第3話 守護する者
ギルドの護衛依頼は、地味だった。
城塞都市から隣の集落まで、
荷馬車を一台、街道沿いに運ぶ。
危険度は低。
報酬も安い。
だからこそ、
即席の面子が集まった。
モブオ。
魔法使いのモモ。
そして、巨大な鎧の男 デブリ。
初心者の冒険者
四人は、ほとんど言葉を交わさないまま、
馬車の横を歩いていた。
異変は、突然だった。
林の奥から、
地面を叩くような足音。
魔物の奇襲。
数は少ない。
だが、動きが速い。
護衛対象の御者が叫ぶ。
「来るぞ!」
前衛役だった冒険者が、
一瞬、動きを止めた。
判断が遅れた。
その瞬間
デブリが前に出た。
《守る》(C級)
盾を構え、
全身で立ちはだかる。
魔物の一撃。
重い衝撃。
だが、
止まる。
馬車は、無傷だった。
モモが詠唱に入る。
だが、
詠唱は間に合わない。
敵が、回り込もうとする。
再び、デブリが動く。
攻撃はしない。
ただ、
進路を塞ぐ。
《守る》(C級)
衝撃を、受け止める。
傷は増える。
だが、一歩も退かない。
その背中を見て、
モブオは確信した。
守りを重ねられる。
モブオが前に出る。
《殴る+殴る》
連打で、魔物の注意を引く。
モモの《ファイヤー》が、
ようやく飛ぶ。
撃破。
短い戦闘だった。
だが、
全員が無傷で無事だったのは
傷だらけになったデブリが、
“守り続けた”からだ。
戦闘後。
御者が、深く頭を下げる。
「助かりました」
「本当に……」
評価は、依頼書には反映されない。
だが、
現場では、はっきりしていた。
モブオは、デブリの前に立つ。
巨大な鎧。
傷だらけ。
「……守る、だけで」
「価値がないって、言われてきたか?」
デブリは、少しだけ目を伏せる。
「まあ、な」
モブオは、続ける。
「でも」
「《守る》は、重ねられる」
デブリが、顔を上げる。
「重ねる?」
「C級スキルでも」
「価値は、作れる」
しばらくの沈黙。
それから、
デブリは、ゆっくりとうなずいた。
「……俺は」
「守ることしかできない」
「それでいい」
と、モブオは言った。
「一緒に、強くならないか」
デブリは、拳を握る。
その音が、鎧の内側で鳴った。
C級スキルに、
初めて“役割以上の価値”が与えられた瞬間だった。




