第10話 置き去りの町
町は、小さかった。
石畳は欠け、
門もなく、
掲げられた旗は色褪せている。
冒険者が通り過ぎるだけの、
名前も覚えられないような町。
ここが、
モブオの「降ろされた場所」だった。
アレスは、最低限の装備を差し出した。
古い剣。
使い慣れた防具。
そして、少額の金。
「……これで、しばらくは」
最後まで言わなかった。
言う必要が、もうなかったからだ。
背を向けて、勇者パーティーは歩き出す。
四人だった背中が、
三つになる。
誰も、振り返らない。
声も、かけない。
その背中が、角を曲がって消えた時
モブオは、初めて拳を強く握りしめた。
爪が、掌に食い込む。
痛みが、確かに“生きている”ことを教えてくれる。
「……ふう」
息を吐く。
泣かなかった。
叫ばなかった。
その代わり、
胸の奥に、静かな火が灯る。
モブオは、左手を見つめた。
そこには、誰にも見せたことのない刻印がある。
スキル欄にも表示されない。
ランクもない。
ただひとつの記号。
《+(プラス)》
スキルではない。
分類すらされていない。
だが、確かに“スキルの力”だ。
今まで、使わなかった。
使えば、
「何かが変わる」と分かっていたから。
だから、隠していた。
仲間の前でも。
勇者の前でも。
町の外れで、モブオは立ち止まる。
空を見上げる。
小さな町。
小さな始まり。
だが、ここから先は
誰にも、責められない。
「……さて」
小さく、笑う。
「C級で、どこまでやれるか」
拳を、軽く振る。
ただの《殴る》。
世界で一番、弱いスキル。
けれど。
「試そうか」
その言葉と共に、
《+(プラス)》が、静かに脈打った。
こうして
落ちこぼれの物語は、
本当の意味で、逆転へと動き出す。
【第一部 追放編 完結】




