14 信用されてる
アルが戻ってきて、一段落ついたところで用意された客室に通された。
ティルナノーグの王都は川の上にあって敷地が限られてるせいか、フェアリー族に小柄なタイプが多いためか、オレの感覚からすると部屋は狭めに感じる。何なら、ダニエルに軟禁されてた部屋の方が広いかも。
だけど、室内の装飾は――特に絨毯や壁紙、タペストリーなどは凝っていて色鮮やかなものが多く、さすが繊維の国と思わせる。
びっくりしたことにアルと同室だと言われたのだけど、咄嗟に疑問を呈しそうになったところでアルに嗜められた。
部屋に入って、2人きりになったところで改めて説明される。
「お前を1人にしておくのは不安だから、俺が頼んだんだ。ティルナノーグ王には話したが、それ以外のフェアリーには俺がもう王子ではないことは伝えてないし、同室にしてほしいって願いは問題なく通った」
「えっ……いや、待って。ダメだろ、それ……」
「何が?」
「何って……その、一緒に寝泊まりとか……」
「馬車に乗ってた間も、その前にラインライアを目指していた時も2人きりだっただろ」
「いや、それは――」
言いかけて、どう説明しようか迷った。
野外だから平気だったんだって言い方もおかしいし、じゃあ何で野外なら良くて室内はダメなんだって言われそうで。
この辺、淫欲が封印されてるってのに、困ってしまう。オレの世界なら「常識だろ」って終わることなのに、そんな言い方じゃ通じない辺り。
あ……いや待て。
そう言えば、こっちの世界でも密室はヤバいんだよな。2人きりで閉じこもって何かすると子どもができちゃうんだって聞いたぞ。
よし、それだ!
「――あのほら、オレとあんたと2人きりだと、何かの拍子に間違いがあって……あっ、そ、その、こ、こここ、子どもとかできちゃったり……」
「あ、うん……いやその、それは……」
大したこと言ってるつもりはなかったんだけど、アルの顔見てると向こうがどんどん赤面してくから、オレまでつられて赤くなってしまった。
いや、何で照れてるのかっていう照れるポイントは全く分かんないんだけど、何か……そんな顔されると、オレが何か恥ずかしいことを言ってるって感じがしてきてしまって。
視線を逸らし、片手で目元を覆ってるアルセイスの首筋は既にに真っ赤だ。
やっぱオレ何かすごいこと言っちゃったんだろうか。心配になってきた。
「いや……それは、別にそんなこと気にしなくて良い。お前がそういうの知らないってことは一緒に旅してる間に理解したから。お前にそのつもりがあれば、今まで何度だってそのチャンスはあったんだ。なのに、お前はそんなことしないって、その……すごく良く分かったよ」
「お、おお……?」
そんなチャンスがあったのか? いや、分からんし。
どのタイミングのことを指してるのか、その時何をすればどうなったのかも分からんし!
「だから、俺はお前を信用してる。お前に何かされるかもなんて余計な心配より、お前をどうやって守るべきかの方が気にかかる」
手のひらの端からちらりと横目でのぞいてきた青い瞳と視線が合って、何て答えるべきか悩んでしまった。
いや……オレは分かってないだけで、その……そんな無防備に信頼されても困るぞ!?
だけど、まさか「オレを信用するな」なんてことも言えない。アルセイスに信じて貰えるのは単純に嬉しいってこともある。
迷った結果、どうしようもなく大人しく頷いたオレを見て、アルは微かに目元を和らげたのだった。
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「と、とにかく、確認しよう、流水布を」
「うん」
机の上にフェアリー達から貰ってきた流水布を置いてみた。傍目に見れば、机の上に、そこだけ屈折率が変わっている部分があるだけのように見える。
目を細めて流水布を見ようとするオレを、アルが隣に腰掛けて、まっすぐ見てる。横顔とは言え、そんな真剣な顔で見つめられると気恥ずかしいんだけど、指摘すれば墓穴を掘りそうで、黙ってスルーした。
流水布を持ち上げて、伸縮具合を確かめてみる。
……うん、柔らかめのゴムに近い弾力だ。これなら十分ぱんつのゴムの代わりになりそう。
「遠目に見たときは蜘蛛の糸みたいなものかと思ってたんだけど……すごいな。ティルナノーグでは、これを洋服に使ったりしようと思わなかったんだろうか」
「さっきヘルガも言っていたと思うが、流水糸は俺たちにとっては高級建材だからな。そもそも衣服に使うって発想がないし、使ったとしても市販出来る程に量産出来ない。今ここにあるこの程度の量でも、作るのにどれだけの手間がかかっていることか……」
オレ達の前にあるのはお試し用のせいぜい10cm四方の布切れだけど、これだけでも財産になるらしい。オレがヘルガの恩人――ということになってなければ、手に入れることは出来なかっただろう。
「ヘルガ姫サマサマだなぁ」
「そうだな。そもそも、裁つことが出来ない布だから、必要なサイズについては布を織る時――いや、もっと前の段階で糸を紡ぐ時から指定が必要だ。そんな頼みに応じてくれるのも、お前がヘルガを救ったからだな」
「……そこんとこ、どうもオレにとってはオレの手柄って感じじゃないんだけどなあ」
「魔王の手柄だろ、別に良いじゃないか。同一人物なんだから」
納得いかない部分ではあるけれど、反論する論拠もない。
オレは黙って流水布を机に置いた。
「で、これを使ってどんなぱんつを作るんだ? デザインはもう決まったのか」
「さっきヘルガとある程度詰めたよ。ぱんつゴムになる流水布が出来上がるまでに、縫えるとこまで縫っとこうと思うけど」
ヘルガから端切れも貰ったし、デザインに合わせた型紙まで作って貰ったのだ。こっちはこっちで完成に向けて進めておきたい。
布に型紙を当てていると、アルセイスがオレの手元を見ながらぽつりと呟いた。
「……どんな風になるのかな」
「気になる?」
「それは勿論。だって、俺のなんだろ」
「まあ、確かにあんたが穿くことを念頭に置いてるけども……別に全部あんたが穿かなくても良いんだぞ」
「でも、そもそもぱんつ穿くためにはデフォルト下着を脱がなきゃいけない訳だし、ぱんつの威力を知らないヤツはそうはしたがらないかもしれない。なら、俺が穿くのが一番無難だな」
「いや、それはそうだけど……でももし、出来たぱんつがすっげぇ変なデザインだったらどうするんだよ?」
斎藤さん曰く、ぱんつはたくさんのデザイン作る程早く封印が解けるらしい。
ってことは、少々変だと思っても、ぱんつは作ってしまえば次への礎となる訳だ。
なら、例えばそれこそ紐のみで出来たオール紐ぱんだって作ってしまえば……なんて欲望に、オレが負ける日がもしかしたらくるかもしれない訳だけど。
手元からちらりと視線を上げると、アルセイスはちょっとだけ首を傾げてから、困ったように眉をひそめた。
「作ったのはお前なんだから、当然、お前は穿くとどんな感じになるのかって確かめたくなるよな」
「……いや、まあ。穿いてくれる人がいるなら」
「俺が穿いてるところ、見るのがお前だけなら良いよ」
「んなっ――!?」
力が入りすぎて、盛大に型紙がずれた。
慌てて手の位置を戻して、顔を上げる。
割と真剣に考えている様子のアルと目が合って、どきりとした。
「お前なら、笑ったりしないだろ」
「笑っ……たりは、しないけど――」
しないけど、もっと違うことは考えるかもしれない。
ほんとはそっちの方がよっぽど悪い。
そう答えようとして、でも言えなくて、オレは黙って目を伏せた。
もうこの人に隠してることなんて何もないのに、何故かいつもまっすぐ顔を合わせられないのは何故なんだろう。
これじゃまるで、悩んだり困ったりしてるのはオレだけみたいだ。




