第4話 多重防壁
実験場所は、
城塞都市の外れにある採石場跡だった。
人目がなく、
多少の衝撃音なら問題にならない。
デブリは、巨大な鎧のまま立っている。
「……本当に、やるのか?」
声に、不安が混じる。
モブオは頷いた。
「一回じゃない」
「重ねる」
モモは、少し離れた位置で見守っていた。
最初は、単純だった。
《守る+守る》
左手に、あの感覚。
《+(プラス)》
モブオを重ねると、
デブリの鎧の表面に、違和感が走る。
見た目は、ほとんど変わらない。
だが
空気が、歪む。
モブオが合図を出す。
「……いく」
模擬用の鉄槌が、
デブリの胸部に叩きつけられる。
ガンッ
鈍い音。
だが、
衝撃が、浅い。
「……今の」
と、デブリが呟く。
「効いて、ない?」
モブオは、息を整える。
ここからが本番だ。
《守る+守る+守る+守る+守る》
+(プラス)を、連続で重ねる。
視界が、少し歪む。
頭の奥が、熱くなる。
だが、止めない。
デブリの周囲に、
目に見えない“層”が生まれる。
《多重防壁》(C級)
空間が、厚くなる。
「……来い」
デブリは、そう言った。
次の一撃。
全力。
岩を砕くほどの力。
無音。
衝撃が、消えた。
反動すら、ない。
鉄槌を振るった側が、
よろめく。
デブリは、立ったままだった。
一歩も、動いていない。
沈黙。
デブリは、自分の両手を見る。
鎧を叩く。
痛みが、ない。
「……俺」
「壊れない?」
声が、震える。
恐怖ではない。
信じられなさだ。
モブオは、静かに言う。
「《多重防壁》になった成功だ。」
「ランクは、C級のまま」
モモが、息をのむ。
「……なのに」
「うん」
「完全防御だ」
デブリは、しばらく動けなかった。
これまで、
何度も倒されてきた。
守って、守って、
最後には崩される。
それが当たり前だと思っていた。
だが今は一切の物理攻撃は通らない。
「……俺は」
「ただの肉壁じゃ、なかったんだな」
その声は、低く、熱を帯びていた。
モブオは、答える。
「前から」
「必要だった」
“役に立つ”ではない。
“使える”でもない。
必要とされる。
その感覚が、
デブリの胸に、初めて根を下ろした。
巨大な鎧の中で、
拳が、強く握られる。
C級スキル守るを進化させ超えた瞬間だった。




