第11話 単発最強の隠し技
削られている。
確かに――
重層竜バルガスは、そう理解した。
単発ではない。
重ねられた防御。
重ねられた攻撃。
重ねられた時間。
理屈としては、理解できる。
だが。
黄金の瞳が、静かに光を失うことはなかった。
「……なるほど」
低く、重い声。
「貴様らは、“倒す”つもりで戦っている」
一拍。
「だが――」
バルガスは、ゆっくりと四肢を折りたたく。
巨体が、縮む。
鱗が、軋みながら噛み合っていく。
城砦のようだった身体が、
要塞の核へと変わる。
「我は、“終わらせる”」
奥義発動
《重層回転・絶壊殻》
バルガスが――
丸まった。
アルマジロのように。
いや、違う。
一枚一枚が盾である装甲鱗が、
完全に密閉し、
回転に最適化された完全防御形態。
次の瞬間。
回転。
加速。
質量 × 装甲 × 魔力。
――世界が、轟音を上げて回る。
最初に砕けたのは、《多重防壁》。
一枚目。
消失。
二枚目。
粉砕。
三枚目。
衝突点ごと、消える。
「ッ……!」
デブリが、吹き飛ばされる。
防御が壊れたのではない。
防御という概念が、踏み潰された。
モブオが《乱打》を叩き込む。
――当たらない。
回転速度が、
「狙う」という行為を否定する。
一撃。
一撃。
一撃。
バルガスの回転が、
直線ではなく、面で迫る。
「くそ……!」
踏み出した瞬間、
衝撃。
身体が宙を舞う。
削る前に――
触れたら終わり。
モモの《二重ファイヤ》が放たれる。
炎が包む。
だが――
回転が、熱を弾く。
遠心力で、
炎が外へ、外へと引き剥がされる。
「……効かない……!」
《スロウ》
《スロウ》
重ねる。
だが、遅くならない。
「……無意味だ」
バルガスの声が、
回転の中から響く。
「回っているのではない」
「完結しているのだ」
衝突。
C級ラインが、
まとめて、弾き飛ばされる。
モブオは、地面を転がり、止まる。
身体が、言うことをきかない。
視界が、揺れる。
立ち上がろうとして
膝が、落ちる。
バルガスが、ゆっくりと形態を解く。
再び、竜の姿へ。
削られていた装甲は――
回転によって、再配置されている。
「理解したか」
黄金の瞳が、モブオを見下ろす。
「貴様らの戦い方は、正しい」
「だが」
一歩、踏み出す。
「勝利には、届かぬ」




