第3話 才能という言葉
ファスト王国の冒険者ギルドは、いつも騒がしい。
剣の音、笑い声、酒の匂い。
だがその日、俺には妙に空気が澄んで感じられた。
評価の日だった。
討伐報告を終え、
木製のカウンターの前に四人で並ぶ。
まず、勇者アレス。
「返し斬りから、B級《つばめ返し》へ覚醒確認」
ギルド職員が淡々と告げる。
だが、その声にはわずかな高揚が混じっていた。
「……将来有望。勇者候補として順調です」
周囲がざわつく。
「もうB級かよ」
「やっぱり勇者は違うな」
アレスは少し照れたように頭を掻いた。
次にリナ。
「C級。魔力効率良好。伸び代あり」
「A級魔導士候補ですね」
リナが目を輝かせる。
「本当? やった!」
カインも同様だった。
「C級《守る》。安定性高。僧侶として優秀」
「回復系覚醒の可能性あり。A級候補」
祝福の言葉。
期待の視線。
未来を前提とした評価。
そして――俺の番。
「モブオ。C級《殴る》」
職員は書類から目を離さない。
「戦闘参加は確認。立ち回り良好」
一瞬、期待が膨らむ。
だが、次の言葉は短かった。
「……評価は平均的。特筆なし」
それだけだった。
胸の奥が、すうっと冷える。
平均的。
特筆なし。
「以上です」
呼ばれたのは、それだけ。
ああ。
俺は初めて、はっきりと理解した。
ここでは、
“未来が見える者”しか評価されないのだと。
カウンターを離れた後、
アレスが気まずそうに声をかけてくる。
「気にするなよ、モブオ。評価なんて――」
「分かってる」
俺は笑って答えた。
評価は事実だ。
C級の《殴る》しか使えない俺は、
今も、昨日も、たぶん明日も、同じ場所にいる。
いや、本当に同じなのか?
アレスはもうB級だ。
リナとカインは「候補」として見られている。
止まっているのは……俺だけだ。
ギルドの端で、職員同士の小声が耳に入る。
「勇者パーティーに一人、伸びないのが混じってますね」
「まあ、よくある話です」
「スキルが伸びない者は、いずれ足を引っ張りますから」
悪意はない。
ただの事実としての言葉。
だからこそ、痛かった。
足を、引っ張る。
俺は、いつからそうなった?
宿へ戻る道すがら、
人々の視線が、わずかに変わった気がした。
アレスを見る目は、期待。
リナを見る目は、憧れ。
カインを見る目は、安心。
そして俺を見る目は――
数に含まれているだけの視線。
「才能ってさ」
ぽつりと、リナが言う。
「早く咲く花なんだよね」
皆、うなずく。
俺だけが、うなずけなかった。
じゃあ、
遅く咲く花は、最初から数に入っていないのか?
その夜、ベッドに横になりながら、
俺は自分のステータスを思い浮かべていた。
C級。
殴る。
変わらない文字列。
この時、俺は初めて意識した。
俺だけが、取り残され始めているという現実を。
まだ声にはならない。
まだ痛みも鈍い。
だが確実に、
同じスタートラインは、崩れ始めていた。




