第9話 C級のまま、名が広がる
依頼内容:大型魔物討伐
対象:《山林徘徊種・グラードウルフ》
推奨ランク:B級パーティー以上
備考:過去三件、討伐未達
グラードウルフの素材が、
ギルドのカウンターの上に並べられた。
牙。
皮。
どれも、本物だ。
受付のギルド職員は、
書類と素材を何度も見比べている。
「……本当に」
「二人で、ですか?」
モブオは頷く。
モモは、少し後ろで立っていた。
職員は報告書に目を落とし、
首をかしげる。
「戦闘時間、短すぎますね」
「損傷も、想定より少ない」
ペンが、止まる。
「スキルランクは……C級のまま」
「でも、結果だけ見れば……」
言葉が続かない。
ギルド評価表には、
決まった項目しか存在しない。
・討伐対象 B級スキル保有者
・推奨ランク B級スキル保有者
・参加人数 4人以上推奨
そこに、
“組み合わせ”や
“戦術的再構築”を書く欄はなかった。
「ランクはⅭ……評価は、変わりません」
職員は、そう告げる。
どこか、申し訳なさそうでもあり、
同時に、安堵しているようにも見えた。
規格外を、処理しなくていい安堵。
掲示板の前。
別の冒険者たちが、
小声で話している。
「なあ、聞いたか」
「C級二人で、グラードウルフ倒したって」
「嘘だろ」
「盛ってるだけじゃね?」
「でも素材、本物だったぞ」
視線が、ちらりとこちらに向く。
好奇と、嘲笑が混じった目。
モモは、ローブの裾を握る。
以前なら、俯いていた。
だが今は、
一歩も引かなかった。
酒場でも、噂は流れる。
「C級のくせに、B級仕事を奪うな」
「危ない真似してるだけだろ」
直接は言われない。
けれど、
席を外される。
会話が、止まる。
モブオは気にしない。
慣れている。
評価されない視線も、
数字に書かれない努力も。
夜。
宿の小さな部屋。
モモが、ぽつりと言う。
「……私たち」
「変ですよね」
「うん」
「評価の外にいる」
モブオは、拳を握る。
その内側に、
静かに息づく《+(プラス)》を感じながら。
“+”は、
既存の枠に存在しない。
だから、
誰も評価できない。
モブオは思う。
評価されなくていい。
勝てば、それでいい。
だが同時に、
別の予感も芽生え始めていた。
評価されない力は、いずれ恐れられる不安をかかえて。




