第7話 単発最強主義
それは、災害のように現れた。
空が、暗くなる。
雲が裂けたのではない。
重さが、降りてきた。
幾重にも重なった鱗。
一枚一枚が、城壁より厚い。
魔王軍幹部
重層竜バルガス(じゅうそうりゅう)
■ 種族
古代重層竜種
魔王軍幹部級存在。
単なるドラゴンではなく、「防御と質量そのものが権威となった竜」。
■ 外見
・全長は城砦級。翼を畳んでも街一つ分の圧迫感を持つ
・体表は何層にも重なった装甲鱗で覆われている
・一枚一枚の鱗が「独立した盾」のように厚く、
重なり合うことで異常な防御密度を生む
鱗の色は
黒鉄と深紅が混ざったような鈍い金属色。
光を反射せず、吸い込む。
・首は短く太い
・頭部は角が少なく、代わりに装甲が盛り上がった要塞形状
・目は小さく、黄金色
感情を映さず、ただ“測る”ように対象を見る。
バルガスは、歩いた。
ただ一歩。
それだけで、
地面が砕け、岩盤が沈む。
近くにいた巨大魔獣が、
威嚇の咆哮を放つ。
次の瞬間。
尾が、一度だけ振られた。
轟音。
衝撃。
魔獣は――
倒れたのではない。
存在ごと、消えた。
一撃必殺。
一撃粉砕。
それが、
重層竜バルガスの“通常”だった。
バルガスは、興味なさげに言う。
「連続攻撃など、無意味」
その声は低く、
だが世界に染み込む。
「重ねるなど、弱者の逃げだ」
もう一歩、踏み出す。
大地が割れ、
衝撃波が走る。
「強さとは――」
ゆっくりと、
確信をもって。
「一撃だ」
それは哲学でも、挑発でもない。
事実の提示だった。
今まで、
この世界はそれで成り立ってきた。
一撃で倒せる者が強者。
倒せない者は、弱者。
単発最強主義。
それが、
魔王軍の絶対的価値観。
バルガスは、空を見上げる。
そして
宣言する。
「聞け、人の世界」
声が、魔力を帯びて広がる。
「我ら魔王軍は、この地新大陸〈カイザーランド〉を戦線と定める」
沈黙。
逃げ場のない言葉。
「準備は終わった」
「あとは、踏み潰すだけだ」
翼が、大きく広がる。
それは合図だった。
地平線の向こう。
黒い影が、動く。
無数の魔物。
魔王軍の先遣部隊。
侵攻開始。
重層竜バルガスは、最後に呟く。
「一撃で終わらぬものなど、ない」
その言葉と同時に、
魔王軍は、動き出した。
世界は、最恐の暴力に覆われようとしていた。




