、声が震える。
ノエルが、そっと言う。
「大丈夫。怒らなくていい」
「“焦らない炎”でいい」
《ファイヤー + 感情》
炎は暴れない。
狙った場所だけを、
静かに焼く。
戦闘終了。
短い。
安全。
誰も怪我をしない。
モブオは、地面に座り込む。
「……違う」
「今まで俺は」
「数を増やすことしか、考えてなかった」
ノエルが、頷く。
「+はね」
「量じゃないよ」
「意味を、重ねるの」
防御は、硬さだけじゃない。
“いつまで守るか”
攻撃は、威力だけじゃない。
“どこで当てるか”
魔法は、属性だけじゃない。
“どんな気持ちで使うか”
+は、
意味の層を作れる。
デブリが、静かに言った。
「……俺、まだ壊れない」
モモは微笑む。
「私、怖くなかった」
モブオは拳を握る。
「これなら――」
「単発最強にも」
「重ね勝てる」
ノエルが、旗を立てる。
「修行、続けよ?」
「役割、全部壊そ」
焚き火が揺れる。
彼らの戦い方は、
もう“C級”ではなかった。




