第2話 肉壁と呼ばれた男
城塞都市の訓練場は、
いつも騒がしい。
鋼の鎧がぶつかり、
魔法が飛び交い、
見物人の野次が混じる。
その中央に、
一人だけ動かない男がいた。
巨大な全身鎧。
盾は、城門のように分厚い。
アーマーナイト・デブリ。
彼の前に立つ冒険者が、
模擬用の槍を構える。
「いくぞ、肉壁」
笑い声。
槍が突き出される。
デブリは、一歩も動かない。
《守る》(Ⅽ級)
金属音。
衝撃が、鎧で止まる。
観客がざわつく。
「攻撃しないのか?」
「できないんだろ」
その通りだった。
覚えているスキルは、
C級《守る》のみ。
攻撃手段なし。
防御しかできない。
「置物」
「盾役としても、地味すぎる」
言葉が、飛ぶ。
デブリは、黙って立っている。
何も言い返さない。
ただ、
誰かの背後に立つ位置を、守り続ける。
模擬戦が終わる。
審判が言う。
「はい、終了」
「……次、別の組」
拍子抜けした空気。
勝敗は、つかなかった。
休憩場。
パーティーの一人が、吐き捨てる。
「時間の無駄だ」
「こいつ入れても、評価上がらねえ」
デブリは、うなずくだけだった。
「……そうだな」
それでも、鎧は脱がない。
「守るのは、嫌いじゃない」
それが、彼の全てだった。
そのころ。
城下町の裏通り。
モブオは、露店を回っていた。
古道具屋。
農具屋。
雑貨屋。
目的は、武器ではない。
C級スキル。
村人が持つ初期スキル。
生活用の魔法。
《掃除》
《火おこし》
《風起こし》
《支える》
《蹴る》
使われなくなったスキルを、
物々交換や、少額で譲ってもらう。
「どうせ、役に立たないからな」
と、皆、簡単にC級スキルの刻印石を手放す。
モブオは、静かに受け取る。
ひとつひとつ、
頭の中で組み合わせを試しながら。
訓練場に、再び視線が戻る。
デブリは、今日も立っていた。
笑われながら。
期待されずに。
だが、
その背中は、倒れなかった。
“守るだけの男”と“重ねる力を持つ男”が出会うのは、
もうすぐだった。




