表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/33

理解と利害


 うちの高校は5月に運動会がある。秋の行事が多いので日程調整が面倒だと10年ほど前からズラしたらしいが、よりによってゴールデンウィークを使うので生徒からの評判は頗る悪い。流石に滅多にいないとはいえ、ごく稀にゴールデンウィークに旅行行くからと、運動会をブッチする人間もいるらしい。


「ウチらにも有休制度あったらええと思わん?」

「その代わりに夏休みが削られるとかなら嫌だけどな」

「まあ仕事じゃないからね。その学習進度に達してさえいればいいって問題でもないだろうし。それに運動会で有休を使うのは、書き入れ時で忙しい時に有休使うのとそう変わらないと思うよ?」

「しゃあないなぁ……せめてもう1週ズラしてくれればええのに」


 そもそも仕事は仕事だから、書き入れ時に有休とっても表向きは嫌な顔されるだけで取れないことも……いや勤め先次第か。まあなくはないが、学校行事は仕事ではないので、私用でズル休みをする権利は当然慶弔事他を除き無い訳である。なので俺たちは諦めて運動会に出るしかない。

 そんなくだらないことを3つ横並びの席で話している間にも、すぐそこの黒板の前では話が進んでいく。今日は運動会に向けてクラスの運動会委員を選ぶのだ。


 うちの高校の運動会は全6クラス対抗で行われる。各クラスごとにクラス内から委員を選び、その委員が各競技における、たとえばリレーの代表選手や競技におけるチーム分けなどを決定したり、他諸々の運動会に関するクラス単位の活動の纏め役となる。

 問題は俺がそのチーム分けでどう割り振られるかだった。別に全体参加の綱引きや玉入れ系統の種目、あるいはリレーのような代表のみが参加する競技は何も問題ない。


 だが、俺にとっても問題種目はムカデ競走であった。つまり二人三脚拡大版と言えるムカデであるが、つまりここでチームをマナと組まさせられるか、絵梨華と組まさせられるかということであった。

 マナは実際クラスに良く馴染んでいた。智の予言通り、マナは新しいクラスになって次第に形成されていった女子グループの中に、ごく当たり前のような顔をしてさっくり紛れ込んでいた。その際に俺と幼馴染であることを触れ回ったらしく、俺とマナの関係はクラス最大の女子グループからそう怪しまれずにすんでいた。


 しかし男子はその限りではなかった。特に絵梨華に気があって俺へのヘイトを高めている連中はともかく、それ以外の俺に関する噂を信じていない面々も、俺とマナの間柄に関しては多少の憶測を立てているらしかった。ただ寧ろ彼らは俺と絵梨華とマナの間の揉め事を、他人の不幸は蜜の味とばかりに楽しんでいるだけのようだった。

 ともあれ現状俺は「学年のマドンナと破局したばかりで変な誹謗中傷を流され、しかも幼馴染を自称する編入生と気安い関係性にあるように見える」という感じの、恋バナ的にはとても盛り上がりそうだが、当事者としてはたまったもんじゃない状態なのである。よくそれでマナとうろついていたものである、かえって勲章ものだと自画自惨する。


 というより、ここまで俺に関するぶっ飛んだ噂を流しまくっても、女子は絵梨華を嫌っているようだが、男子は絵梨華支持者以外でも絵梨華への拒否反応を示す人間が少ないように見える。それに関して智に聞いてみたのだが、


『男子に嫌われてるのは、どちらかというと安藤だね。まあ嫌われている、だと語弊があるかな。軽んじられているというか』

『はい? どういうことだ?』

『君に関する噂の出所は安藤らしいんだ。安藤は元々1年では隣のクラスにいたらしいんだけど、女子グループの中でも孤立気味で、寧ろ男子との交流の方が多かったらしい。金髪に年中染めていて可愛い系だから、男子からの人気も高かったんだ。隣のクラスだったから僕もよく知らなかったんだけど』

『まあ、なるほど?』


 竹中の件や安藤が直接話しかけてきたこともあって、俺は安藤が噂を流しているだろうとは思っていた。だが、まさか男子経由だったとは。


『ところが君に関する噂を流し始めて、最初は男子もそれを信じていたんだが、話が荒唐無稽になっていくにつれて、話題作りで男子の気を引こうとしているんじゃないかって、敬遠され始めているらしい。でも一応金子が外っ面を取り繕っているから、男子の多くは金子発の情報だと、最低でも信じきっている訳ではなさそうなんだ』

『……俺は絵梨華の本性を知ってるから、あの絵梨華ならやりそうって思うけど、一応これまで装ってきたクールキャラを表向き崩してはいないしなぁ……』

『一方で女子はそもそも安藤のことを信用していないし、安藤が態々君に関する噂を流すメリットがないことと金子と安藤の仲が良いことから、半ば金子が元締めだって確信してるくさいね。だから君に関する噂から2人を忌避していて、寧ろ君の方に同情的』

『というか智、お前そんな情報どこから拾ってくるんだ? クラスの男子全体とか女子全体の状況なんて、どうやって分かるんだ?』


 智が不思議なのは、自分は群れるのが嫌いなのに、やけにクラス内ヒエラルキーやグループに詳しいところだ。俺なんかまるでそういったところは分からないのに。すると智は何でもないように口を開いた。


『別に男子は普通に混じって話を聞いていればいい。難しいなら影でコッソリ。女子は……まあちょっとしたツテがあってね』


 その女子の側のちょっとしたツテを俺は知りたいんだが……しかし、智は言わない方が良いと判断したことに関してはトコトン口を割らないので、俺もそれ以上追及はしなかった。

 ともあれ、そんな感じの状況の俺は、男子に自称幼馴染扱いされているマナと組ませられるか、それとも絵梨華側が無茶を通して絵梨華と組ませられるかというほぼ2択の上に立っていた。勿論そんなの気にせずにガチガチに効率重視で組まされる可能性も残ってはいるが。


「なあ、絵梨華と組ませられる確率はどれくらいだと思う?」

「金子の思考回路と、その間接的な手駒たちの態度次第かな。君の話の限りだと、金子は君と復縁したい可能性があるが、確実に君の方から土下座でもしないと復縁を認めないだろうという、ちょっと訳の分からない状態に陥っているはずだ」

「話聞いただけやと、とんでもあらへんな。でも言われてみると分かるわ、あれは澄ましとるけど、裏で何考えとるか分からへんタイプや」


 なお俺に関する荒唐無稽な噂話はマナにも入っているらしく、興味を持ったマナが俺に色々聞いてきたので、今やマナも俺が知っている高飛車で我儘な側面を承知している。


「金子的には、ここで無理やり組ませられたから、クラスの為に協力しようと渋々君に持ちかける、みたいな構図が1番理想的だろう。そうすれば自分の自尊心を傷つけることはないし、しかもここで君が非協力的な態度を見せれば格好の非難の的にできる」

「でもその構図を作るには、委員に誰か絵梨華に近い人間を送り込まないといけないってことだろう?」

「その通り。だけど今回の場合、金子への下心から金子を盲目的に支持する連中を送り込む訳にはいかない。何故なら、彼らは『君を屈服させた上で復縁したい』という金子の思惑とは違って、『金子と最終的にはくっつきたい』と思っているからね。だから委員になんてしてしまえば、自分たちと金子を同じチームにしようとするだろう。そうすると金子にとっては都合が悪い」


 ほら、見てごらんよ。そう言ってちょいちょいと教室の、俺から見て右斜め後ろを指差す智。そこには……


「はい! はいはい! 運動委員に立候補する!」


 と、バカみたいに大声を上げる男子が1人。その酷い癖毛はどうやら直らないらしいと最近気づいた奴さんは、大橋何某というらしい。名前は忘れた。始業式の日に突っかかってきて以来、何かと俺に絡んでくる急先鋒だ。頭文字「お」の為、「か」の金子絵梨華とは席が1つ前ということもあり、絵梨華の不機嫌そうな顔に真っ先に反応する、智曰く忠犬である。


『だって彼の癖毛、犬耳に見えるし』


 という智のセリフで爆笑して以来、大橋の頭の上で揺れる癖毛がぴこぴこ動く犬耳にしか見えなくなって、地味に笑いを堪えるのに困っていた。そんな奴が、騒ぎ立てながら手を挙げている訳である。他にも数名手が挙がっている。

 しかしそんな大橋の1つ後ろの席では、当の絵梨華が大橋の背中を甚だ不愉快そうに睨みつけていた。まず彼らを都合よく利用しておきながらこの態度であるから、俺が攻撃されているのに気の毒に見える。


「男女1名ずつだっけ? 男子委員はつまりどう転んでもいいが、安藤とかが女子委員になられると俺と絵梨華が組ませられるかもしれないってことか。絵梨華が自力で立候補かけるとは思えないし」

「まあ安藤以外にも金子に近い女子はいるだろうけど、安藤が1番マズいだろうね」

「ふ〜ん……ほなら、ウチが立候補したろか?」

「は? いやいや、それでいいのかマナ?」

「なんや面白そうやし、ウチがやる方が安心やろ?」


 智と顔を突き合わせていると、横から突如マナが運動会委員に立候補するとか言い出した。別にそれ自体は本人の意思だから構わないが、今この場で言いだしたものだから、俺はマナの真意を図りかねた。


「いやまぁ、勿論やりたいなら立候補してやればいいとは思うが……」

「心配せんでも、無理はしてへんって。それにこういう運動会委員とか、中学にはなかったから新鮮なんよ」


 そう朗らかに笑うマナに、目立った他意はなさそうに見える。こちらとしてはマナが変なことをしでかすとは思っていないし、投票で安藤に負けるとも思えない。何より面白がって周囲に俺とマナを組ませられるよりは、マナが自力でチーム割りをした方がいいだろう。

 それに、もし大橋みたいな奴が相方になっても、マナならどうにかなるという安心感もあった。大橋は俺に毎日のように突っかかってくるのだが……


『だから、こいつは裏口入学の可能性があると……!』

『知らんかったわ、この学校裏口なんてあるんやな。トッキー、ちょっと案内してくれへん?』

『別に裏門はないぞ? うちの高校、後ろは小高い山だから出られる道はない』

『なんや、嘘なんか! 大橋君は嘘ばっかつきよるなぁ〜』

『え、いや……』


 この通り、いつもマナにボコボコにされている。最初の頃は編入生で何も知らないのを出汁にしていたが、最近はおちょくり度合いが次第に加速している気がする。からかっている当の本人は完全に楽しんでいるが、毎度からかわれる大橋はたまったものじゃないだろう。自分から来ている以上同情の余地はないのだが。

 ともあれマナはそのまま立候補してしまい、何事もなく委員に選ばれた。安藤も手を挙げはしたが、マナ相手には分が悪かったようだ。一方男子の方は、大橋含め絵梨華の取り巻き組が女子票が全く流れずことごとく敗退し、結局それ以外の人間の中から、多分1番やる気があるとかいう理由で竹中が選ばれた。


「これからよろしゅうな、竹中君」

「ああ、よろしく頼む! まずはどれから手をつけるつもりだ?」

「せやねぇ……」


 竹中と席が近いこともあって、早速打ち合わせを始める2人。猪突猛進系の竹中に、上手いこと会話を誘導して手綱を握るマナ。昔のマナが寧ろ先頭を突っ走るタイプだったことを考えると、どこか面白い構図だった。

 しかし俺はその2人の向こうに、2人の様子をキツく、それこそ絵梨華並みの視線で睨みつける安藤の姿を目撃した。マナに委員を取られただけにしては、その目は余りにつり上がっていた。だがやはり俺が見ていることに気づくと、スッと目をそらしてしまった。

 どこまでいっても、安藤の行動は俺にとって益々理解不能であった。俺の視線に気づくと目を逸らす理由も、分からないままであった。誰がどの舞台に上がれば、安藤の行動の意味を悟れるのだろうか。俺は舞台袖から安藤の様子を眺めることしかできなかった。


言葉遊びって、使い勝手はいいのですが、頭働いてないとロクなもの思いつかないんですよね……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 竹中くんは真面目すぎるから、ふつうにチーム組んで仲直りさせよう!とかクラスメイトに言いそうだわ [一言] エリカはマナとの関係を疑ってそうだから、勘違いの修羅場がはよ来ないかなって期待…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ