第2話 C級が無双する戦場
魔物の群れと戦闘開始。
「「「「「「ワアアアアアアアア!!!突撃!!!」」」」」」
叫び声と共に、
C級冒険者たちは走り出す。
角笛が鳴り、
大地の向こうから魔物の第一波が押し寄せてくる。
牙を剥いた小型魔獣。
群れで動く爪持ち。
数だけで押し潰すための存在。
雑魚。
だが、
数が多い雑魚ほど、C級にとっては脅威だった。
ギルドの指示は、簡単だ。
C級冒険者の役割。
・前に出る
・魔物を引きつける
・時間を稼ぐ
・倒れたら、次が出る
そして最後に、
誰も口にしない一文が続く。
・死にやすい仕事。
「来るぞ……!」
誰かが叫ぶ。
次の瞬間、
魔物の群れが雪崩れ込んできた。
最初に衝突したのは、
C級冒険者たちの列。
剣がぶつかり、
盾が鳴り、
悲鳴が混じる。
一人が倒れ、
すぐ次が前に出る。
治癒魔法は届かない。
後衛は、まだ動かない。
想定通りだ。
モモは、震えていた。
杖を握る指が白くなり、
詠唱の声がかすれる。
「……っ、ファ、ファイヤー……!」
放たれた火球は、
魔物を一体倒す。
だが、
すぐに次が迫る。
「数が……多すぎる……」
恐怖が、顔に張り付いていた。
デブリは、歯を食いしばる。
前に立つ。
盾を構える。
《守る》
衝撃が、全身を揺らす。
一撃。
二撃。
それでも、下がらない。
だが、
一人では、止めきれない。
その横で。
モブオは、笑っていた。
「いいじゃないか」
血と砂埃の中で、
その声だけが妙に澄んでいた。
「一番前なら――」
拳を握る。
「一番、手数を出せる」
+(プラス)が、起動する。
《殴る+空振り+殴る》
当たらないはずの拳が、
空間を叩く。
《乱打》(C級)
魔物の群れが、まとめて弾かれる。
「……なに?」
近くのC級冒険者が、目を見開く。
モブオは止まらない。
《殴る+殴る+殴る》
《空振り+殴る+空振り+殴る》
一撃一撃は軽い。
だが、数が違う。
削る。
止める。
押し返す。
死なない前線が、
C級の列の一角に生まれた。
モモが、はっと顔を上げる。
「……今なら!」
詠唱。
《ファイヤー+ファイヤー》
《二連ファイヤー》(C級)
火が、線になる。
魔物の列が、崩れる。
デブリが、前に出る。
《守る+守る》
衝撃が、消える。
「通さない……!」
その背中は、
突撃兵のものじゃない。
前線そのものだった。
周囲のC級冒険者たちが、気づき始める。
「あそこ……崩れてないぞ」
「死んでない……?」
誰かが叫ぶ。
「まだいける! ついていけ!」
C級の中で、
初めて“押し返し”が起きる。
それは奇跡じゃない。
英雄でもない。
ただ
数を重ねただけだ。
後方。
B級冒険者たちが、違和感に気づく。
「……C級が、持ちこたえてる?」
「第一波が、止まってるぞ」
さらに後ろ。
A級冒険者の一人が、呟く。
「……時間が、稼がれている」
モブオは、拳を振る。
息は荒い。
頭が少し痛む。
それでも、笑う。
「突撃兵の仕事?」
「違うな」
目の前で、
魔物が倒れる。
「これは、C級が無双する戦場だ!」
C級+プラスの戦術が、
戦場で初めて、その牙を剥いた。




