カースはモンスターに遭遇する
早いもので一年生になってもう半年が経とうとしている。そろそろ私の誕生日も近いし、魔力測定も近々行われるだろう。
そんなある日、私はふと気になって聞いてみた。
「オディ兄ってさ、友達とどんなことして遊んでる?僕はいつも狼ごっこやゴブ抜き系ばっかりなんだよね。」
「そうだな〜、魔法を使うことが多いかな。
最近は水球をぶつけ合うのが多いかな。逃げたり避けたり防いだり。意外と童心に帰れて燃えるんだよね。ルールや逃げる範囲を色々と変えたりね、水の魔法のみとか、風あり、火なし。または何でもアリアリとか。」
「なるほどー、面白そうだね。ちなみにアリアリだと誰が一番強い?」
「うーんそうだな、ベレンガリアちゃんって女の子かな。発動速度は速いし、制御もバッチリだし、魔力切れしないし、体力もある方だしね。カースの組に弟がいるらしいよ。ダキテーヌ家だったかな。」
「あぁ、パスカル君のお姉さんなんだね。
やっぱり上級貴族ってすごいんだね。」
「と言うとパスカル君も優秀なのかい?」
「そうだと思うよ。魔力も多そうだしね。」
やはり貴族は子沢山なのが普通なのか。
他の子も兄弟姉妹がたくさんいるんだろうな。セルジュ君も四人目だし。
さあ明日は魔力測定だ。
結果はほぼ予想通り。
貴族組全員が十、平民組が五から十の間、四以下はいなかった。みんな順調に伸びているのだろう。
「みなさん伸びていますね。いいことです!
また半年後、今度は春に計りますのでまたしっかり伸ばしておきましょうね。」
ナウム先生は本当に嬉しそうだ。
そんな秋のある朝、またクラスの人数が増える出来事があった。二組から上がってきたのではなく、クタナツに引っ越しをしてきた一家らしい。
「コンスタンタン・ド・アジャーニだ。王都周辺から来た。私の父はここの代官とも縁が深い。私と仲良くしておいて損はないぞ。」
何こいつ?
絶対ピカピカの一年生じゃないだろう。テカテカの縮れっ毛だな。
確か代官もアジャーニだよな。公爵家だとかって話だが、この辺境オブ辺境のクタナツで通用するのか? 一緒に遊びたくないタイプだな。
一時間目、国語。
「読めん! もっと分かりやすく説明しないか!」
二時間目、算数。
「なぜ五引く三が二になるのだ! 問題が悪い!」
三時間目、魔法。
「このような低レベルの授業など受けていられるか!私は火の中級魔法だって使えるのだぞ!」
暴君ぶりがすごいな。先生に無視されているのは気にならないのだろうか。
昼ご飯。
コンスタンタン君の周りにシェフと執事らしき男性がいる。これは、金持ちがやるアレだ。
弁当ではなくレストランを取り寄せるアレだ。みんな興味津々そうだな。
「皆よ、そう遠巻きに見ずとも美味そうなら摘んでみるとよい。」
おお、無駄に寛大なところがあるのか。その言葉に釣られた平民組は恐る恐る近寄り手をつけている。
「おいしーい! すごくおいしい! こんなの食べたことない!」
「そうであろう。魔境産の素材を王都で修行した料理人が仕上げたのだ。私と言えどもこれほどの料理は毎日食すことはできぬな。」
おお、意外といい奴なのか?
そんな貴重なものを平民にすら振る舞うとは。私は食べないけどね、アレックスちゃんが微動だにしてないからだ。よって私達はいつも通りみんなで弁当をつつき合いながら食べている。
四時間目、社会。
「今日は来月の社会科見学について話し合いましょう。みんなで歩いて第三城壁の内側を一周するわけですが、何に注意すればいいかな?」
「この私がいるのだ、何も案ずることなどなかろう。代官府の中ですら立ち入ることもできるぞ。」
「あらあらアジャーニ君、代官府は今回のコースとは関係ないわ。あと発言する時は手を挙げようね。」
「貴様誰に物を言っている! 私はコンスタンタン・ド・アジャーニであるぞ! 平民教師風情が!」
「そうですね。先生が悪かったわ。アジャーニ君のような高貴な方への対応はどうしたらいいか校長先生に相談してみるね。」
「ふむ、分かればよいのだ。」
うわー、これは間違いなくモンスター生徒だ。異世界にもいるのか。やたら父上や母上が、『王都の貴族はろくでもない』と言っていたのはこれか。
それにしても、社会科見学か、楽しみだな。
五時間目、体育。
今日は久々のコボルト狩りだ。コンスタンタン君は逃げようともしない。
「よもや私に当てようなどとは思うまいな?」
何か言っている。誰も彼を狙わない。
それを得意顔で佇んでいる。楽しくないだろうに。
少し心配になったが、関わりたくないしどうでもいいか。
もうすぐカースは六歳。
突如現れた最上級貴族との邂逅、如才なく対応できるのだろうか。アレクサンドリーネと同じだと考えていると痛い目にあうかも知れない。




