第4話 連打という発想
村は、小さくて静かだった。
畑と井戸と、
数件の家。
冒険者が立ち寄ることも少ない、
本当にただの生活の場。
モブオとモモは、討伐ではなく、
村人の手伝いをしていた。
薪割り。
水運び。
壊れた柵の修理。
報酬は、金ではない。
「これ、使わないからさ」
そう言って、村人が差し出したのは
C級スキルの刻印石だった。
この世界では、
C級スキルは“初期スキル”。
冒険者だけでなく、
村人でも持っている者がいる。
生活のための、最低限の力。
「殴る」
「守る」
「火起こし」
「風起こし」
戦うためではなく、
生きるためのスキル。
「こんなのでも、いいのかい?」
「どうせ余ってるしな」
モモは、少し迷ってから受け取った。
《風起こし》
本来は、火起こしの補助に使う民間魔法。
火に風を送り、燃えやすくするだけの、地味なスキル。
「……これ、私がもらっていいんですか?」
「使えるなら、使ってくれ」
モモは深く頭を下げた。
その夜。
村外れの空き地で、
モブオは刻印を並べていた。
《殴る》
《殴る》
《殴る》
全部、同じC級スキル。
モモは少し離れたところから見ている。
「それ……どうするんですか?」
「実験」
モブオは、短く答えた。
左手に意識を集中させる。
《+(プラス)》
一つ目の《殴る》に、重ねる。
《殴る + 殴る》
拳を振る。
ドン。
空気が、二度揺れた。
「……今の」
「二回、当たった?」
モブオは、頷く。
「二連殴るだな」
次。
《殴る + 殴る + 殴る》
踏み込んで、拳を叩き込む。
――ドン、ドン、ドン。
衝撃が、三段階で走る。
地面の土が、抉れた。
「……っ!」
モモが息を呑む。
スキルランクは、変わらない。
刻印を見ても、
表示はずっと《C級》。
だが。
「威力……全然、違います」
「B級の二連打と、ほぼ同じだ」
モブオは冷静に分析する。
「いや……」
「条件が合えば、超えてる」
モモは、目を輝かせた。
「すごい……!」
「じゃあ、魔法も……できる?」
モブオは、少し考える。
《ファイヤー》
《風起こし》
火に、風。
理屈は単純だ。
「……たぶん、できる」
モモは、杖を握りしめた。
今まで、
「外れる」「安定しない」と言われ続けた魔法。
でも
足りなかったのは、才能じゃない。
組み方だ。
C級は、弱いんじゃない。
単体で完結していないだけ。
「モモ」
「はい!」
「次は、魔法でやろう」
小さな村で、
誰も気づかない場所で。
世界の常識を壊すスキル実験が、
静かに進んでいく。
落ちこぼれ二人は、まだ知らない。
この発想が、
やがてSS級スキルを否定することになるのを。




