第8話 ギルド緊急招集
魔王軍が、動いた。
その報は、
悲鳴でも、叫びでもなく
警鐘として届いた。
◇◇◇
ギルド本部。
常時点灯しているはずの照明魔石が、
一斉に明滅する。
赤。
赤。
赤。
壁に埋め込まれた魔導水晶が、
低く唸り声を上げた。
魔王軍の大群の侵攻警報。
それは、
数十年に一度鳴るかどうかの、
最上位警戒信号だった。
次の瞬間。
鐘が鳴る。
一つではない。
街中に設置されたすべての警鐘が、
同時に、狂ったように鳴り響く。
澄んだ音ではない。
鉄を叩き潰すような、
耳を削る重音。
人々は、足を止める。
商人が。
職人が。
子どもが。
誰もが空を見上げ、
そして理解する。
その日が来たと。
◇◇◇
ギルド内部。
受付カウンターの裏で、
ギルドマスターが立ち上がる。
顔色は、蒼白。
だが声は、震えない。
「全冒険者に告ぐ」
魔導拡声装置が起動する。
街全体に、
その声が反響する。
「これは演習ではない」
「魔王軍幹部
重層竜バルガスによる宣戦布告を確認」
一瞬の沈黙。
そして
「新大陸〈カイザーランド〉全域を戦線と認定する」
空気が、凍る。
「ランク不問」
「所属不問」
「個人、パーティー、傭兵団」
言葉が、続く。
「即時、ギルド本部へ集結せよ」
「拒否権はない」
「逃走は、敵対行為とみなす」
それは招集ではない。
動員だった。
◇◇◇
ギルドの扉が、開く。
S級冒険者が、姿を現す。
名を知らぬ者はいない。
単発火力で名を轟かせた英雄。
次に、A級。
その後ろに、B級。
鎧が鳴り、
武器が擦れる。
強者たちが、次々と集まってくる。
だが
空気は、軽くならない。
誰もが知っている。
映像に映った、
あの一撃。
あの質量。
あれは、個の延長線ではない。
◇◇◇
その片隅。
モブオ、モモ、デブリの三人は、
静かに立っていた。
周囲の視線が、
一瞬だけ、彼らをかすめる。
C級。非推奨構成。
評価不能。
誰も、声をかけない。
だが。
モブオは、
ギルド中央の戦況盤を見る。
赤く塗り潰され始めた地域。
侵攻予測線。
重層竜バルガスの進路。
「魔王軍の大群が来る……最前線か」
呟きは、小さい。
だが、確かだった。
壊れない前線。
止まらない攻撃。
重ね続ける力。
この世界が、
まだ“想定していない戦い方”。
デブリが、拳を握る。
モモが、深く息を吸う。
鐘は、まだ鳴り続けている。
◇◇◇
ギルドマスターが、最後に告げる。
「これは、ただの防衛戦ではない」
「価値観そのものが、試される戦争だ」
誰も、否定できなかった。
重層竜バルガスは、
すでに答えを出している。
強さとは、一撃必殺。
だが。
その答えに、
異物が混じり始めていることを。
戦争は始まった。
そして
C級冒険家 モブオたちは、最前線の戦場へと向かう。




