第10話 C級+プラス vs 重層竜
重層竜バルガスが、地に降り立つ。
その一歩で、大地が沈む。
装甲鱗が擦れ合う音が、
戦場そのものを押し潰していく。
単発最強。
圧倒的質量。
一撃で終わらせる存在。
本来なら
対峙した時点で、詰みだ。
だが。
モブオは、剣を構えながら息を吸う。
「……一発で倒せないなら」
「倒れない戦い方を、続けるだけだ」
防御を重ねる
《多重防壁》
デブリの前に、
一枚。
二枚。
三枚。
四枚。
透明な防壁が、重なって並ぶ。
バルガスの前脚が振り下ろされる。
―音。
一枚目が砕ける。
二枚目が軋む。
三枚目で、止まる。
四枚目で、ひびが入る。
「……受けたぞ……!」
完全には防げない。
だが、勢いを殺す。
それで、十分だった。
攻撃を重ねる
《乱打》
モブオが踏み込む。
一撃。
二撃。
三撃。
一発一発は、軽い。
だが
鱗の隙間、関節、装甲の重なり目だけを狙う。
削る。
叩く。
止める。
バルガスの巨体が、
わずかに、わずかに、ズレる。
魔法を重ねる
《二重ファイヤ》
モモの詠唱が、短く、正確に重なる。
炎。
その上に、炎。
爆発ではない。
焼き切るでもない。
熱を、逃がさない。
装甲鱗の内側に、
じわじわと熱が溜まっていく。
バルガスの呼気が、重くなる。
時間を重ねる
《スロウ》《スロウ》
魔法が、二重にかかる。
動きが、若干遅い。
いや。
遅くなっている。
踏み込み。
振り下ろし。
首の回転。
すべてが、
「ほんの一瞬」遅れる。
その一瞬が、
C級に生存を許す。
一撃では倒れない。
だが。
削り続ける。
止め続ける。
壊さず、崩さず、続ける。
バルガスの黄金の瞳が、細まる。
初めて――
数値ではなく、感覚で異変を捉える。
「……減っている?」
装甲が割れたわけではない。
致命傷もない。
だが。
質量が、
動きが、
圧が――
確実に、落ちている。
単発最強主義。
「一撃で終わらせる」思想。
それが――
終わらない戦いの中で、
初めて意味を失う。
モブオは、息を整えながら前に出る。
「俺たちは、C級だ」
「だから」
剣を振る。
「壊れない戦いしか、しない」
重層竜バルガス。
その巨体が、初めて後退する。
単発最強主義が、
音を立てて崩れ始めた。




