第7話 +(プラス)の限界と代償
森の奥。
二体の魔物のウルフが、同時に跳びかかってきた。
モブオは踏み込み、拳を振るう。
《殴る+殴る+殴る》(C級)
三連殴る。
ドン、ドン、ドン。
衝撃が、三段階で走る。
確実に仕留める。
だが。
着地した瞬間、
足元が、わずかに揺れた。
「……?」
視界が、歪む。
木々の輪郭が、波打つように揺れ、
頭の奥に、鈍い痛みが走った。
「モブオさん?」
モモの声が、少し遠い。
こめかみを押さえる。
ズキリ、と強い頭痛。
「……平気」
そう言った直後、
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられた。
息が、浅くなる。
さっきまで何ともなかったはずの身体が、
急に重い。
戦闘は勝利して終わっている。
敵はいない。
それでも、回復しない。
使いすぎた。
モブオは、直感する。
+(プラス)を重ねた回数。
短時間での連続使用。
それが、
確実に自分の体力を削っている。
「……無制限じゃ、ないな」
独り言のように呟く。
+は便利だ。
だが、
何でも足せる力ではない。
限界がある。
そしてそれは、
スキルのランクや数値には表示されない。
モモが、そっと近づく。
不安そうな顔。
「無理しないでください」
小さな声。
責めるでもなく、
命令するでもなく。
ただ、心配している声。
モブオは、少しだけ笑った。
「大丈夫」
額の汗を拭いながら言う。
「これは、俺の戦い方だ」
選んだのは、自分だ。
誰かに与えられた力じゃない。
拾い上げた、歪なスキル。
だからこそ、
代償も引き受ける。
モモは、黙って頷く。
そして言う。
「じゃあ……私も、支えます」
その一言が、
頭痛よりも、胸に響いた。
力には、代償がある。
便利なものほど、
体力と命を削る。
だが
一人で払う必要は、ない。
森の風が、静かに吹いた。
次の戦いは、
もう少し慎重に。
二人は、次の町へと歩き出した。




