第6話 評価が追いつかない
掲示板には、簡素な依頼書が貼られていた。
《ウルフ五体の討伐》
危険度:低
報酬:少額
モブオとモモは、依頼書を剥がし、
その日のうちに仕事を終えた。
五体。
無駄なく、確実に。
炎で動きを封じ、
空振りの拳で制圧する。
派手さはない。
だが、失敗もない。
翌日、二人はギルドへ向かった。
受付の前。
依頼達成の報告。
職員は、淡々と確認する。
「……確かに、ウルフ五体ですね」
刻印石に記録された討伐証。
数は合っている。
「報酬はこちらになります」
銀貨が、机の上に置かれる。
以上。
それだけだった。
評価板が、書き換えられる。
・スキルランク:C
・実績:地味
・危険度対応:低
変わらない。
何も、変わっていない。
モブオは、内心で思う。
そりゃそうだ。
ギルドの評価基準は、明確だ。
高ランクスキルを使ったか。
派手な戦果を上げたか。
危険な依頼をこなしたか。
C級だけで倒したウルフ五体は、
「予定通り」の範囲でしかない。
ギルドの奥から、笑い声が聞こえる。
「なあ、見たか?」
「C級だけでやってるってさ」
「無理だろ」
「いずれ詰む」
冒険者たちの視線が、ちらりと向けられる。
期待も、警戒もない。
ただの嘲笑。
モモは、一瞬だけ肩をすくめた。
以前なら、俯いていた。
だが今は、違う。
「……別に、いいです」
小さく、笑う。
「私たち、数字の外にいますから」
モブオは、少しだけ目を細める。
数字の外。
評価表に書けない。
制度が測れない。
それは
弱さではない。
「行こう」
二人は、ギルドを後にする。
背中に向けられる視線を、
もう気にしなかった。
彼らはまだ、知らない。
評価が追いつかないのではない。
評価のほうが、追いつけないのだ。
そしてそれは、
いずれ“無視できない異常値”として、
世界に露見する。




