第4話 前線が、前へ動く
戦場の空気が、変わった。
魔物の波が、止まっている。
押し返されているのではない。
押し留められている。
しかもC級冒険者だらけの
最前線で。
「……おい」
B級冒険者の一人が、前を睨む。
「C級が……持ってるぞ」
本来、数分で崩れるはずの突撃兵線。
そこが、微動だにしない。
魔物が詰まり、
倒れ、
起き上がれずにいる。
「今だ!」
B級が動く。
盾持ちが前へ。
槍使いが間合いを詰める。
C級が作った“安全な穴”に、
B級が突っ込む。
「一気に削るぞ!」
魔物の側面が抉られる。
今まで届かなかった位置に、攻撃が通る。
「……いける」
B級は、確信する。
この戦場、死なない。
その後ろ。
A級冒険者たちも、気づいていた。
魔法剣士が剣を構える。
弓手が矢をつがえる。
範囲魔法使いが詠唱を始める。
「前が、安定してる……?」
「あり得ない……C級だぞ?」
だが、事実だった。
最前線が崩れない。
事故が起きない。
だから
全力を出せる。
「行くぞ!」
A級が前へ出る。
一撃が重い。
一掃が速い。
魔物が、まとめて消し飛ぶ。
戦線が、押し上がる。
一歩。
また一歩。
戦場全体が、前進していく。
その中心。
魔物に囲まれながら、
モブオは拳を振るっていた。
殴る。
止める。
崩す。
休まない。
「……なんだよ、これ」
近くの冒険者が呟く。
「C級だろ……?」
後方。
勇者アレスは、その光景を見ていた。
剣を構えたまま、
動けずに。
視線の先。
最前線で、
魔物の群れを止め続ける男。
見覚えのある背中。
(……あの、出来損ないが……モブオが)
かつて、
才能なし。
高スキルなし。
役立たず。
そう判断して切り捨てた存在。
それが
無双している。
一撃で倒しているわけじゃない。
派手な技もない。
だが、
誰よりも魔物を止め、
誰よりも戦線を支えている。
「……あり得ない」
アレスの価値観が、軋む。
強さとはスキルの高さ
英雄とは、前に出る者。
違う。
今、戦場を動かしているのは、
名もなき連続だった。
前線が、さらに前へ。
C級が土台になり、
B級が走り、
A級が刈り取る。
戦場は、回り始めていた。
その中心にいるのが、
かつての“出来損ない”。
勇者アレスは、剣を強く握りしめる。
「……俺も、出る」
気づいてしまったからだ。
この戦場で、
一番“危険”なのは
あのC級冒険者だと。




