第3話 命からがらの大陸からの脱出
魔王軍追撃部隊。
「止まるな!!」
モブオは叫び、
走りながら《乱打》を後方にばら撒く。
当てない。
倒さない。
近づかせないためだけの攻撃。
魔物が一瞬、足を止める。
その隙に
「今!」
デブリが振り返り、
最後の《多重防壁》を地面ごと展開する。
七枚。
限界。
岩と岩の間に、
無理やり“壁”を押し込む。
次の瞬間。
衝撃。
防壁が一枚、砕ける。
二枚、ひび割れる。
「もう張れない!」
「十分だ!」
モブオが叫ぶ。
モモが息を詰め、
短縮詠唱で魔法を重ねる。
炎。
煙。
光。
威力はない。
だが、視界を奪うには足りている。
「走って!」
三人は、
崩れかけた山道を転がるように駆け下りる。
足を滑らせ、
転び、
それでも立ち上がる。
やがて潮の匂い。
波音。
「……越えた」
眼前に広がるのは、
大陸を隔てる海峡。
古い渡し船。
誰も使っていなかった、小さな船。
モブオは、ほとんど飛び込むように乗り込む。
デブリが縄を切り、
モモが必死に櫂を漕ぐ。
その瞬間。
遠くで、
魔王軍の咆哮が上がった。
届かない。
だが確実に、誰かが狙われている音。
船が波に乗る。
ガーランド大陸が、闇の中に沈んでいく。
― 無名の小島 ―
夜。
今度こそ、本当の静けさ。
焚き火は小さく。
炎を隠すように、三人は座る。
誰も、すぐには口を開かない。
最初に話したのは、デブリだった。
「……守れなかった」
盾を見つめたまま、言う。
「重ねれば壊れないと思ってた」
「でも、限界はあった」
モモが続く。
「私も……」
「失敗しない魔法ばかり選んでた」
「“当てるため”の魔法じゃなかった」
自分の手を、ぎゅっと握る。
モブオは、焚き火を見つめながら言う。
「俺も同じだ」
「削って、止めて、重ねて……」
「それで勝てると思ってた」
首を振る。
「でも、バルガスは」
「削られる前に、全部終わらせてきた」
この世界が、ずっと信じてきた暴力。
沈黙。
やがて、モブオは言う。
「……だからこそだ」
二人を見る。
「+は、間違ってない」
「でも、このままじゃ足りない」
「重ねることで――」
「“別の質”を生み出さなきゃいけない」
守るだけじゃない。
削るだけじゃない。
事故らないだけでもない。
重ねた先に、意味を作る。
デブリが、ゆっくり頷く。
「限界が分かったのは……悪くないな」
モモも、小さく笑う。
「まだ、生きてるし」
焚き火が、ぱち、と鳴った。
ガーランド大陸は失った。
世界は、終わりかけている。
それでも。
敗者は、考えることができる。
そして
考える者は、まだ負けていない。




