第6話 C級だけの戦場
危険区域。
ギルド地図では、赤で囲まれた場所だ。
「B級以上立入可」
そう明記されている区域に、三人は立っていた。
本来なら、
精鋭のパーティーが隊列を組み、
後方に回復役を置き、
慎重に進む場所。
だが
ここにいるのは、
C級スキル保持者だけ。
前に立つのは、デブリ。
《守る》しか持たない男。
だがその周囲には、
目に見えない層が幾重にも重なっている。
防御は、多重
《多重防壁》(C級)
空間が、厚くなる。
横と後方。
モブオが動く。
+(プラス)を、連続で重ねる。
《殴る + 空振り + 殴る》
《空振り + 殴る + 空振り + 殴る》
当たらないはずの拳が、
周囲をまとめて叩き潰す。
これは連打じゃない。
“当てない前提”の広範囲の攻撃。
《乱打》(C級)
空振りすら織り込み、
連続して“重ねる”。
攻撃は、連打と連鎖。
さらに後方。
魔法使いモモ。
詠唱は相変わらず拙い。
声が裏返り、
一瞬、詠唱を噛む。
だがモブオが動く。
+(プラス)を、重ねる。
《ファイヤー+ファイヤー》
《灯り+風起こし》
魔法は、重ねがけ。
火は広がり、
風は導線になる。
《二連ファイヤー》(C級)
《《流灯》(C級)
魔物が倒れる。
一体ずつ。
確実に。
時間はかかる。
だが、
崩れない。
三人の戦い方には、
“爆発力”がない。
代わりにあるのは、
・壊れない前線
・止まらない攻撃
・事故らない魔法
安全。
異常なほどに、安全
無傷の中で魔物は全滅した。
◇◇◇
後日。
ギルドに提出された戦果報告。
討伐数。
侵入区域。
損傷ゼロ。
だが
モブオたちの冒険者
評価欄は、空白のまま。
スキルランク:C
パーティー構成:非推奨
戦術:記載不能
「……どう書けって言うんだ、これ」
ギルド職員が、頭を抱える。
同じ頃。
ギルドの奥。
重い声が、囁かれる。
「魔王軍が、動いているらしい」
「前線が、静かすぎる」
「……嫌な静けさだ」
モブオは、知らない。
自分たちの戦場が、
すでに“想定外”として
記録され始めていることを。
C級だけの戦場。
それはやがて、
“魔物信仰の最前線”と呼ばれる場所になる。




