第4話 戦闘の外に追いやられて
魔物との戦闘
オーク戦では、今までとは明らかに違った。
二足歩行の巨体。
厚い皮膚。
粗雑だが重い一撃。
「来るぞ!」
アレスが剣を構え、前に出る。
その背中は、もう“勇者”のものだった。
「モブオ、後方に回れ!」
その指示に、違和感はなかった。
いや……あるはずなのに、俺は反射的にうなずいていた。
「了解」
俺は荷物を抱え、少し距離を取る。
戦闘が始まった。
オークの棍棒が、地面を砕く。
その衝撃で、空気が震えた。
「速い……」
リナが息を呑む。
その瞬間だった。
アレスの剣が、三度、光った。
一撃。
二撃。
三撃。
四撃。
流れるような連続斬撃。
《乱れ切り(A級)》
覚醒。
「な……!」
オークの巨体が、血を噴きながら膝をつく。
「これが……A級……」
俺は、言葉を失っていた。
派手だった。
圧倒的だった。
俺の《殴る》が入り込む余地は、どこにもなかった。
「今のうちに!」
リナの《ファイヤー》が炸裂し、
カインの《守る》が完璧な陣形を作る。
俺は、ただ後ろで立っていた。
前に出る理由が、ない。
戦闘は、数分で終わった。
「やった……!」
リナが歓声を上げる。
「無傷だ。神に感謝を」
カインが胸に手を当てる。
アレスは剣を納め、こちらを見る。
「モブオ」
「……なに?」
「次からは、戦闘中は後ろでいい」
一瞬、時間が止まった。
「危ないから」
その言葉は、優しかった。
声も、表情も。
だが
そこには、もう俺が前線に“並ぶ場所”がなかった。
「荷物の管理と、周囲の警戒を頼む」
「……分かった」
俺は、うなずいた。
断る理由も、
前に出る根拠も、
もう持っていなかったから。
次の戦闘でも、同じだった。
「モブオは後方」
「無理しなくていい」
いつの間にか、
俺の役割は“戦わないこと”になっていた。
剣を握りしめながら、
俺は自分に言い聞かせる。
役に立っている。
これも必要な仕事だ。
だが、戦闘が終わるたびに、
俺の手は、少しずつ軽くなっていった。
振る場所を失った重さ。
夜。
焚き火の前。
アレス、リナ、カインは、
戦闘の話で盛り上がっている。
「乱れ切り、完全に体に馴染んできたな」
「次はS級スキルも近いですよ」
俺は、その輪の外で、荷物を整理していた。
誰も、悪くない。
誰も、俺を責めていない。
だからこそ
この距離は、埋まらない。
ああ。
俺は気づいてしまった。
戦闘の外に追いやられた瞬間、
俺はもう“仲間”ではなくなり始めていた。




